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デジタルハリウッド、Mac関連のトークライブ“デジタルで変わる人生”を開催

1999年10月25日 00時00分更新

文● MacPeople編集部 寺林暖

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23日、マルチメディアスクールのデジタルハリウッド横浜校において、“Macの達人スペシャル~デジタルで変わる人生~”と題したトークライブが行なわれた。ゲストは、CM制作監督を務めるアートディレクターの谷田一郎氏。司会は、Macintosh専門誌MacPOWER、MacPeople編集長の石坂康夫氏が務めた。

ライブの冒頭には谷田氏の作品をスクリーンで紹介。ラフォーレのテレビCM、サントリーの『ビタミンウォーター』や『カクテルバー』、ホンダの『HR-V』、木村拓也が出演している(株)TBCのエステティックサロンなどのCM作品が次々と上映された
ライブの冒頭には谷田氏の作品をスクリーンで紹介。ラフォーレのテレビCM、サントリーの『ビタミンウォーター』や『カクテルバー』、ホンダの『HR-V』、木村拓也が出演している(株)TBCのエステティックサロンなどのCM作品が次々と上映された



衝動的にファインアートの道へ

谷田氏は大学卒業後、デザイン事務所に就職し、上司の指示を受けて次々と仕事をこなしていた。だが27歳の時に、自分が大学時代にやり残したこと~ファインアート~を衝動的に始めたくなったという。商業的なデザインに嫌気がさしていたことも重なり、デザイン事務所を退社。以後、毎日油絵を描いたり、粘土をこねたり、仲間と飲みに行ったりする日々が続いたという。

2年もすると、貯めていたお金も使い果たし、何か仕事をして稼がなければいけなくなった。そこで、谷田氏はCG動画を用いた英語のスラング会話集CD-ROMを制作。以来、アダルトCD-ROMで有名なKUKIを含めた多数のCD-ROM制作会社に売り込むようになった。そして、CD-ROM作品の評判を聞いた人たちが、谷田氏をテレビCMの制作に誘ったという。

谷田氏は自分の人生を振り返り、「僕は約7年周期で人生の転機が来ている。21歳の時にデザイン業界へ入り、27歳で職を辞して絵描きになった。計算でいくと、来年が節目の年になると思う」と語った。来年、谷田氏は、“近代芸術集団”の仲間であるイラストレーターのヒロ杉山氏とコンビを組み、東京・青山のワタリウム美術館に映像作品を出展する予定だという。

デジタルハリウッド横浜港の会場には、多数の聴衆が詰め掛けた
デジタルハリウッド横浜港の会場には、多数の聴衆が詰め掛けた



制作現場については、「(自分の)制作スタッフにはデザインやCGの専門家がいるので、自分ですべて仕事をこなす必要はない。初めの1~2回目の撮影で、テンションが上がり過ぎて失敗した経験があるので、撮影現場では極力自然体で、“空気”を作ることに努めている」と語った。

「“かっこいい”だけで終わらないものを作りたい」

制作時のポリシーについて尋ねられると、「CG作品を作る際に、“決めごと”はまったく設けていない。ただ、数年前に(CGで作った)人形の関節が見えてしまう、ということで批判を受けていた」というエピソードを披露。その上で、「当時は1時間の作品を作るのに3日かかっていた時代。関節を消す作業に時間を費やすよりも、動きや他の要素で、もっとオリジナリティーを出すことに注力していた。“かっこいい”だけで終わらないものを作りたい、とはいつも思っている」と語った。

また、「CGデザイナーの方向性は2つあると思う。1つは、スターウォーズのような、最新技術を使った作品を作り上げること、もうひとつはオリジナリティーのある作品制作に努めること」という持論を披露。谷田氏自身のスタンスについては、「私は後者を選んでいる。個人的にはCGと映像の合成に飽きているので、CGはCGだけ、実写は実写のみ、という形で統一させている」と語った。

谷田一郎氏氏は現在、中山美穂が出演する口紅のCMや、ドリームキャスト用ゲーム『ROOMMANIA』のオープニング制作に携わっているという。「ROOMMANIAのオープニングに麻雀の実写を使いたいので、ここ数日間は麻雀関係の雑誌を何十冊も読んでいる。今も、頭の中は麻雀でいっぱい」だそうだ
谷田一郎氏氏は現在、中山美穂が出演する口紅のCMや、ドリームキャスト用ゲーム『ROOMMANIA』のオープニング制作に携わっているという。「ROOMMANIAのオープニングに麻雀の実写を使いたいので、ここ数日間は麻雀関係の雑誌を何十冊も読んでいる。今も、頭の中は麻雀でいっぱい」だそうだ



「デジタルの導入で何か変わったか」という石坂氏の質問に対しては、「時間的な面では、手作業もコンピューターの作業の割合は以前とまったく変わっていない。ただ、昔のCGデザインは映像と別個のものと捕らえられており、CGデザイナーは映像制作に関わってはならないとされていた。今後は、私のように、CGデザイナーでも映像作品を作り上げていくような人が増えていくと思う」と語った。

トークライブの司会を務めた、MacPOWER/MacPeople編集長の石坂康夫氏
トークライブの司会を務めた、MacPOWER/MacPeople編集長の石坂康夫氏



使用機材については、「そんな特別なマシンは使用していない。不満も特に持っていないし、最近の機種は性能的に成熟していると思う。ノンリニア編集の工程も、普通のやり方と何ら変わったことはない」と、とくにこだわりを持たない姿勢を見せた。

「僕の周りの連中は、おかしいぐらいに仕事をこなしている」

トークライブの聴衆にはCGデザイナーやアートディレクターを目指す人が多かった。そういったデジタルハリウッドの学生へのアドバイスとして、谷田氏は「作品を1本作るのに時間をかけているよりは、100本作った方がいいと思う。とにかく経験を積むことが大事」と、経験の大切さを強調。

谷田氏の制作スタイルについては、「僕は普段“量”しか考えておらず、“結果”は後からついてくるものだと思っている。一度できあがった作品には、まったく興味を持たない。反省や、こだわりもない。常に前向きに、目の前にある仕事をこなして作品を作っていくだけだ」と、現場にいるクリエイターならではの言葉を贈った。

また、「CGデザイナーやアートディレクターは好きじゃないと続けられない仕事。僕の周りの連中は、おかしいぐらいに仕事を大量にこなしている」と、業界の厳しさも指摘した。

参加者からの「谷田氏のアイディアはどこから生まれてくるのか?」という質問に対しては、「僕のアイディアの源泉はグラフィックデザインだと思う。個人的に現代美術が好きで、ペインティング関係の作品は相当見ている。起きている間は常にアイディアを考えていて、常に頭や手を働かせて企画を考えていないと落ち着かない」と答えた。

また、谷田氏は、「20代のときは、自分の作っている作品に対して“これでいいのか”という迷いを常に持っていた。しかし10年後、職を辞めて絵描きをやっているときに、自由な発想で作られた人形を見て価値観が変わった。“何でもありなんだ”と思った。(その日から)自分の方向性がやっと見えてきて、“もの”が作れるようになったと思う」と語った。

最後に石坂氏は、「雑誌づくりでも何でもそうですが、一度極限までやってみると必ず自信になる。その上に、1日中アイディアを考え続け、作品を作り上げていくという谷田さんの姿勢はすごい」と語り、ライブを締めくくった。

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