このページの本文へ

【'99プライバシー・シンポジウムレポート Vol.1】ネット社会のプライバシー議論──“犯罪捜査と個人のプライバシー”Nシステムの場合はどうか?

1999年10月05日 00時00分更新

文● 小谷洋之

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

去る10月2日、池袋サンシャインシティ コンベンションセンターに於いて“'99プライバシー・シンポジウム”(主催:インターネット弁護士協議会)が開催された。午前中の第1セッションは、“電子”“罪”“医療”の3分科会に別れての議論となったが、筆者は犯罪捜査とプライバシー問題を検討する“犯罪”のセッションをレポートする。

左から、小倉弁護士、寺中誠氏(刑事法研究者)、櫻井光政弁護士
左から、小倉弁護士、寺中誠氏(刑事法研究者)、櫻井光政弁護士



セッションの冒頭で、コーディネーターの寺中誠氏(刑事法研究者)が「この分科会では、主にいま話題の“Nシステム”について議論していきたい」と、Nシステムのプライバシー侵害で訴訟を起こしている 櫻井光政弁護士を紹介する。櫻井氏は、まずNシステムの概要を説明する。

Nシステム国倍訴訟を係争中の櫻井光政弁護士
Nシステム国倍訴訟を係争中の櫻井光政弁護士



「全国560地点の路上に設置されているNシステムは、通過車両の全ての車両のナンバーを撮影・記録しているものだ。データは検索性を持っており、つまり全国でいつどこを通ったかが簡単に後検索が可能な状態になっている。しかも重大なプライバシー侵害の恐れががあるのに、運用に関してまったく規制やルールが存在しない」

 道路を通るクルマの移動を監視するNシステム
道路を通るクルマの移動を監視するNシステム



「これに対して国会議員やジャーナリズムへの働きかけをしたが、ほとんど反応がなかった。特にマスコミは現場レベルで興味を持っても、上層部に必ず潰されてきた。そこでNシステムによるプライバシー侵害を客観的事実とするために、昨年3月に訴訟を起こした」

夜間に赤外線をキャッチする特殊撮影(ソニー製カメラのナイトショット機能を使うだけ)を行なうと、強い発光量で通りゆくクルマがストロボ撮影される 夜間に赤外線をキャッチする特殊撮影(ソニー製カメラのナイトショット機能を使うだけ)を行なうと、強い発光量で通りゆくクルマがストロボ撮影される



「法廷で国側に・適正な管理をしているか?・と問えば、・厳正な管理をしている。重要犯罪と盗難車両の照合のみにしか使わない・というが、新潟県警では、警察官の勤務時間外の行動監視に使われていたことが明らかになった。つまりデータを覗きたいヒトが覗き放題だったわけです」

'80年代に現れた第1世代のNシステムはクルマの前部(ナンバー部分)だけしか照らしていない '80年代に現れた第1世代のNシステムはクルマの前部(ナンバー部分)だけしか照らしていない



「私自身は恋人といるところを撮影されようと構わないが、政治家の居場所をチェックすることにより、例えばアドバイザーの女性とのドライブデートを掴み、これを週刊誌にリークし、人気を落とすなんて使い方も可能でしょう。使い方によっては政治家の政治生命すら左右することが可能であり、これが民主的なのか非常に疑わしい」

'90年代後半に現れた第3世代のNシステムは、赤外線の発光がストロボ発光から長時間照射に変更され、運転者および同乗者の顔にもライト照射されている '90年代後半に現れた第3世代のNシステムは、赤外線の発光がストロボ発光から長時間照射に変更され、運転者および同乗者の顔にもライト照射されている



「今日では情報は非常に重要な存在だが、Nシステムは警察が一元管理し、盗聴法もそうだが犯罪捜査以外の目的に非常に便利に使われていくことになるだろう」とNシステムの問題点を指摘する。

続けて、小倉弁護士は、
「真面目な犯罪捜査をしている警官にどこまでプライバシーを公開しなければならないのか? また、不真面目な警官にどこまでプライバシーを明かす必要があるのか? を、考えなくてはなりません」

小倉弁護士
小倉弁護士



「悪用される懸念がある以上、それを排除しなくてはならない。公権力によって恣意的に利用できる。つまりNシステムが収集したデータを公にするか否かは、情報を握っている者の気分次第になっている。だから脅しにも使えることになる」

「逆に全国民にオープンならば、情報はオープンになり脅しに使うことはできなくなるだろう」

「アナログで記録するぶんにはただちに違法とはいえないが、Nシステムがプライバシー侵害にあたるのは、データの後検索が可能だらだ。またデータが蓄積されているからこそ後検索が可能なのだ」と。

続いてパネラーの福富忠和氏(ジャーナリスト)は、
「埼玉県の愛犬家殺人事件の捜査でNシステムが活躍したのは有名だが、この件では4~5年はデータが保存されていたことになる」とNシステムのデータ保存性について捕捉したうえで、

福富忠和氏(ジャーナリスト)
福富忠和氏(ジャーナリスト)



「'70年代後半から、Nシステムのような交通監視システムの先祖といえるオービスなどが登場し、旅行時間計測システム、高速走行抑止システムといったカタチで発展してきた」

「そしていよいよITSが実用化されつつある。ITSは交通インフラとして環境に埋め込まれネットワーク化しようというもの。使い方によってはNシステム以上に怖い」と、さらなるシステムの発達によってプライバシー侵害の度合いが高まる可能性を指摘した。

さらに寺中氏が、
「2000年度国家予算編成における警察庁の概算要求には、指紋照合システムが約9億円、Nシステムが約1億3000億円、一般にオービスと呼ばれる自動速度取締りシステムが4億2000万円、そして・盗聴法・運用のための盗聴記録システムに約4億6000万円が計上されています。Nシステムに関しては、来年約20地点の増加が見込まれている」というとおり、犯罪システムのハイテク化はとどまるところを知らないようだ。

寺中誠氏(刑事法研究者)
寺中誠氏(刑事法研究者)



櫻井氏はいう。
「警察に権力が集中することで、どんな人でも悪い人になるのではないか? だから三権分立によりチェックしあう仕組みになっている。権力は腐りやすいから内部チェックが必要だし、主権者からもチェックしていかなくてはならない」

しかし現実は、国民が警察権力をチェックする機構はなく、逆に主権者であるハズの国民を警察が監視している……それがNシステムの姿、そんな矛盾が浮き彫りになったセッションだった。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン