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ケータイの技術とマナーが追いかけっこ――ネットワーク社会とライフスタイルワークショップ、パネル討論から

1999年12月02日 00時00分更新

文● 船木万里

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11月30日、東京新宿の工学院大学において催された“ネットワーク社会とライフスタイルワークショップ”では、“ケイタイとライフスタイル~その健全な発展のために~”というテーマでパネルディスカッションが行なわれ、活発な討論が交わされた。

司会は東洋大学社会学部教授の三上俊治氏。日本電気の明石司氏、NTT DoCoMoの田中利憲氏、携帯電話行動研究者の松田美佐氏 、携帯電話ユーザー代表の目黒貴子氏、4名がパネリストとして登壇。セールス、開発、分析の専門家、そしてユーザー代表という多彩な顔ぶれとなった。

左から、日本電気の明石司氏、NTT DoCoMoの田中利憲氏、携帯電話行動研究者の松田美佐氏、携帯電話ユーザー代表の目黒貴子氏
左から、日本電気の明石司氏、NTT DoCoMoの田中利憲氏、携帯電話行動研究者の松田美佐氏、携帯電話ユーザー代表の目黒貴子氏



司会を務める、東洋大学教授の三上俊治氏
司会を務める、東洋大学教授の三上俊治氏



文字情報媒体としてのケータイ

まず、三上氏が目黒氏に消費者の立場からの発言を求めた。

携帯電話ユーザー代表の目黒貴子氏
携帯電話ユーザー代表の目黒貴子氏



目黒氏は「毎日4時間近くケータイでしゃべったりショートメールを利用しており、自分はヘビーユーザーであるという自覚を持っている。経済的には大変だが、友人との交際に便利」と話した。

携帯電話利用について研究している松田氏は「このごろは若い世代がポケベルに代わってケータイのショートメール機能を利用している。全体的に見れば、文字を打つのが楽しいというポケベル利用の積極性に比べ、ショートメールは経済的だからという消極的な利用が目立つ。しかし女子高校生などでは、文字を交換する遊びとして積極的にショートメールを楽しんでいる様子がうかがえる」と、若い世代におけるケータイの利用法について語った。

田中氏は、開発側の立場から「ケータイが、電話機能だけではなく文字情報媒体として受け入れられているのは、ポケベルによる文字交換ブームが、ケータイの文字情報機能を気軽に利用できるような土壌を作ったからではないか」と考える。
 
明石氏は「音声だけでなく、文字通信を利用するなど、コミュニケーション手段が豊富になるのは望ましいことだ。しかし、自分でショートメールを開発したくせに、あまり使っていない。世界的には文字情報中心のモバイル機器が以前からあったが、日本で大きくブレイクしたのは、やはり新しい機能を素直に受け入れて利用していく若年層のパワーがあるからだろう」と推測した。

ショートメールを開発した日本電気の明石司氏
ショートメールを開発した日本電気の明石司氏



目黒氏が「ショートメールは、電車内や仕事中の空き時間など、声を出しておしゃべりできない環境にあるときの暇つぶしに最適。ポケベルは文字数も少なく、入力に手間がかかるため、挨拶程度の利用だったが、ショートメールでは25文字送信でき、入力も簡単。しかし、すぐに返事をもらえないと面白くないので、気心の知れた女友達とだけ交換している」と話した。

これに対し、三上氏が会場内に感想を求め、先に招待講演を行なった東京経済大学の吉井氏を指名。

吉井氏は「以前は、ポケベルに応えるため、たまに教室を走り出ていく学生もいたが、最近はいない。どうやら学生たちは、授業中にケータイを利用してメールを交換しているようだ。我々教える側は、メールに負けない面白い授業をしないといけなくなってきた」と笑いを交えながら語った。

ケータイ利用マナーを考える

こうした発言に対し、田中氏が「授業中や電車内などでの利用のマナーをいかに作っていくかも、大きな問題だ。ケータイ利用に関する社会的苦情は、技術ばかりが進化していくことに対する警告といえるのかも知れない」と発言。会議は、ケータイの社会生活におけるマナーへと話題を移した。

NTT DoCoMoの田中利憲氏。ケータイの苦情を分析
NTT DoCoMoの田中利憲氏。ケータイの苦情を分析



松田氏は「若い世代ばかりがマナーの悪さを指摘されるが、大人でも会社で電子メールを私用で利用するなど、メールでのちょっとしたおしゃべりは、どの世代にも共通していることだ。しかし、電子メールのやり取りではある程度ネチケットが成熟しているのに対し、ケータイでは、そうしたマナーを教育する場がなく、周囲の状況をわきまえない利用やチェーンメールなどが横行している。ケータイとどう付き合っていくかを教える機会を作らなくては」と、教育の必要性を語った。

会場からは「演劇などの上演時や飛行機の離発着時に電源を切らない人には、重度の罰金を課すなどの法的規制が必要なのではないか」との厳しい声が上がった。

また、ペースメーカーをつけている人に対しては、命が掛かっているのだから技術的にどうにかならないのだろうかという議論が起こった。

田中氏は「ペースメーカーを検出するなどの技術は不可能ではないと思うが、やはり企業としてはその技術開発に見合うものがないと……」と言葉を濁した。

会場の吉井氏は、再度の指名に応え「電車内では“高齢者に席を譲らない”、“大声で客同士がしゃべる”などのほうが、ケータイでの通話よりも迷惑に感じている人が多い。しかし、席を譲らないなどの行為は迷惑として常識だが、ケータイの迷惑度は、ポジションがまだはっきりしない。新しい機器には新しいマナーが要求されるもので、利用している人同士では点が甘くなったりもする」と述べた。

ユーザーとして目黒氏は「確かに周囲の迷惑になることもあるので、使い方は考えなくてはいけないが、電車内などで緊急に連絡を取りたい時にも利用できないのでは、ケータイの価値がない。できれば個人の裁量にまかせ、あまり規制してほしくない」と語った。
明石氏は「他人に自分を伝えたいという希望をかなえる道具として、モバイル機器は発達してきた。社会的マナーを考慮しなくてはならないところも多々あるが、あまりに利用を規制していくと、せっかく開発してきた機器の存在価値を否定してしまうことになる。今後、通信手段がさらに多様化していく中で、議論しながらマナーを作り出していけばよいのでは」と、今後の展開に期待を寄せた。

ケータイ利用について語る目黒氏(右)と松田氏(左)
ケータイ利用について語る目黒氏(右)と松田氏(左)



ケータイによるライフスタイルの変化

三上氏に「ケータイによる生活の変化はありましたか」と問われた目黒氏は「ケータイを持つことでいつでも外出でき、深夜でも家族に気兼ねすることなく友人と連絡が取れる。また、気軽に番号を教え合うことで友人の数も増えた。一方、電源を切ることはほとんどなく、ケータイがそばにないと不安になる。テレビはあまり見なくなったが、インターネットを見ながら電話するなど、何かをしながらおしゃべりを楽しむことが多くなった」とライフスタイルの変化を語った。

松田氏は「ケータイを持つことによって、子供の電話を親が取らなくなり、人間関係が不透明になった部分もあるが、逆に女性が外出先で家族と連絡を取ることが容易になり、また安否を確認できるため、家族が安心できるようになった。共稼ぎの家族間などでは、家事に関する連絡なども取りやすくなっている。ケータイによって家族関係が変化するのではない。既存の家族関係がどう築かれてきたのかが重要」と、既存のライフスタイルを強化するために利用されていることを強調した。

携帯電話行動研究者の松田美佐氏
携帯電話行動研究者の松田美佐氏



ケータイの発展に伴って、固定電話の未来は今後どうなるのだろうか? という話題では、ケータイユーザーである目黒氏も「信用度が高く、やはり必要なものだと思う。1人暮らしをするとしたら、固定電話も契約するつもり」と話し、また会場からも「社会的なライフラインとして、NTTには公衆電話を残してもらいたい」との声が上がった。

最後に、三上氏が会議を総括して「ケータイはマルチメディア的にどんどん進化を遂げるが、今後は21世紀情報化社会のライフスタイルに対し、具体的イメージを持って開発していかなくてはならないと考える。本会議のようにユーザーの生の声を聞くことで、また新たな視点から新技術を開発してもらいたい。今後は生活者の実態やニーズをさらに調査し、研究することが必要なのではないだろうか。われわれ社会学者も協力し、開発側、生活者側双方と対話を続けながら、望ましい環境を模索していきたい」と、技術開発側と生活者を結ぶものとして社会学を位置づけ、相互協力によってよりよい社会環境を構築したいと締めくくった。

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