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【デジタル・パブリッシング・ウォッチ】Vol.001 従来の印刷の工程を覆す“CTP(Computer To Plate)”とは?

1999年10月12日 00時00分更新

文● text by 千葉英寿

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“Digital Publishing(デジタル・パブリッシング)”の話題を

PageMaker、PostScript、Macintoshが世に出て“DTP(DeskTop Publishing)”が成立してから、すでに10年以上が経過した。それまで“出版(Publish)する”ことは、編集のプロ、デザインのプロ、製版・印刷のプロがいなければ成り立たないものだった。そうしたこれまでのシステムを覆したのがDTPだった。そして、そのDTPはいまやデザイン・印刷の現場に吸収され、当たり前のものとなった。

しかし、出版のワークフローにおいて、その“当たり前”を受け入れきっていないところがある。それは最も上流工程にある出版社だ。つまり編集者がデジタル化において最も遅れをとっているのだ。確かに今のDTPは制作の工程にすぎないかもしれない。そうした観点だけから言えば、コンテンツを作るべき立場にある編集者にとって、デジタル化はデザイナー・印刷会社に任せればよかったのかもしれない。しかし、その考えを改めなければならない時期はとっくに来ている。

編集のデジタル化を押し進める“波”が確実に押し寄せているのだ。そう、その波こそが“インターネット”だ。これまで出版を意味していた“Publish”という言葉を、インターネットがその本来の意味である“発行する”、“発信する”といった姿を呼び起こしたのだ。インターネットは、これまで個人には不可能だった“Publisher=発行者”になるということを、電話線とパソコンを用意することで、誰もがいとも簡単に実現できるようにした。

インターネットが、雑誌や書籍といったアナログな“出版”と比較してまったく遜色のない、それどころかそれすらも超越する新しい形の“出版”を生み出していることは、説明するまでもないだろう。そうした新たなライバルの登場で、出版という生業自体が荒波に放り出されていることに、すべての編集者は気づいているのだろうか?

このように出版側にとってインターネットは“脅威”の存在である一方、発行者と読者をこれまでとはまったく違った次元にまで近づけてくれるものでもある。それは発行者が読者に直接コンテンツを渡すことができるということであり、両者の間に新たなコミュニケーションを生み出すことができる、ということだ。

このリポートでは、ウェブパブリッシングやeBookなどの電子出版といった、新しい出版としての“Digital Publishing(デジタルパブリッシング)”の話題をキーパーソンへのインタビューやDTP・出版の現場からのリポートを中心にお届けしていく。さらにそのテクノロジーや新しい事業や業界動向を通じて、これまで読者側にはあまり知らされることがなかった印刷・出版の世界を紹介していきたい。

このように読者側の方にお楽しみいただくとともに、デザイン・出版・印刷関係者はもちろん、これから新たに情報を発信することにビジネス・チャンスを、と思っている方にもお役に立てるリポートを心掛けていきたい。ご期待いただきたい。

第1回目のリポートでは、これまでの印刷の工程を覆す“CTP(Computer To Plate)”をフルに活用した新雑誌“Effects”誌を創刊した(株)エムディーエヌコーポレーションの代表取締役社長・猪俣裕一氏へのインタビューをお届けする。

印刷のワークフローを変えるCTP

はじめに、印刷業界ひいては出版・印刷全体に大きな変革を与えつつある“CTP(注1)=Computer to Plate”について解説しておこう。

:プレートセッター(写真は富士写真フイルムの『Luxel Platesetter』)
:プレートセッター(写真は富士写真フイルムの『Luxel Platesetter』)



DTPの登場以降、印刷業全般に対するデジタル機器の導入が頻繁になってきており、他のどの業界よりも積極的なデジタル化が求められている。そうした中において、CTPはこれまでのデジタル化の集大成ともいえるものだ。

DTP以降の印刷のデジタルワークフローは、以下のようなものとなっている。まず、DTPアプリケーションを使ってデザインを施され、レイアウトソフトで組版された原稿がPostScript(PS)データ(注2)としてデジタル入稿される。さらにこのPSデータをRIP(Raster Image Processor)を介し、イメージセッターなどのフィルム出力機で“製版”が行なわれる。さらにこの出力されたフィルムを面付け(注3)し、プレート出力する“刷版”が行なわれる。このプレートを印刷機にかけ、刷り上げるというものだ。

フィルム出力の工程では、MacintoshやWindows NTサーバーからRIPpingしたデータを、イメージセッターに送り、製版する。CTPではこの製版工程をカットしてPSデータを使って面付けをデジタルで行ない、そのデータを“プレートセッター”と呼ばれる機器にダイレクトに送って刷版を行なう。これがCTPにおけるデジタルワークフローである。

このことから“ダイレクト刷版”とも呼ばれている。CTPは単に工程を減らすだけではない。印刷の直前までデジタルデータを中心に進行するので、進行管理をデジタルで行なうことができる。

CTPワークフローの説明図
CTPワークフローの説明図



CTPはイメージセッタ-の単なる『置き換え』やフィルムを無くすための手段ではない。コンピューターで制作工程を厳密に統合管理する、これまでのプリプレス=プレスのワークフローを根底から覆すものだ。完全に統合されたデジタルプリプレスがCTPによって完成するのだ。

【用語解説】 (注1)CTP: Computer To Plateの略。それと同時に、製版および刷版の工程も省き、直接デジタルデータを印刷することができる“デジタル印刷機”を使った印刷手法である“Computer To Print”を指すこともある。デジタル印刷機は、現状において一般ビジネス向けの印刷物に使われることが多いが、今後、ますます用途は拡大していくものと見られている。 (注2)PostScriptデータ: 印刷でデジタル入稿されるデータ形式としては、アドビシステムズのページ記述言語であるPostScriptがデファクトスタンダードとなっている。また、近年、インターネットの普及とともに急速に浸透しつつあるPDF(Potable Document Format)は、このPostScriptをベースにしており、PDF生成されたデータをそのまま印刷にも使う方向でさまざまな調整が進められている。 (注3)面付け: 面付けとは特に複数ページを印刷する際に、ページ組みを想定した出力をするために行なわれる工程。これまでは、製版フィルムをいったん出力し、それを直接面付けすることが多かったが、最近ではこの面付けもデジタル上で行なうことが一般的になってきている。

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