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デジタル・バウハウスシンポジウム――“メディア教育におけるアーティスト・イン・レジデンス・プログラム”とは?

1999年09月22日 00時00分更新

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8月6日~9月19日の期間、NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)において開催された“デジタル・バウハウス――新世紀の教育とヴィジョン――”展。最終日に行なわれたシンポジウム“メディア教育におけるアーティスト・イン・レジデンス・プログラム”について報告する。

:アーティスト・イン・レジデンス・プログラムは、客員芸術家制度といって、美術館や博物館、教育機関などがアーティストを一定期間招き、実際に現地で創作活動を行なってもらう制度。アーティストに対しては給料が支払われ、制作資金や技術面などでのサポートも行なわれる。アーティスト同士、アーティストと技術者とのコラボレーションは、芸術の新たな可能性を触発し、学生のプロジェクトへの参加や、現地の人々との交流といった、教育的側面も期待できる

ICCホールでのシンポジウムの様子
ICCホールでのシンポジウムの様子


本シンポジウムは、'96年の*IAMAS開学時より同校の学長を務める坂根厳夫氏と、同校で、アーティスト・イン・レジデンスを経験したアーティスト、岩井俊雄、クリスタ・ソムラー、タマシュ・ヴァリツキー――の4氏によって行なわれた。

*岐阜県のメディアアートスクール。正式名称は岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー

冒頭、坂根氏が、アーティスト・イン・レジデンス制度を積極的に採用している美術館や教育機関、輩出したアーティストの具体例、さらにIAMAS成立の経緯を交えつつ、本制度の概要をを紹介した。

また、“伝統的な芸術”に対する“新しいメディアアート”の成立条件として、“交流の場としての学校”の重要性を説いた。

「時代をフォローするのではなく、先読みしてコンテンツを作ることが重要。そのための、アーティスト・イン・レジデンス制度」と語る坂根氏  「時代をフォローするのではなく、先読みしてコンテンツを作ることが重要。そのための、アーティスト・イン・レジデンス制度」と語る坂根氏


その後、アーティストの3氏が、順次、制度を利用した創作活動を紹介した。単なるビデオによる作品解説ではなく、当時の状況や体験談が随所に織り込まれて、興味深いものとなっていた。

セッション冒頭にて。坂根氏(左)と岩井氏(右)
セッション冒頭にて。坂根氏(左)と岩井氏(右)



エクスプロラトリアム――工房一体の博物館に滞在

メディアアーティストの岩井氏は、これまでにアーティスト・イン・レジデンスとして活動した、エクスプロラトリアム(米)、ZKM(独)、IAMAS(日本)での制作風景をビデオで紹介した。氏自ら、「今日は珍しい映像を持ってきました」と語っていたが、ホームビデオで撮影された等身大の作品制作の過程は、分かりやすく親しみが持てた。

中でも、アメリカの科学博物館、エクスプロラトリアムは印象的。博物館内は、工房がむきだしの状態で、来場者は、アーティストの制作過程も見ることができる。展示物は常に変化し、創意にあふれているとのこと。エクスプロラトリアムでのアーティスト・イン・レジデンス体験について、氏は「問題点の作品へのフィードバック」を挙げていた。来場者の自分の作品への接し方を見ながら、改良を重ねていける。工房一体の博物館の強みを象徴した一言だった。

「ひとくちにアーティスト・イン・レジデンスといっても、その質はそれぞれ異なる。IAMASでは学生との交流のあり方を、自分の方で考え、プロデュースしていかなければならなかった」と語る岩井氏
「ひとくちにアーティスト・イン・レジデンスといっても、その質はそれぞれ異なる。IAMASでは学生との交流のあり方を、自分の方で考え、プロデュースしていかなければならなかった」と語る岩井氏



協調作業の場としてのアーティスト・イン・レジデンス

クリスタ氏は、国際的に活躍するインスタレーション作家で、'91年より、共同で、独特のインターフェースと、遺伝学的アルゴリズムを用いた一連の作品を発表し続けている(都合により、ロラン氏は出席できず)。

氏は、'97年~'99年3月までのIAMAS、および現在の京都ATR研究所でのアーティスト・イン・レジデンスとしての活動を、彼らの作品の流れの中で紹介した。
彼らの作品には、アーティフィシャルライフ(人工生命)というキーワードが存在する。'92年の“Interactive Plant Growing”に始まり、'97年の“Life Spacies”に至る一連の作品は、遺伝的アルゴリズムをインタラクティブアートの生成言語として昇華し、さらに情報の入力ソースを、個人から2人の協調作業、インターネットへと発展、拡張させている。

クリスタ氏で印象的だったのは、次の言葉。「これらの作品は、我々2人の名前で発表されているが、多くの協力者なくしては、成し得なかった。特に遺伝学のアルゴリズムをともに考え、プログラムしてくれた技術者たちの存在は大きい」――。

「急速に変化する現代においては、1人での作品制作は不可能。人と人、学生と教師、アーティストと技術者。彼らを結び付ける中心として、アーティスト・イン・レジデンスが機能して欲しい」と語るクリスタ氏 「急速に変化する現代においては、1人での作品制作は不可能。人と人、学生と教師、アーティストと技術者。彼らを結び付ける中心として、アーティスト・イン・レジデンスが機能して欲しい」と語るクリスタ氏



生計のための仕事をせず、創作活動に没頭できるメリット

メディアアーティストのタマシュ氏は、自身の2作品について詳細に説明し、その過程で、アーティスト・イン・レジデンスが彼にとって持つ意味を語っていた。コンセプチュアルなインタラクティブ作品の『フォーカス』と、モノクロームな影絵調のCG長編アニメーション作品の『漁夫とその妻』。静止画ベースのインスタレーションと長編アニメーションという両極端なカテゴリーの2作品だが、その入念に作り込まれたディティールに氏の作品の共通項を見ることができた。

彼は「自身の創作活動に(生計のための仕事をしないで)一定期間、没頭することができる」という点で、アーティスト・イン・レジデンス制度に感謝していたが、この率直な意見には、とても好感がもてた。『漁夫とその妻』は現在45分が完成しており、最終的には60分の尺になる予定。今回は、そのうち6分だけ見ることができたのだが……完成作品としてどういった仕上がりになるのか、とても興味を引かれた。

「IAMAS(日本)での問題点は、学生に暇がないこと。お互いにエネルギーをつぎ込んで、1つのものを成し遂げる――そういった機会を持てなかったのが残念」と語るタマシュ氏
「IAMAS(日本)での問題点は、学生に暇がないこと。お互いにエネルギーをつぎ込んで、1つのものを成し遂げる――そういった機会を持てなかったのが残念」と語るタマシュ氏


ピュアな形でアート活動を認めてくれる場

最後に、坂根氏が、アーティスト・イン・レジデンス制度について、各氏に意見を求めて総括となった。岩井氏は、「自分のアート活動を、商業的な見地からではなく、ピュアな形で認めてくれる場として重要な制度」と語っていた。確かに、商業主義優先の日本では、このような制度は根付きにくいかもしれない。彼らの活躍で、IAMASをはじめとした、日本でのアーティスト・イン・レジデンス活動が、認知、理解されてゆくことを期待したい。

≪喜多曜介≫

・NTTインターコミュニケーションセンター
 http://www.ntticc.or.jp/
岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー<
 http://www.iamas.ac.jp/

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