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【テレワーク99国際シンポジウムVol.3】――日本におけるテレワークの可能性~テレワークが21世紀を切り拓く~

1999年09月07日 00時00分更新

文● 船木万里

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3日、東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターにおいて、“テレワーク99 国際シンポジウム”が開催された。世界各国から集まったスピーカーがテレワークの現状と将来について語り、活発に論議をかわした。

テレワークの意義とは何か?

15時45分からのパネルディスカッションでは、東京会場で4人のパネリストが登壇し、また浜松会場から、地域社会を代表する2人のパネリストがテレビ中継で参加して討論した。

総合司会は、キャスターとして活躍後、テレビや新聞などで活動を続ける蓮 舫(れん・ほう)氏。東京会場では、コメンテーターとしてテレビにも登場する国際経営コンサルタントのジョージ・フィールズ氏、ハイパーメディアクリエーターの高城剛(たかしろ・つよし)氏、障害者自立支援組織であるプロップ・ステーション理事長の竹中ナミ氏が席についた。浜松会場では、浜松市長の北脇保之氏、ヤマハ(株)名誉会長の上島清介氏がカメラの前に並んだ。

テレワーク、すなわち情報通新機器を活用して、離れた場所で仕事を行なうというビジネススタイルは、日本においてどのように発展するのか、またその意義はどのようなものか、という問題からディスカッションが始まった。

浜松市長の北脇氏は、「浜松という土地は、バイクや楽器など、新しい産業が自発的に生まれてきた土地です。浜松市では、ベンチャー企業などにオフィスを安く提供する施設を建設したり、工場を貸したりと、助成を行なっています。

今後、新しい産業の育成においては、資金面などの障害を乗り越えるという意味で、テレワークが重要になると思います。また、テレワークは福祉や雇用問題の視点から見ても、自由に移動できない障害者や家庭の事情で通勤できない女性などに、雇用の機会を与えるという意義があります。通勤を減らすことで大気汚染や交通混雑を緩和するという意味では、環境保全にも役立つと思われます。

このような多面的な意義をもつテレワークという勤務形態は今後発展するべきであり、また実際広がっていくと思われます」と述べ、テレワークに積極的な姿勢を見せた。

テレワークの可能性について話す浜松市長の北脇氏
テレワークの可能性について話す浜松市長の北脇氏



一方、高城氏はアメリカと日本の住環境の違いなどを挙げ、日本的豊かさは、アメリカ社会において得られるテレワークという勤務形態の豊かさが、そのまま当てはまらない状況にあることを指摘した。

「日本では、インターネットがそんなに普及しない代わりに、携帯電話所有率が国際的にもずば抜けています。アメリカでは、自宅を改造して仕事部屋を作ることができるが、我々にとって余っている空間など、ないに等しい。ウサギ小屋に住んで働く我々にとっての豊かさは、モバイル機器によって自分のための新しい空間や時間を手に入れることではないでしょうか」と、モバイルによる新しいライフスタイルの発展を示唆した。

ハイパーメディアクリエーターの高城氏は、個性的な装いでアイデンティティーを主張 ハイパーメディアクリエーターの高城氏は、個性的な装いでアイデンティティーを主張



テレワークによる福祉の充実

実際にテレワークという形態によって、障害者の自立を援助する福祉団体の理事長である竹中氏は、「長女が重度の障害者であることで、よくわかったことがあります。世間はChallanged(障害者)に対し、“何ができないのか、どこが悪いのか”とマイナスの面ばかりを計上する。そうではなく、1日2時間でも3時間でも、社会のために貢献し、自活に近づく方法として、この人にはどんなことができるのか、プラスの面を私たちは見るようにしています。

24時間介護の必要な人でも、教育を受けることによってプログラミングができたり、CGを描けるようになったりしています。実際に企業から注文を受け、1人では無理でも、全国で活動するChallanged が数人で1つの仕事に取り組み、問題なく仕上げています。

私たちは、彼らのできることとできないことを把握し、仕事を振り分けるという作業を行なうことで、手助けをしているのです。今日は、パネリストとしてお招きいただいたんですが、本当は業界の方々に営業活動を行なうつもりで来ました。どうぞよろしくお願いします」とアピールした。

Challangedの人たちについて語る、障害者自立支援組織プロップ・ステーション理事長の竹中ナミ氏
Challangedの人たちについて語る、障害者自立支援組織プロップ・ステーション理事長の竹中ナミ氏



SOHO社会を広げることは可能か?

フィールズ氏は、「日本の男性は、自分のアイデンティティーを会社の名前、と考えているようです。愛社精神ではなく、自分の職業にプライドを持つような考え方に移行していかないと、テレワークの実践はなかなか難しい。何でも東京が中心、という中央集権の意識もまだ根強いようです」という考えを示した。

辛口のコメントで話題をリードする、国際経営コンサルタントのジョージ・フィールズ氏  辛口のコメントで話題をリードする、国際経営コンサルタントのジョージ・フィールズ氏



会社の現状はどうですか、との蓮氏の問いに、ヤマハ(株)の会長である上島氏は、「当社では、アメリカにおいて、テレワークに近い勤務態勢を25年以上前から取っています。営業という仕事における付帯活動――通勤や会議などを最小限に抑えることで、個人の生産性を上げてきました。しかし日本ではまだ部分的に取り入れている程度です。今後は国内でも新しい勤務形態を認め、雇用に対する価値観を変化させていかなければ、これからの国際情報社会では生き残れないのではないかと思います。

地方の企業は、東京に本社を置かなければ、と考えてしまいがちです。しかし、東京では遠距離通勤者が多く、個人にとっていい環境とはいえません。地方での営業活動でハンデを背負わないよう、インフラ整備をし、多様な勤務形態を認めていくことで成長していきたいと思います。

テレワークという勤務形態は、個人の能力をよりよい形で生かしていくという面では最適ですが、それはまた一方で、一個人に対する評価がより厳しくなるという一面も備えています。現在の経済社会でテレワークが発展していくためには、まず経営陣の考え方を変えていかなくてはならないと思っています」と、日本の経済社会の現状を省みて、テレワークを受け入れる土壌そのものを、育成する必要があると述べた。

大企業経営者としての立場から語る、ヤマハ(株)名誉会長の上島清介氏
大企業経営者としての立場から語る、ヤマハ(株)名誉会長の上島清介氏



テレワークのもたらす可能性
 
フィールズ氏は、「テレワークは結局、家にいて1人で仕事を進めるということ。社内を見ても、パーティションで個のスペースをつくる外資系と、机をくっつけてみんなで一緒に仕事をする日本の会社では、まったく違う雰囲気です。“face to face”でないと仕事をした気にならない、という風潮もあります。顔見知りの人の間で、安心して仕事をする、という日本の風習では、今後の自由経済社会でやっていけないかも知れません。日本人は、集団生活に慣れすぎているので、テレワークという形態になじめるかどうかがカギだと思いますね。

しかし最近、同じ会社に一生勤めるつもりだという学生は少なくなってきた。若い世代の間では、企業規模の大小は問わずスキルを身につけ、自分をみがいていきたいという、新しい価値観も生まれてきています。企業は今後ますますスピーディーに情報を収集して、うまく資産を運用するべきです。それには、これまでの価値観を転換し、情報の重要性を認識すること。会社の経営陣が、率先してやっていかなければならないと思います」と述べた。

高城氏も「日本では、個人のパワーを持たないこと、みんなで一緒にがんばることで経済成長してきました。しかし国際情勢にさらされた今、そういう状態では対応しきれなくなってきています。現在の危機的状況を機に、もっと個人一人ひとりが責任を持って仕事に取り組まなくてはいけない。みんな、社会的通念にとらわれずに、アイデンティティーを模索していく勇気を持っていてほしいと思いますね。本当の自分は何なのか、自分にとって毎日は楽しいのか、と自ら問いかけてみてください」と、個のパワーの重要性を語った。

同様に、竹中氏も「障害を持っているChallangedの人たちも、道具を利用すれば社会に貢献する仕事ができるとわかり、人間としてのプライドを取り戻しています。パソコンなどの道具が便利になることで、国籍や性別、障害のあるなしに関わらず、個人の持っている能力が問われる時代になっていくと思います。Challangedも、ひとりの納税者として扱えるようなバリアフリーの社会にしていきたい」と、テレワークのもたらす可能性に期待を寄せた。

最後に、蓮氏が全体を総括した。「地方の活性化に貢献し、通勤が困難な障害者や家庭に縛られがちな女性にも雇用の機会を与えられるテレワークという勤務形態は、日本を含め世界中でニーズが高まっています。日本では、大企業に勤めていることがアイデンティティーであるというこれまでの価値観が、大きく変わる時にきています。今後、新しい情報化時代に対応していくためには、テレワークを含め新しいライフスタイルを個人1人ひとりが考え、自分のアイデンティティーを模索する努力を続けていくべきである、と考えます」――。
 

総合司会を務めた蓮舫氏  総合司会を務めた蓮舫氏



この後、パネリスト、スピーカーを交えての交流会が開かれ、国際色豊かなレセプションとなった。

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