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シリコンバレーで日本人が起業するには――“TIME24 VENTURE FESTA99”から

1999年10月06日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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5日と6日の両日、江東区青海のタイム24ビルにおいて、東京都とタイム二十四およびスマートバレージャパンの共催で“TIME24 VENTURE FESTA99”が開催されている。情報通信ベンチャー企業の事業や技術を発表する場として80社以上が、このイベントに参加し、ベンチャー企業の事業内容発表会など、たくさんの催しを企画している。本稿では、この中で、“シリコンバレー流の起業家たち”と題された講演会の内容を紹介する。

会場風景。起業に関心を持つ人々で満員
会場風景。起業に関心を持つ人々で満員



この講演会は、世界で一番小さいデジタル放送局を興した“KNN(Kanda News Network)”の神田敏晶氏、東京の渋谷区周辺地域をネットビジネスのメッカにするための任意団体“ビットバレーアソシエーション”のディレクターとして活躍する松山大河氏、ベンチャー起業を支援するNPO“スマートバレージャパン”代表であり、このイベントの主催者の1人である伊東正明氏による対談形式で行なわれた。

どこに住んでいようが関係ない時代

まず、シリコンバレー流の起業家精神とは何か? という問題を伊東氏が提起した。伊東氏はシリコンバレーに日本のベンチャー企業の海外進出を支援する事業法人“ビジネスカフェ”をオープンしている。氏によれば、シリコンバレー流とは単にハイテク技術に特化した地域ではないという。

米国と日本の相違は何か? この点に関して、実際に米国に在住している神田氏は、「米国ではトップとボトムが両極端で、ミドルがないというイメージを持っている。逆に日本は頭とお尻がなくて中間層が大きい。モバイルは米国では技術的に進んでいるが普及はしていない。米国は確かに最先端技術が進んでいるが、全体としてみれば日本のほうが進んでいると思う」と述べた。

日本側から見て米国を見た場合を考えると、松山氏は「シリコンバレーにあるドットコム企業の経営者たちが、クルマで移動できるような近い範囲で、ボードに入り合っているのはうらやましい。日本の場合でも、身の周りでは、ボードに入り合うカルチャーが徐々に生まれているが、東京は距離という問題は米国ほどはないので、そういうカルチャーができれば、シリコンバレーのような地域ができる」とその可能性を語った。

“スマートバレージャパン”代表の伊東氏
“スマートバレージャパン”代表の伊東氏



それならば、密集した東京のような都市でなければ、シリコンバレーは生まれないのであろうか? 米国では、“シリコンアレー”や、“シリコンプレーン”など、それぞれの特色を出した地域が生まれている。

この点について、神田氏は「世界中のどこにいようが、メールアドレスさえあれば連絡が取れる。もう、住所に固執する考えはおかしい。むしろ言葉の問題が大きい。国境ではなくて‘言境’という言葉の壁が一番強い。デルにしてもフェデックスにしても大きな会社は田舎から生まれた。インターネット時代なのに、地域性や場所だけにこだわるのはナンセンス。コムデックスなどでは展示会を見にくるのではなく、人に会いに来ている。そういう意味では、東京は人が集まっていて、ローコストでコミュニケーションする機会が多いだけだと思う」と、フェース・ツー・フェースの関係が大事だと強調した。

フェース・ツー・フェースで大事なら、言葉が大事になってくる。日本人がシリコンバレーで成功しない理由はそのあたりにあるのか? という伊東氏の問いに松山氏も賛成する。

「英語の壁はやはり大きい。シリコンバレーの人間もグロバルーデファクトスタンダードを最初から作ろうとしてサービスを作っているいたわけではなく、単純に面白いと思って作ったサービスがあとからグローバルスタンダードになっていった。そして、たまたま彼らの言語が英語だった。そういう意味では英語圏の人はうらやましい。日本ではドメスティックに展開して成功するパターンもあるが、世界で通用しなければならないような暗号化技術はグローバル化を考慮しなければいけない。コンテンツもインターネットで見られるが、英語のギャップが全体的にあって、1年か2年ぐらいは米国に遅れてしまっている」と述べた。

英語がそれほどできなくても外人に果敢に突撃レポートをしている神田氏。伊東氏がその秘訣を訊ねると、「英検は中学程度の4級しか取っていない。しかし、翻訳ソフトがあればなんとかなるし、自分が好きなことならなんとかなる。流暢に話ができることよりも、人の目をみてちゃんと話すという基本的なことが大切。あとは、自分の名前や顔を覚えてもらうために自分流のパフォーマンスをする」――。神田氏はかつてビル・ゲイツ氏に会って握手をしたときに、ゲイツ氏に“痛い”と言われたそうだ。

また、日本人は情報を調べるばかリで、自分から情報を出さないのでは? という伊東氏の問いに松山氏は「とにかく試してみることが大事。ドットコムのビジネスでも、さっさとページを作って、ユーザーからアクセス数が低ければ止めてしまえばいい。自分のサービスについて徹底してやればいい。日本人は勉強熱心だが、自ら何かをやろうとしない」とも。

“KNN”の神田氏(左)、“ビットバレーアソシエーション”の松山氏(右)
“KNN”の神田氏(左)、“ビットバレーアソシエーション”の松山氏(右)



シリコンバレーと日本ではお金の循環が違う

日本で会社を作るときに資金的に難しいという話があるが、日本だけではなくアメリカでも資金調達が難しいのは同じことである。伊東氏は「米国でも起業する場合は90パーセントが自己資金で、知人などから捻出している。ただし、そこで留まっているのではなくて、夢やビジョンがあって、それを実現するために結果を出してやろうとしている」という。

日本と米国での違いは大学でもあると語るのは神田氏。「たとえばスタンフォードの学生は昼休みに食堂で事業計画書を書いている。米国では1番できる人間たちは大企業に行かず自分たちで会社を作ってしまう。2番目が中小企業に行く。3番目が大企業」――。自分で創業者利益を得て、IPOを果たす。なぜならば、目の前で自分たちの先輩たちが億万長者になっているからである。また、ベンチャーキャピタルの資金の流れも日本と明らかに違うという。

これについて松山氏は、「確かにシリコンバレーでも資金の調達は難しい。向こうのベンチャーは自己資金で創業したあと、ある程度プロトタイプができて順調に行けば、次に優秀なベンチャーキャピタリストがついて投資してもらえる。そういう点では将来のビジョンが見えて明確だが、日本はそうでないから自分でリスクをおかしてまで資金を突っ込んで起業することができない」と指摘した。

さらに伊東氏は、「米国はいい意味でのベンチャーキャピタルの循環がある。ベンチャーで成功した人間がお金を回し、次への投資をする。それで自分の夢も実現しようとしている。日本にはそういう循環が途中では切れてしまったように思える。スタンフォード大学は、'60年前にアンドレプレナーができあがって以来、校内だけでベンチャー企業が約1500社ぐらいできたという。その周りを調べればもっと多いはず。9割ぐらいの企業がつぶれたが、その根は生き続けている」と語る。

松山氏は日本でもインターネットベンチャーの倒産は起こるだろうと予測する。「ただ、そこで働いている人たちは優秀なので、結果的にまた新しい雇用の道が開かれる。そういう意味では、もし独立したいのであれば早いもの勝ちでドットコムに入ったほうがよい。日本に場合は、組織名がまず最初に出てしまい、個人の力をあまり評価していない気がするが、もっと個人の力を信頼したほうがいいと思う」と独立企業への道を説いた。

たとえば、いま起業する一番簡単な方法は、米国の気に入ったサービスにメールすることだという。実際そうやって起業をした例がいくつもあるそうだ。ただし、米国のドットコム企業は日本以上のコネ社会であるという。シリコンバレーではそういったグループに入っていないベンチャーキャピタリストは、いいベンチャーに投資するチャンスが回ってこない。グループに入ることは信用と信頼を得たということであり、友達の輪のようなところがある。

日本人にはまったくチャンスがないのか 

「そういうグループの輪に対してコネクションを持っている日本人もいるわけで、そういう人に対して信用を築くことが大切だ」と語るのは伊東氏。「米国は信用という意味では日本より遥かに厳しいところがある。会社を興こすというと、どうしても資金調達ばかりに目が行ってしまうが、それは会社を興して成功させる要因の1つでしかない。それ以外の要素がたくさんあって、そういうものを持っているような信用できる人とコネクションをつくることが大事」――。

伊東氏がさらに続ける。「シリコンバレーで企業を考えるときは、いまはビザの問題や、知的所有権、PL法などの問題などが深刻なので、法務や財務の問題やマーケティングなどにも精通していないと難しい。そういう人たちがバラバラの会社にいるように見えても、緊密につながっている地域がシリコンバレーであり、信用できる人との信用関係をどうやって作っていくか? ――それがシリコンバレー流の起業であるような気がする」――。
さらに、神田氏はシリコンバレーの企業風土についても付け加えた。「NDAは一体どうなっているのか? と思ぐらい、みんなが自分たちの情報を見せ合っている。‘今度こんなものを作ったんだけれど、どう思う?’などと別企業の開発者同士が話し合える雰囲気がある。シリコンバレーでは、その土地自体が会社になっていて、そこにある企業が事業部みたいなもの。つまり、そこにある会社はシリコンバレー株式会社の何とか事業部みたいな感じがある」――。

本来の資金調達とは?

資金調達について、松山氏は「キャリアというのは大切で、投資を受ける際にも、たとえばYAHOO!のマーケティングをやっていて、私の仕事によってこれくらいの成果を出しました、というようなトラックレコードを作ることが大切だと思う。投資を受けるということは、投資家のリスクマネーをきちんとリターンできること。だから、預けておけば、2年後にはこのぐらいになって返ってくるとプレゼンテーションして、投資をしてもらうのが本来の資金調達だと思う」と語る。

資金調達について語る“ビットバレーアソシエーション”の松山氏(右)
資金調達について語る“ビットバレーアソシエーション”の松山氏(右)



また、日本は融資に頼ろうという傾向が強いという。短期的に必要なお金ならとにかく、事業的に設備投資に使うお金などは、投資を受けるという感覚が必要だという。

この点に関して伊東氏は「まだ日本には所有権という感覚があって、自分の会社がなくなってしまうというイメージがあるからだと思う。自分でコントロールできない会社になってしまうから。ただし、シリコンバレーではそうではなくて、お金を呼び込んでいると同時にサポーターも呼んでいる感覚がある。だから、資本関係が広がっていくほど、ネットワークも広がっていく、そしてそれが成功につながっていく」と付け加えた。

最後に、伊東氏は「ビジネスの本当の意味でのゴールは、自分が興した事業があるステージに上がって行くこと。目先の小さな失敗はいい。シリコンバレーで起業するのは大変だと思うかもしれないが、もっと気楽に試すこと、トライファーストが大切なんだと思う。だから、まずチャレンジする。それで実際にやってみて、そのまま行けばいいのか? あるいはまったく違う方向にいけばいいのか? を判断することが、まさにビジネスの醍醐味なんだと思う」と締めくくった。

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