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【INTERVIEW】ビジネスにおけるLinux戦略--ラ・ベル・エポック社開発部長 古野陽一氏に聞く

1999年10月15日 00時00分更新

文● インタビュー:(有)マイネット 松下慎一 / 文・美縞ゆみ子

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福岡県福岡市で9月3日に開催された“九州Linuxコンベンション’99”。このイベントを主催したのが、北九州市のソフトウェアベンダーであるラ・ベル・エポック(株)だ。

同社はソフトの企画・開発をはじめ、システムの構築といったサービスも提供している。同社の取締役開発部長を務める古野陽一氏は、九州LinuxコンベンションにおいてLinux関連の講演も行なうなど、同社のLinuxビジネスにおける中心的な役割を果たしている。今回は古野氏に、ラ・ベル・エポック社のLinux戦略について話を聞いた。

Linuxに切り換えても、気付いていないユーザーが多い

--Linuxをビジネスに使えると考えたのはいつ頃ですか?

「'98年の11月くらいです。ミドルウェアの『ル・クローン』がLinuxに対応するという話があり、それがきっかけです。ちょうどその頃、WindowsNTが3.5から4.0へと推移する中で方向性に納得がいかず、別モノを探していたこともありました。Linuxを入れるのにはタイミングがよかったのです」

ラ・ベル・エポック社の取締役開発部長を務める古野陽一氏
ラ・ベル・エポック社の取締役開発部長を務める古野陽一氏



--実際にビジネスで利用をはじめたのはいつ頃ですか?

「すべてのベースである『ル・クローン』のLinux対応バージョンを入手したのが今年2月です。本格的にやりだしたのは6月。顧客先に導入したのは8月で、6セットを一度に入れました」

*ル・クローン:基幹業務向けのアプリケーションを開発/運用するためのミドルウェアソフト。発売元は(株)ソア・システムズ。'99年の1月6日には、Linuxに対応した『ル・クローン Pro Server Ver2.0D for LINUX』を発表している。


--Linuxに切り換えたときの顧客の反応は?

「極端に言えば、気付いていないユーザーが多いです。見積もりの際、NTでなくLinuxを入れていることを明記し、ソフト料が入っていないという情報ももちろん提供しますが、お客さん自身がまったく気にはしていないですね」

--ユーザーがメンテナンスをするということは一切ないのですか?

「そうです。当社ではユーザーに対し、ネットワーク環境などを触ることは原則的にはしないでほしいとしています。当社の技術者によるサポート部隊が、セットアップや導入指導をやります」

--Linuxの欠点である管理が難しいということは?

「当社では欠点にはなっていません」

ラ・ベル・エポック社は、北九州市八幡東区に本社を置いている
ラ・ベル・エポック社は、北九州市八幡東区に本社を置いている



--Windows NTでは苦労されましたか?

「安定するまで1年くらいは掛かりました。3社くらい一度にトラブルが起こって、担当者は社内旅行に行けなかったという経験もあります(笑)。今は安定した設定が見つかっていますので、それほどトラブルはありませんが、とにかく顧客先で一度安定した環境になったら、次の入れ換えのタイミングまでいじりたくないというのがありますね」

自由度の高さと版権の問題からDebianをチョイス

--Linuxビジネスは拡大傾向にありますか?

「社内では2つの系統があります。1つはLinuxビジネスを追求している部隊。それと通常の業務として、今までサーバーをNTでやっていたのをLinuxにしてやっている部隊です。後者がメインですが、これは単に、サーバーがNTからLinuxに変わったということでしかありません」

--世間でLinuxが流行っているか否かは関係ないですか?

「そうですね、関係ありません。当社が使うか、使わないか、というだけです。ただ、少人数で、Linuxコミュニティーに関わる動きもやっています。東京や大阪でLinuxに関する新しい動きがあれば同調するようになっています」

--ディストリビューションには何を使っていますか?

「Debianを使っています。カスタマイズの自由度が高く、完全フリーの体制にあるため版権に絡む問題がないので、今のところはDebianでやっています。時代の流れとして、Debianが立ち遅れるということになれば、切り換える可能性もあります」

--Linuxはオープンソースですが、中を見るサポートはしていますか?

「当社の場合は、社外に対してサポートするということはまずないです。社内で設定を決めるときにソースまで見て検討するということはあります」

--顧客先の不具合の追求のために、ソースまで見るということはありますか?

「今後はあると思います。今も何点か案件が上がっており、ミドルウェアのメーカーとソースまでを見て検討したいと思っています」

インタビュアーを務めた、(有)マイネットの松下慎一氏。マイネットは福岡のシステムインテグレーターで、松下氏自身ラ・ベル・エポック社のLinux戦略に注目していたようだ
インタビュアーを務めた、(有)マイネットの松下慎一氏。マイネットは福岡のシステムインテグレーターで、松下氏自身ラ・ベル・エポック社のLinux戦略に注目していたようだ



--下世話な話ですが、Linuxを使うことで利幅が出ることがありますか?

「システム総体の価格からすると、OS自体の価格はそれほど比重を占めていませんので、利幅が極端に出ることはありません。それよりもLinuxコミュニティーに何か返さなくてはならないので、人を付けたりもしています。そういう投資まで考えると、NTと比べてLinuxが安いとは言えないですよ。ただし同じ代価で得られる安心感はLinuxの方が格段に高いですね」

「3年から5年はLinuxを続けていく」

--Linuxはサーバーとしての利用だけしか考えていませんか?

「現状はサーバーのみです。というのも顧客からは端末はWindowsでという指定が入るし、使いたいソフトも大半がWindows版となっています。ただ、ここ1~2年で変わってはくるでしょう。客の要望によっては端末にLinuxを入れることにもなると思います。特に新しいモノが好きな方、そして何でもいいから安定性を求める方には、早ければ来年の今頃には導入することになるでしょう」

--現時点でLinuxに足りない部分は?

「100パーセントLinux環境でやろうとすると、まず問題になるのがプリンターです。現状ではあまりにもさみしいですね。プリンタードライバーの問題以前に、規格がないのです。場合によっては当社でドライバーを作っても……、と検討中です」

--フリーのLinuxでビジネスに結びつけるのは難しくはありませんか?

「当社はLinux上で動くアプリケーション、およびアプリケーションを提供するサービスで勝負していますので、Linuxそのもので利益を得る必要はまったくないのです。むしろバグがないぶん、コストが減るわけです。そういった意味では、消極的Linux利用法といえるかもしれません」

--実際にLinuxの安定度は格段にいいですか?

「今のところ、導入した先での問題はまったくありません」

--今後、どれくらいLinuxを使っていきますか?

「3年から5年は続けていくと思います」

--まとめますと、Linuxそのものを売りものにしてビジネスをしているのではないということですね

「そうです。 将来的には新たなビジネスも考えてはいますが」

「今はとにかく安定性のよさで導入しています。が、Linuxを最も活かせる分野として、勘定系のシステムと情報系のシステムの統合を図ったシステムが組める可能性を考えています。そうなってはじめて、本当にサーバーはLinuxでよかったと評価されるでしょう」

「また、多店舗のシステムや、遠くに営業所があるシステムを繋ぐ場合は、インターネットを経由しますので、Linuxの強みがハッキリしてくるでしょう。今はそのシステムの下準備中で、実験段階です」

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