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【インターネットにかける米国企業レポート Vol.2】流通の仕組みを変える――GROBEtrotter Software、Impresse、Preview Systems

1999年09月16日 00時00分更新

文● 編集部 佐々木千之

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インターネットにかける米国企業レポートの2回目は、インターネットをインフラとして利用し、流通の仕組みを変えようとしている3つの企業を紹介する。

GLOBEtrotter


1社目はカリフォルニア州サンノゼに本社を持つGLOBEtrotter Software社だ。GLOBEtrotterは、企業で使用するソフトウェアのライセンスをソフトウェアから独立させて、ネットワークを経由して管理するための製品群をリリースし、多くのソフトウェアベンダーや大量のソフトウェアを利用する企業からの支持を集めている。

GLOBEtrotter Software社主催のユーザーカンファレンスで挨拶する、同社President兼CEOのマット・クリスチアーノ(Matt Christiano)氏
GLOBEtrotter Software社主催のユーザーカンファレンスで挨拶する、同社President兼CEOのマット・クリスチアーノ(Matt Christiano)氏



従来、ソフトウェアのライセンスは、1つのパソコンにソフトウェアをインストールする際にユーザーIDを入力するといった方法が主流である。この方法では、ソフトウェアライセンスは、結局(物理的な意味で)1台のパソコンに限られることになる。これをGLOBEtrotterでは“Seat-by-seat licensing”と呼んでいるが、このSeat-by-seat licensingの問題には、以下のようなものがあるという。

・あるソフトウェアをたまにしか使わないようなユーザーに対して、そのユーザーの雇い主である企業は、当該ソフトウェアを使わせないようにするか、あるいはライセンスなしで使わせるかのどちらかとなる
・直ちに使う必要があるときに、即時にライセンスを追加することが難しい
・ソフトウェアユーザーはそれが有用なソフトウェアであればあるほど、簡単に最初のライセンス数を超えて増えがちである
・企業にとって個々のソフトウェアライセンスを追いかけて管理することは負担が大きい

これらの結果として、誠実な企業であってもライセンスを持たないユーザーが発生するか、あるいは使う可能性があるユーザーでも使わせないということになる。これは、ソフトウェアベンダーにとっては売れるはずのソフトウェアライセンス(特に高価なツールなど)の機会損失にもなるという。

これを同社の、ソフトウェアベンダー向けソフトウェアライセンス管理ソフトウェア『FLEXlm(License Manager)』と企業のシステム管理者向けソフトウェア『SAMsuite(Software Assets Management)』を導入することで、ネットワーク(インターネット、LAN、WANなどを含む)経由のライセンスのコントロールが可能になる。ライセンス数をユーザー数が超えることがなくなるだけでなく、一定期間のライセンスを与えるといったことが容易なため、ソフトウェアを購入の前に試用したり、一時的に大量に使用したいといった要求にも応えられる“Pay-per-use”ライセンスも可能になるという。

FLEXlm、SAMsuiteのほか、ライセンスの管理と発行を自動化する(ウェブベースのディストリビューションも可能)『GTlicensing』や、管理者向けのレポートツール『SAMreport』など、さまざまなツールが提供されている。

FLEXlmを利用しているソフトウェアベンダーとしては、コンパック、富士通、ヒューレット・パッカード、IBM、Pixar、SGI、サンなど。SAMを導入している企業などにはスリーコム、AMD、フォード、ヒューレット・パッカード、IBM、インテル、モトローラ、NASA、SGI、テキサス・インスツルメンツがある。

昨年にFLEXlmを利用して出荷されたソフトウェアライセンスは140億ドル(約1兆4700億円)に達しており、またIDCによると、2002年にはこういった電子的なライセンスによる売上はソフトウェア全体の売上の半分になるという。個人ベースはともかく、企業ではこういったネットワークベースのライセンス契約が主流となりそうだ。

Impresse


2社目はカリフォルニア州サニーベールに本社のあるImpresse社を紹介する。企業では、会社案内や製品のカタログ、チラシ、ポスターといった、きちんとした印刷所で印刷しなくてはならない(できない)印刷物の発注業務がかなりの頻度で発生する。国際的な企業の上位2000社では、平均して利益の3パーセントにあたる金額を印刷コストに費やしているという。

ImpresseのChairman of the Board兼Vice President of Marketingのシバ・クマール(Siva Kumar)氏
ImpresseのChairman of the Board兼Vice President of Marketingのシバ・クマール(Siva Kumar)氏



Impresseのビジネスモデルは、印刷物を発注したい企業と印刷を請け負う印刷業者の間を結び、企業、印刷業者それぞれに便利なサービスを提供して、そのマージンを得るというもので、ビジネス・トゥ・ビジネスにフォーカスしている。

具体的には、以下のような仕組みである。ネットワーク上にウェブサイトがあり、そこには印刷業者の詳細なデータベースが用意されている。このウェブベースのインターフェースを持つデータベースは、印刷業者の所在地や連絡先があるだけでなく、オンラインで条件を指定すると金額や納期がインタラクティブに表示されるようになっており、印刷業者間の比較も可能となっている。このため、発注側の企業にとっては、印刷所それぞれに問い合わせて、別々に見積もりを取る必要がなく、大幅な時間と手間の節約となるほか、印刷業者にかかわりなく共通のインターフェースのため、発注の際の間違いも減るという。印刷業者にとってはセールスコストが少なくてすみ、新たなビジネス機会が増えるという利点がある。

PressWareのウェブサイトにアクセスして見積もりを取っているところ。複数の印刷業者の条件を表示しながら選択することができる
PressWareのウェブサイトにアクセスして見積もりを取っているところ。複数の印刷業者の条件を表示しながら選択することができる



Impresseの、このウェブベースの印刷発注/製造管理システム『PressWare』は、さらに企業から印刷所へのネットワーク経由でのプリントデータ送付サービスや、代金の支払い代行といったサービスも提供していくという。

Impresseが実際にこのサービスを開始したのは今年の3月だが、この分野での最初のパイオニアとしての強みや、包括的なサービス、ヒューレット・パッカードとのパートナーシップなどにより、今後のネットワーク経由でのプリント市場の伸びとともに、大きな成長が見込めるとしている。

Preview Systems


3社目はカリフォルニア州クパティーノのPreview Systems社だ。

Preview Systemsの開発した『ZipLock ESD(Electronic Software Distribution) System』は、ソフトウェアを暗号化してパッキングし、それをネットワーク経由のダウンロードやCD-ROM、DVD-ROMなどの形で配布、ソフトウェアを購入しようとするユーザーは暗号を解除する“鍵”をインターネット上のサーバーから購入し、鍵のみを別途ダウンロードするためのシステム。

この鍵のファイルサイズはモデムでネットワークに接続しているような場合でも、数秒でダウンロードできる程度という。また、いったん購入した鍵はフロッピーディスクなどにバックアップできるため、パソコンのシステムを新しくするような場合でも、鍵を再度購入する必要はない。先のGLOBALtrottoが企業をターゲットとしていたのに対し、Preview Systemは個人をターゲットにしている。

ソフトウェアベンダーにとっては、パッケージをはじめとした流通コストの大きな削減になることや、購入の際にかならずユーザー登録をすることになるため、ユーザーの管理がきちんとできる。ユーザーにとっては、わざわざコンピューターショップに行かなくてもすぐに購入できることが利点となる。

Preview SystemsのPresident兼CEO、ビンセント・プルビネージ(Vincent Pluvinage, Ph.D)博士
Preview SystemsのPresident兼CEO、ビンセント・プルビネージ(Vincent Pluvinage, Ph.D)博士



日本でもソニーマーケティング(株)と国内販売総代理店の契約を結んでおり、今年の春から営業を開始している。米国ではさまざまな形で流通が始まっており、全米の22の大学では、この11月にすべてのマイクロソフト製品とシマンテック製品をCD-ROMの形で学生に配布し、ネットワークを通じて鍵を販売するという。ソフトウェアの提供を予定しているソフトウェアベンダーとしては、先の2社のほか、マクロメディア、インテュイット、ジャストシステムなど、また、ソニーマーケティングの顧客としては、日本ユニシス、ジャストシステム、ヤフーなどがいるという。

パッケージ化したソフトウェアの流通方法としては、ネットワーク、CD/DVD-ROMといったもののほかに、店頭で販売されるパソコンや、FreePCとして配布されるパソコンのHDDに暗号化したソフトウェアを詰め込んで配布したりといったことも考えられるという。特にこのHDDにデータを詰め込んで配布するという形は、ソフトウェアだけでなく、この年末から一気に販売されるMP3プレーヤーのために、MP3ファイルを配布するシステムとして向くという。これは、音楽のディストリビューターであるレコード会社各社が地域別の販売戦略をとっており、暗号化されているにせよ、インターネットから自由にダウンロードするには向いていないという面があるため。

すでにソニーミュージックやワーナーなどをはじめとした、世界の大手レコード会社との商談も進んでいるという。CD-ROMよりもずっと容量の大きな、DVD-ROMやHDDでのソフトウェアやデータの配布が本格的に始まれば、いままでの形式とまったく異なった流通が大きな流れになりそうだ。

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