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課題残すオンデマンド出版のこれから――オンデマンド印刷を考えるシンポジウムより

1999年11月24日 00時00分更新

文● いちかわみほ

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『本とコンピュータ』編集室は、大日本印刷(株)と協力して、オンデマンド出版の実験プロジェクト“HONCO on demand”を開始した。これを記念して11月22日に新宿、紀伊国屋ホールで元スェーデン作家協会会長ペーテル・クルマン氏を招いてシンポジウムを開催した。スウェーデンで'97年からオンデマンド出版を実践しているクルマン氏の講演と、主催である『本とコンピュータ』誌の津野海太郎氏などを交えたパネルディスカッションを繰り広げた。

在庫を抱えず、必要部数を必要なときに

オンデマンド出版は、インターネット注文とオンデマンド印刷を組み合わせたシステム。インターネットなどで注文を受け、オフセットといった従来からある印刷機ではなく、小回りの利く印刷機を使ったシステムを使うことで、少部数印刷に対応する。必要なときに必要な部数だけを印刷するので、出版社は余分な在庫を抱える心配がなくなる。スウェーデンでは、数年前から複数の団体がオンデマンド出版を実践している。

津野海太郎氏。『季刊・本とコンピュータ』の編集長。“HONCO on demand”第1弾の出版物『誰のための電子図書館?』を執筆している
津野海太郎氏。『季刊・本とコンピュータ』の編集長。“HONCO on demand”第1弾の出版物『誰のための電子図書館?』を執筆している



日本でのはじめてのオンデマンド出版となる“HONCO on demand”。会場で販売された5冊のうち、『(手の仕事)再発見』は、当日売り切れになるほどの人気だった
日本でのはじめてのオンデマンド出版となる“HONCO on demand”。会場で販売された5冊のうち、『(手の仕事)再発見』は、当日売り切れになるほどの人気だった



絶版本の復活や狭い市場に可能性

今回講演を行なったペーテル・クルマン氏は、オンデマンド出版を行なう団体の1つ、オンデマンド出版連合“podium(ポーディウム)”の主催者。講演では現在のスウェーデンの出版事情やオンデマンド出版の実際について詳しく紹介した。

ペーテル・クルマン氏。スウェーデンで活躍する詩人、ジャーナリスト。'インターネットを活用したオンデマンド出版に97年から携わっている
ペーテル・クルマン氏。スウェーデンで活躍する詩人、ジャーナリスト。'インターネットを活用したオンデマンド出版に97年から携わっている



スウェーデンでは、'70年に再販制度が廃止され、ベストセラー本しか書店に置かれなくなった。この問題の解決策として、クルマン氏らはオンデマンド出版を選んだ。インターネット上の注文がダイレクトに印刷機に送られ、必要な部数だけが印刷される。できあがった本は取り次ぎから書店を経由して、注文者の元へ届けられるというシステムになっている。

クルマン氏は「オンデマンド出版は絶版本の復活だけでなく、大手出版社では対応しきれないニッチな市場に向いている。例えばスウェーデンの国民の1割は他国語を使っている。スペイン語やクルド語の本は本屋に行っても手に入らない。そのような狭い市場に可能性がある」と、podiumのサイト解説も交えながらオンデマンド出版の生かし方についても提案した。

オンデマンド印刷に使われるのは、主に普通紙複写機(電子写真)の機能を向上させたタイプか、Computer To Plateといって、製版フィルムを介さずに、デジタルデータから直接、刷版を制作するタイプのどちらか

ニッチ市場に対する“カスタム化された出版”

講演のあとのパネルディスカッションには、クルマン氏、筑摩書房の常務取締役である松田哲夫氏、『季刊・本とコンピュータ』の編集長である津野海太郎氏、大日本印刷のCC本部長である加藤恒夫氏が参加。オンデマンド出版の意義や問題点について、活発な議論をした。

左から司会を務めたオンライン版『本とコンピュータ』編集長の室謙二氏、オンデマンド出版連合“podium(ポーディウム)”主催のペーテル・クルマン氏、『本とコンピュータ』編集長の津野海太郎氏、大日本印刷ICC本部長の加藤恒夫氏、筑摩書房常務取締役の松田哲夫氏
左から司会を務めたオンライン版『本とコンピュータ』編集長の室謙二氏、オンデマンド出版連合“podium(ポーディウム)”主催のペーテル・クルマン氏、『本とコンピュータ』編集長の津野海太郎氏、大日本印刷ICC本部長の加藤恒夫氏、筑摩書房常務取締役の松田哲夫氏



まず松田氏が、オンデマンド出版を行なうための団体が日本では成立しにくいことから、既存の出版社が通常の出版のかたわら、オンデマンド出版をやっていくような形になるのではないかと推測した。これに対しクルマン氏は「That's Right(その通りです)」とだけ回答、場内が笑いに包まれるシーンも見られた。その後、「ニッチ市場に対して提供する“カスタム化された出版”がオンデマンド出版の意義だ」とクルマン氏は述べた。

続いて加藤氏が、オンデマンド出版に残る3つの問題を提起した。3つの問題とは、コンテンツの確保、低コストの製本技術、流通、決済システムに関して。これらについて話し合おうとしたところで閉場時間となり、議論の場は『季刊・本とコンピュータ』誌と、同誌ウェブサイトにある『100日議論』に移されることとなった。

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