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地方在住・在宅主婦・起業家・フリー……それぞれの立場からみた“SOHOの課題と未来”――『日刊SOHO'S REPORT』創刊1周年記念パネル・ディスカッションより

1999年10月18日 00時00分更新

文● 服部貴美子 

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昨年10月に創刊したSOHO向けメールマガジン『日刊SOHO'S REPORT』が、創刊1周年を記念して、16日に大阪・コクヨ本社ビル8F大会議室を会場に、パネルディスカッションを開催した。今回の大阪大会は、今年7月に東京で開催したものの続編にあたる。

『SOHO'S REPORT』の執筆者でもある、SOHO団体の代表者6名をパネラーに招き、一般参加者との質疑応答も交えながら、SOHOの実情と問題点、そして21世紀のライフスタイルとしてのSOHOの可能性について激論が交わされた。

司会は『SOHOWEST』の塩見政春氏。大阪ソーホー・デジタルコンテンツ事業協同組合の代表者でもある 司会は『SOHOWEST』の塩見政春氏。大阪ソーホー・デジタルコンテンツ事業協同組合の代表者でもある



“個人としてのSOHOの働き方”――主婦や10代の若い起業家がSOHOで成功するために必要なこと

参加者は20代から30代の男性が中心。挙手によるアンケートでは、現在SOHOの形態で働いている人よりも、これから始めたい、興味があるという“予備軍”が多かった。SOHO実践者の中で、法人化するなどして業務を拡大したいという人が1割、残りの9割は個人事業としてマイペースで進めていきたいという回答だった。

討論にさきだち、パネリスト各自が自己紹介をした。前半は“個人としてのSOHOの働き方”に焦点が絞られた。

まず、主婦を中心とした在宅ワーカー約180名を率いる『日本在宅ワークコミュニティ』の笠松ゆみ氏から、「グループワークを推奨しているのは、大量の簡単な仕事(懸賞ハガキのデータ入力など)を振り分けるという形態で仕事をする場合、郵送料などの費用が軽減できるから」と現場の声が紹介された。

一方では、クライアント側が「どうせ主婦がやるんだから」と単価を下げてくるという悩みも出ており、「対策としては安い仕事を受けないようにするしかない」と強調。そのためには、「技術を持っているだけでは、仕事が取れないということを自覚し、営業力を身に付ける必要がある」と提言した。また、学生からの就職形態としてのSOHOについては、「社会人経験と人脈がない状態では、食べていけるかどうか……」と否定的だ。

笠松氏は、「仕事をあたえるのではなく、仕事の取り方を教えます」と、自らが運営する研修制度を受けた女性たちが、SOHOとして着実に実力をつけていることをアピール 笠松氏は、「仕事をあたえるのではなく、仕事の取り方を教えます」と、自らが運営する研修制度を受けた女性たちが、SOHOとして着実に実力をつけていることをアピール



これに対して、『SOHO'S REPORT』東京情報局の菅原氏は、「10代の社長も増えている中、学生からSOHOというケースは十分ありうる」と反論した。「新聞のベンチャー・起業欄にマメに目を通すなどして、政府や地方自治体の事業者支援の施策をもっと活用すべき」と説くなど、どちらかというとベンチャー推進・業務拡大の姿勢が感じられる。

『SOHO'S REPORT』東京情報局の菅原氏 『SOHO'S REPORT』東京情報局の菅原氏



司会の塩見氏が、10代で起業した家本賢太郎氏(クララオンライン)の名前を挙げると、『SOHO'S WORLD』の加藤恵子氏から、「年齢や経験でなく、社会一般の概念や人脈の有無、またなくても、今後作っていく力があるかどうかが問題なのでは?」という意見が出た。

次に、ハンディキャップを持つ人のSOHO事業の可能性について、笠松氏は「仕事はあるが、人と仕事をつなぐものがない」と述べ、ある程度ボランティア的なサポートが必要であると語った。『日本SOHOセンター』(以下、JSCと表記)には、ハンディのある人や、その家族の参加もある。代表の花田啓一氏は「ハンディのある人が経済的な自立をする可能性があるという点でメリットはあるが、SOHOでありさえすれば、ハンディによる悩みがすべて払拭されるというわけではない」とやや辛口のコメントで締めくくった。

地方SOHOの可能性――受注型の仕事で安定するか、自分から仕事を作り出すベンチャー型で発展するか

中盤は、夫の転勤で地方在住になる予定があるという参加者の質問をきっかけに、地方SOHOの可能性について議論が展開された。

東京から山形にUターンした加藤氏は、「地方では市場が小さく、単価も低い。小さい企業が既にある仕事を取るのは難しい。そこで、新規参入するよりは、その地域の問題点を探し、自分たちがそれに対して何ができるかという事業プランを立てて、たとえば公共事業なら公的機間に持って行ない、予算を付けてもらうように交渉するなどの努力をしている」と厳しい現実を語った。そして、「地方の民間企業が、地元に人材が見つからない仕事については、東京に発注しているケースもある。仕事が流れていっている先に交渉する手もある」と提案した。

地方在住SOHOの生き残り策として、「受注型の仕事で安定するのか、自分から仕事を作り出すベンチャー型で発展するのか、自分の取るべき道を選択することも大切でしょう」と、2つのパターンを挙げた加藤氏 地方在住SOHOの生き残り策として、「受注型の仕事で安定するのか、自分から仕事を作り出すベンチャー型で発展するのか、自分の取るべき道を選択することも大切でしょう」と、2つのパターンを挙げた加藤氏



では、地方に発注する側はどうか? 菅原氏は「インターネットを使えば地方でも仕事をできるという考え方もあるが、実は世界規模に市場が広がってしまったがために、ハリウッドに発注することだってできる。地方でやるならよほどの独自性がないと頼めないですね」と厳しい回答。

一方では、「業種や仕事のレベルにもよるが、顔を知らない人に頼む場合は、要領が悪いなどの事情があると頼みにくい」(『EarlGrey』西本氏)、「どこでもできると思うが、一度は会っておいた方が安心」(笠松氏)など、“フェイス・トゥ・フェイス”の慣習を感じさせる証言もある。

自己紹介では、マルチレベルマーケティングについて触れた『EarlGrey』の西本達也氏。SOHOコミュニティーを運営する立場に立つと、掲示板への書き込みへの配慮においても、悩ましい点が多々ありそうだ 自己紹介では、マルチレベルマーケティングについて触れた『EarlGrey』の西本達也氏。SOHOコミュニティーを運営する立場に立つと、掲示板への書き込みへの配慮においても、悩ましい点が多々ありそうだ



SOHOでは法的未整備の解決が必要

終盤は、SOHOが連合することの意義について、討論が白熱。

『SOHO'S REPORT』埼玉情報局代表・阿蘓政志氏は、「SOHOが企業などから投資対象とみなされるためには、下請け的な仕事ばかりでなく、成果をあげていくことが肝要」と述べ、連合会なり協議会なりを、米国のインキュベーションのような“ヒト・モノ・カネ”を供給するシステムとして利用することで、成功者が出てくれば、それがSOHO業界全体のレベルアップと、個々の動機付けにつながると主張。すでに、連合の準備委員会設立に向けて活動中であると宣言した。

『SOHO'S REPORT』の阿蘓氏は、声を枯らしながらの熱弁。SOHOを一業界と位置づている点でも、SOHOは働き方の形態(スタイル)であるという花田氏の考え方とは対照的であった 『SOHO'S REPORT』の阿蘓氏は、声を枯らしながらの熱弁。SOHOを一業界と位置づている点でも、SOHOは働き方の形態(スタイル)であるという花田氏の考え方とは対照的であった



SOHOという形態で働く個人の、社会的基盤の整備のためにJSCを設立したという花田氏は、「独立フリーに対する国の施策は、まだまだ不十分」という考えから、6月から共済制度をスタートさせている。また、所得や医療関係の保険制度の確立に向けて、保険会社との交渉も進めているとか。「団体という形式を取ることにより、諸費用が軽減されたり、一個人対国家では解決しようのなかった問題が、1つでもなくなるのならば」と、スケールメリットを打ち出すのは、「SOHOには、ほとんどないに等しい権利を勝ち取るため」であると説いた。

『中小企業国会』に期待を寄せる声が高まっているが、『日本SOHOセンター』の花田啓一氏は、「施策があるのに、効果を実感できないのは、大半がお金の問題に終始しているから」と指摘し、法的未整備の解決に向けて、永田町への働きかけを続ける意気込みを見せている 『中小企業国会』に期待を寄せる声が高まっているが、『日本SOHOセンター』の花田啓一氏は、「施策があるのに、効果を実感できないのは、大半がお金の問題に終始しているから」と指摘し、法的未整備の解決に向けて、永田町への働きかけを続ける意気込みを見せている



笠松氏からは「個人に源泉税が課せられているのは、そうしないと申告しない人がいるからかも。仕事を放り出して行方不明になる人もいて、これでは“法人としか仕事をしない”とクライアントに言われても仕方がない」と、レベルの低い個人SOHOへを批判するコメントも。

西本氏の「ただ、これからSOHOを始めようという人が、どこかの団体に入ろうというときに、それぞれのグループがハッキリした施策を打ち出していれば、分かりやすいというのはあるでしょうね」という言葉にも表われているように、自分たちの属する団体の特徴(メリット)を、どのように打ち出すかが、今後の課題といえるだろう。

参加者の中には、行政サイドに身を置く人もいた。「行政にも、SOHOについて見識の深い人とそうでない人がいる。ピンスポット的に、しかるべきところに提案すれば、もっと効果のあがる施策を打つことも可能」というアドバイスも飛び出し、パネリストたちも立ち遅れているSOHO支援策の実のある改善に向けて、意欲を新たにしていた
参加者の中には、行政サイドに身を置く人もいた。「行政にも、SOHOについて見識の深い人とそうでない人がいる。ピンスポット的に、しかるべきところに提案すれば、もっと効果のあがる施策を打つことも可能」というアドバイスも飛び出し、パネリストたちも立ち遅れているSOHO支援策の実のある改善に向けて、意欲を新たにしていた

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