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【シーグラフ東京/フォーラム'99 Vol.1】スペシャルセッション“ウェブアートとネットワークコンテンツの未来”から

1999年09月09日 00時00分更新

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千葉・幕張メッセでは7日から開催している“WORLD PC EXPO99”と同時に、シーグラフ東京/フォーラム'99が催されている。本稿では、このシーグラフ東京/フォーラム'99のスペシャルセッションについて報告する。

8日午後は、CG‐ARTS協会が主催するスペシャルセッションとして“ウェブアートとネットワークコンテンツの未来”と題するセッションが開かれた。コディネーターに岡山県立大学助教授の若林尚樹氏を迎え、パネリストとして、イメージ・ソースの伊藤幸治氏、ソフトセルの片岡信一氏、リンクスの木村卓氏が招かれた。“インタラクティブ”、“アーティスティック”、“ネットワーク”をキーワードに、文化庁メディア芸術プラザの紹介を交えながら、3人の講演が始まった。

開演を告げる岡山県立大学助教授の若林氏
開演を告げる岡山県立大学助教授の若林氏



ビデオレターによる挨拶

まず、このセッションの冒頭では、スクリーンに映し出される2通のビデオレターの上映があった。文化庁メディア芸術プラザのメディア美術館の館長であり、自らもCG作品を創っている勝井三雄氏が、「創造とは個人の発想そのものである。コラボレーションとは違う意味で未成熟な側面もあるが、それゆえに根本的なものを作り出していく可能性がある。創作活動の中で、インターネットを有効に使うことが、キーワードになると感じている。その可能性を生かすも殺すもこれからの若い人たちにゆだねられている」と挨拶。

ビデオレターで挨拶をする文化庁メディア芸術プラザ美術館長の勝井氏
ビデオレターで挨拶をする文化庁メディア芸術プラザ美術館長の勝井氏



また、神戸大学大学院助教授の草原真知子氏からも同様のビデオレターが届いた。草原氏はメディア芸術プラザ美術館において、第2回目の企画展“写し絵―江戸から明治の最先端映像エンタテインメント”をキュレートし、作品を出展した。「日本はアニメーションや漫画などの文化が世界的に知られるようになってきているが、そのルーツとなる日本の伝統文化については意外に知られていない。ぜひ、それを国内外の人たちに知ってほしいという願いを込めて企画展を練った」と語った。

ネットで何ができるのか? インタラクティビティー作品の実例

続いて、ソフトセルの片岡氏が、能動的なインタラクティビティーの例として、自身の作品の中から“T&S”という作品を紹介した。この作品は、ウインドーに女性の影が映っており、マウスを動かすとポインターが人間の手の形に変わる。女性の影を手で触わり、いろいろな反応を楽しめるというもの。手で触ることにより相手とコミュニケーションができる作品である。制作する過程では、ウェブに上げるためにデータ容量を小さくする必要があったが、余分な色を削ぎ落として陰影だけにしたところ、女性の動きにリアリティーを感じるようになったという。

手で触る感覚でコミュニケーションできる作品“T&S”
手で触る感覚でコミュニケーションできる作品“T&S”



また、第3者からの影響を受けながら変化していくインタラクティビティーの例として、2つの作品を紹介した。1つは“花”という作品。これは見る者を知らないうちに魅了してしまう。ウェブにあるアクセスカウンターと連動して、画面上の花が微かに変化していく。劣化していく、花のはかなさを表現したものである。

このほかに、画像ファイルを300個に分割し、分割したマトリクスにマウスを置くと、アクセスした相手の時間やドメイン名が表示される作品も紹介。誰かがそのウェブにアクセスするごとに、対応する文字が画面上に現われ、徐々に1つのメッセージが見えるようになる。掲示板的な要素を入れて、見かけの表現を違った形で見せるという技巧を凝らした作品である。

ウェブ制作の4原則とは?

次に、'93年からウェブを作成しているというイメージソースの伊藤幸治氏から、ダイナミックHTMLを駆使したナビゲーションスキーム“NavigationVoodoo”の紹介があった。ウェブの端に小さなパレットをおいて、ページスクロールができるフロートのアイデアや、文房具のバインダー形式でページを切り替える“バインダーメタファー”など、ダイナミックHTMLを利用すれば、魔法のナビゲーションを作り出せるというもの。

“NavigationVoodoo”の一例。ページを切り替えが簡単な“バインダーメタファー”
“NavigationVoodoo”の一例。ページを切り替えが簡単な“バインダーメタファー”



さらに、伊藤氏は今までの経験からウェブを制作する上での重要な4つの心得を披露した。1番目に、ユーザービリティー、すなわち“使い勝手”を考えることが大切。ウェブは情報を伝達するだけのものではなく、理解させることが大事であるという。2番目は、制作しているサイトがどうのようなものであるか、ウェブサイトのアイデンティテイーを決めること。3番目はメンテナンス。ウェブは日々変化している生き物である。新しい情報を常に更新しやすい構造にしておかなければならない。4番目は、ウェブはユーザーの心を捉えるものでなればならない。この段階でようやくアート的な考えが必要になってくる。

ここで、実用的な話からアート作品の紹介に話が移った。その1例として、“NetRezonator”という、音とビジュアルで交信するチャットアプリケーションを挙げた。これは数多くのコンテストで優秀賞を受賞したイメージソースの作品。ウェブ上で環境音楽のコラボレーションができる。まず楽器を選び、ハ長調の音叉をクリックすると、画面に波紋が広がる。このアクションがサーバーに送られて、演奏者の端末のIPアドレスが横に表示される。数人のユーザーが参加することで、音叉同士が共鳴し、いろいろな音とビジュアルを醸し出す。
この作品について、伊東氏は「いままでのチャットは、テキストだけのコミュニケーションであり、何か刺々しいものがあると感じていた。そこで、音で世界中の人とコミニュケーションできるようなものを作った」と語った。

“NetRezonator”。数人のユーザーが参加するコラボレーション。音叉が共鳴しあい、いろいろな音とビジュアルを醸し出す
“NetRezonator”。数人のユーザーが参加するコラボレーション。音叉が共鳴しあい、いろいろな音とビジュアルを醸し出す



また、新しいコラボレーションの試みも紹介した。メディアスタジオやセンソリウムなどのアーティストにメールを出して、好きなサイトを3つずつ教えてもらう。そのサイトを画面上でつなげて、面白いサイトを自然発生的に枝分かれさせていく。これは文化的遺伝子にヒントを得たという。「絵画の世界で、ゴッホはセザンヌなどの印象派や後世のアーティストにいろいろな影響を及ぼした。このような文化的な遺伝子が伝達される様子を視覚的に表現できたら面白いと考えて、作品を手がけた」という。

面白いサイトを自然発生的に枝分かれさせていくことで、新たなコラボレーションが生まれる
面白いサイトを自然発生的に枝分かれさせていくことで、新たなコラボレーションが生まれる



“メディア芸術プラザ”で優れたCG作品を発表

最後に、コーディネーター役を務めた若林氏より、インターネットを活用したメディア芸術制作サイトとして、“文化庁メディア芸術プラザ”に関する紹介があった。“メディア芸術プラザ”は、“美術館”、“画廊”、“講座”、“図書館”で構成している。このプラザの大きな特色は、一般からのCG作品を公募し、その作品を発表する場を提供する講座にある。送られてきた作品の中から面白いものを月1回の割合で講師がコメントを付けて講評するという試みで、もし高い評価が得られれば画廊や美術館で作品を公開できる。校長には、CGアーティストとして世界的に有名な河口洋一郎氏が就任しており、今回のセッションに参加した木村氏や若林氏、片岡氏も講師として招かれている。

“文化庁メディア芸術プラザ”のウェブサイト
“文化庁メディア芸術プラザ”のウェブサイト



リンクスの木村氏は、この講座について、「たくさんの人がいろいろな観点から講評するため、幅広い視点で作品を見られる」と、そのメリットを述べた。作品を公開するのはとても大事なことで、他人に意見を聞くことは意義がある。「最近では講師のコメントを受けて修正した作品を再投稿してくれたり、いろいろな反応が返ってくるようになった。しかし、講師や投稿者どうしのやり取りを、もっと増やしていくことが現在の課題になっている。掲示板などもっと活用していけるようにしたい」と語った。

さらに、片岡氏が画廊についての説明を加えた。「講座が発展途上にある投稿者たちを対象に作品を発掘するのに対し、ギャラリーでは完成度の高い作家たちの作品をまとめて見せていく。作品展示の場を提供する上では、ネットをもっと活用していきたい」。

現在この美術館では、グラフィックデザイナーの戸田ツトム氏による作品展(11月30日まで)が開催されている。また、デジタルアート[インタラクティブ]、デジタルアート[ノンインタラクティブ]、アニメーション、マンガの4部門の作品を、一般公募により10月31日まで募集している。

左から、片岡氏、伊藤氏、若林氏、木村氏
左から、片岡氏、伊藤氏、若林氏、木村氏



≪編集部 井上猛雄≫

・文化庁メディア芸術プラザ
 http://plaza.bunka.go.jp/
・イメージ・ソース
 http://www.imgsrc.co.jp/

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