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社会を変えていくネットワーク――“ネットワーク社会とライフスタイルワークショップ”(前編)

1999年12月01日 00時00分更新

文● 船木万里

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11月30日、東京新宿の工学院大学において、“ネットワーク社会とライフスタイルワークショップ”と題した研究会が開かれた。主催は、(社)電子情報通信学会の“ネットワーク社会とライフスタイル時限研究専門委員会”。午前中には一般講演、午後は招待講演とパネルディスカッションが行なわれ、21世紀情報社会に向けての意見が交わされた。

開会の挨拶を述べる、郵政省通信総合研究所の久保田文人氏
開会の挨拶を述べる、郵政省通信総合研究所の久保田文人氏



高齢者・障害者の移動支援システム設計に向けて

10時から始まった一般講演では、まず郵政省通信総合研究所の矢入郁子氏と猪木誠二により“高齢者・障害者のための実世界ネットワークインタフェース”と題した発表があった。

スピーカーは、郵政省通信総合研究所の矢入氏
スピーカーは、郵政省通信総合研究所の矢入氏



同研究所では、今後の高齢化社会に向け、実世界ネットワークインターフェースによる、障害者や高齢者の移動支援についての研究を進めている。アンケート調査を行なった結果、付添人が必要な障害者・高齢者でも、付添依頼に対し精神的ストレスを感じていたり、1人での移動を要望していることが分かったという。

このようなニーズに応え、聴覚、視覚、下肢機能障害など、さまざまな障害における移動支援を、1つの共通システムで実現していくためには何が必要なのかを研究中。

「道路にセンサーを設置するなどの“環境におけるシステム構築”と、機能障害者用電動スクーターや携帯端末をリンクさせた、高齢者・障害者用の“共通利用システム”を実現していきたい」と語り、今後さらなるヒアリングを重ねてニーズの分析を行なう考えであると表明した。

仮想社会でのPHS利用

次に、ソニーの上野比呂至氏、松田晃一氏、電気通信大学の辻貴孝氏、クリーク・アンド・リバーの谷島亘氏が、“仮想社会PAWにおける携帯電話機能の利用形態とその影響”についての研究を報告した。

PAWとは、so-netが提供しているインターネット上の仮想社会。ユーザーは仮想ペットを伴って500m四方の島内を歩き回り、知人とチャットを楽しんだり、アイテムを収集、あるいはイベントに参加する。この仮想の島内で、知人とコミュニケーションを取るため、今年5月から仮想PHS(携帯電話)機能が利用可能になった。
 
PAW内では、現実世界と同様に、会話をするためには相手のそばにいなければならない。一方、アイテム収集などのために仮想空間を移動するという楽しみもユーザーには欠かせない。お互いが移動している場合、しゃべりたい相手と会うためにはアポイントを取る必要がある。こうしたニーズを満たすため、遠距離(仮想社会内での距離)でもコミュニケーションを可能にする手段として、PHSを利用できる機能を付加した。

調査によると、PAWにおいては、コミュニケートする相手は1人~5人が一般的。現実の携帯電話の利用形態と重なる部分がある。

上野氏は「現在、PHS機能の利用率は20パーセント未満で、すべてのユーザーに浸透しているわけではないが、今後さらなる機能を追加して、より強力なコミュニケーション支援を行なっていきたい」と語った。

ソニー、スープラストラクチャセンターモバイルプラットフォーム開発部の上野氏ソニー、スープラストラクチャセンターモバイルプラットフォーム開発部の上野氏



消費者サポート告発問題の世論分析

“インターネットにおける世論形成過程の研究――消費者サポート告発問題の事例から――”は、東洋大学教授の三上俊治氏、東洋大学博士課程の高橋奈佳氏によって発表された。

会社員A氏が、T社のサポート対応の悪さに不満をもち、今年6月にウェブで告発することに端を発した“消費者サポート告発問題”。これは、ネット上の掲示板で議論が巻き起こり、メーカー側からのウェブ一部削除を求める仮処分申請へと発展した。一般のマスメディアに取り上げられたことから大きな反響を呼び、T社に対する批判が高まって、7月19日にはメーカー側がA氏に謝罪、訴訟も取り下げとなった。

インターネットにおける世論形成の動きを追う、東洋大学の高橋氏インターネットにおける世論形成の動きを追う、東洋大学の高橋氏



高橋氏はこうした世論の動きを追い、Yahoo!掲示板“T社サポート問題について”に掲載された発言を対象として分析。その結果、マスコミ報道の広がりとともに掲示板へのアクセス数が増加し、多様な意見が活発に交換されるという“発言数とマスメディアとの関連”が明らかになった。新聞への掲載、テレビニュースでのキャスターの発言など一般マスメディアにおける言及に応じて、掲示板での発言内容も推移していく。A氏に対しては擁護派が圧倒的で、仮処分申請などの動向からT社批判の動きが高まり、また訴訟取り下げに応じて批判も収束していく。

今回の事件における分析によって、ネット内世論の高まりからマスメディア報道が始動し、その後のインターネットでの意見形成促進には、一般的な新聞、雑誌、TVなどのマスメディアが大きな役割を果たしたことが分かった。「今後、社会制度に関わるような問題がネット内で議論された場合、“ネット内世論”が“ネット外世論”に大きな影響を及ぼしていく可能性も大きい」と高橋氏は述べ、インターネットという公共圏内での世論形成分析に新たな意欲を示した。

情報の電磁方式流通におけるコミュニティーの役割

次に、“情報の電磁方式流通におけるインターネットコミュニティーの役割”について、佐成特許事務所の佐成重範氏が発表した。
「インターネットにおけるアクセス状況は、急激な発展に伴い、先進国でも質量が明確に把握できていないのが現状である。しかし今後は、高度技術のさらなる発展も相まって、インターネットが情報流通の発着を自由化していくだろう。そして、地域密着型とグローバル拡散型に二極化したコミュニケーションが発展し、インターネット利用者のライフスタイルも、統合化と個性化の双方を促進できる機能を備えていくだろう」と、21世紀情報社会を予測した。

「インターネットが情報流通の発着を自由化していく」と語る佐成氏
「インターネットが情報流通の発着を自由化していく」と語る佐成氏



ライフスタイルの変化に応える技術

午前中、最後の講演では、“ネットワーク社会におけるライフスタイルの変化に応えて――次期ネットワーク構想PRISM”と題し、日本テレコムの濱中淳宏氏が発表した。

2005年には現在の23倍の通信量になるという予測を踏まえ、これからの通信事業者には何が求められるのか、社会の変化とニーズに応えるマルチメディアサービスについて語った。

次期ネットワーク構想を提案する、日本テレコム情報通信研究所の濱中氏
次期ネットワーク構想を提案する、日本テレコム情報通信研究所の濱中氏



「物理的に束縛されない新たなネットワーク社会の提供のため、事業者は高度な制御を不要にする必要がある。プロトコルスタックを簡易化した“ステューピッド・ネットワーク”の導入を図り、サービスの利便性を向上させるべきである」と述べ、セキュリティーへの対応や、より高度な機能を提供する次期ネットワーク構想を提案した。

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