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【INTERVIEW】「8月24日の打ち切り通告の数時間前まで、Red Hatに対し外交努力をしていたんだ」--レーザーファイブ窪田敏之社長(前編)

1999年09月03日 00時00分更新

文● 文:編集部 桑本美鈴

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8月24日に米Red Hat Software社とパートナー契約を打ち切った五橋研究所(株)は、レーザーファイブ(株)を設立し、独自ブランドの『LASER5 Linux』を発売する。渦中の人となったレーザーファイブ代表取締役の窪田敏之氏に、Red Hatとの決裂までの経緯や、今後のレーザーファイブの事業展開について伺った。聞き手は日刊アスキー編集部の植山類。

ボブが経営を他人に任せたのがつまずきの始まり

--米Red Hat Software社との決裂に至るまでの経緯について教えていただけますか

窪田「1月くらいからボブ・ヤング(米Red Hat Software社CEO兼会長)と接触していて、日本法人を作ろうということで、原則動いていたのね。それで、3月の“LinuxWorld Conference Japan'99”にあわせてボブが来日する際に、とりあえずリークして、そのまま作っちゃおうということになっていたんですよ。ところがボブが日本に来た時にね、日本のLinux市場が思ったより盛り上がりがあったでしょう? それでどうも彼に色気が出ちゃったんじゃないかと僕は思うんだよね」

--儲かるんじゃないかと?

窪田「そうそう。それで自分のところでちゃんとやらなければいけないなと考えたんだと思うんだ。それが多分つまずきの始まりなんだよね。でもそのときはまだ大丈夫だった」

「ところがいけなかったのは、Red Hat社が2月ぐらいからIPO(株式公開)の準備をし始めたので、ボブ自身がかなり忙しくなってきたんだな。売上もとりあえず10億円出たということで、気持ちにたるみが生じたんだと思う」

「ボブがどんな人間なのかというと、子どもみたいな人なんだよね。好奇心がむちゃくちゃ強い。頭はすごくいいのね。でも、新しいものを見るとすごく燃えるんだけど、同じ仕事を続けると飽きちゃう」

「それで、これは僕の勝手な推測なんだけど、彼は会社経営に飽きちゃったんじゃないかと思う。それで、米国企業によくあるように、自分は会長に退いて、CEO兼プレジデントを雇おうと思って、マシュー・ズーリックという人間を呼んできたんだよね」

「ボブは、自分ではセールスマンだと言っているけれど、やっぱりどちらかというと技術志向の人間。Red Hat社内を見てみると、技術陣とすごく仲がいいんだよ。でも経営者同士ではあんまり話をしていないんだよね。つまり、いい技術者は集まってくるけれど、いい経営者は集まってこないんだ」

--マシュー・ズーリックはLinuxに精通してるんですか?

窪田「全然関係ないよ。経営オンリーの人です。2月に入ってから、『オープンソースって何ですか?』って、慌てて勉強してるって感じの人だから。ところが、国際戦略に関してはきちんとやろうということで、ボブがマシューに任してしまった。でもマシューは、ともかくオープンソースビジネスをやったことがないものだから、すぐ『そこは検討するので待ってくれ』とか言い出す。何をやらしてものろいわけだよ。結局、5月末までの2ヵ月間、彼は泣かず飛ばずだったんだよね」

「その間にマシュー自身も、CEO兼プレジデントだったのが、CEOを外されて、ただのプレジデントになってしまった。CEOはボブが取り戻したんだよ。なぜかというと、マシューはどうも執行力がないらしい。結局のところ、いい経営者というのが集まってこないんだよ」

「その後、COOとして、ティム・バックリーという人物がビジオ社から来たんだよ。昔ティムは、アスキーが『Visio』を一生懸命プロモーションしてた時に、ビジオの日本法人を作って、アスキーからVisioの権利を取った人。いわば横取りだよね。そういうことをするタイプの人なんだよ」

「さらに、マシューが自分では商売できない、仕事ができないものだから、コンサルタントに頼んだわけだ。それが、東海岸に本拠のあるジャパンエントリーというコンサルタント会社。そこが食わせもんでね。社長がジャック・プリンプトンという人物なんだけど、取り柄が人を騙すのがうまいという人。今まで騙された日本国内のソフト会社は数知れずで、そういうヤクザまがいの会社が介入してきたものだから、話がおかしくなってしまった」

「ジャックとしては、自分が美味しい思いをするにはどうしたらいいかというと、レーザーファイブがないほうがいいわけだよね。Red Hatが自分たちで会社を作ればフィーが入ってくるからね。それで、ティムになんだかんだとレーザーファイブの悪口を言って、100パーセント出資子会社を作ろうということにさせたんだ。ティムも、もともとビジオのことをアスキーの持っていたビジオの権利をかっぱらって、美味しい思いをしたということからわかるように、実は彼にもよこしまなところがあるわけ」

「かくして、マシュー、ジャック、ティムというゴロツキ軍団が集まってできたのが、今のRed Hatの経営陣なんだよ。こうなると、Red Hatは米国内でも失敗するかもしれない」

レーザーファイブ代表取締役の窪田敏之氏。日刊アスキーLinuxにて、コラム『窪田 敏之の「Linux 山物語」』を連載中
レーザーファイブ代表取締役の窪田敏之氏。日刊アスキーLinuxにて、コラム『窪田 敏之の「Linux 山物語」』を連載中




話の通じないRed Hat経営陣

窪田「ジャックと初めて会ったときびっくりしたんですよ。はじめは紳士的に話してたんだけど、そのうちなんだか知らないけど、大声で『あんたのところはRed Hatで稼いで商売してんだろ、いまさらガタガタ言わないで、おとなしく子会社になればいいんだよ』と怒鳴られたんですよ。帝国ホテルのボーイが止めにくるんじゃないかっていうくらいのみっともなさだったね。それで、彼は席を蹴っ飛ばして、自分の部屋に帰っちゃったんです。『ああ、こういう人なのか。こりゃヤクザだな』とそれでわかったんですね。これは話してもしょうがないやと」

「実はそのときから、Red Hatの経営陣とボブに手紙を書いてたんです。ジャックの話を聞いていたら、あなた(ボブ)は失敗すると。帝国ホテルでこんなことがあったし、こういう人物と一緒に仕事をしてると、Red Hatの名声を下げることになるとね」

「さらにジャックは、国内の企業数百社に、『Red Hatの日本法人をX億円で買わないか』と言っていたんですね。だから、こんなことをすると、Red Hatの看板を傷つけることになるから、こういうエージェントと一緒に仕事していてはいけない、ということを何度も手紙書いたんですよ。でも結局、それに対して反応はなかったんだ」

植山「Red Hatは技術志向の会社だったわけですけど……」

窪田「今でも技術は優れてるよ。でも経営はダメ。ラスターマンだって辞めちゃったでしょ。ラスターマンて知ってる? Enlightenmentを作った人」

植山「今、VA Linux Systemsに行ってるんですよね」

窪田「VAに行ってる。Red Hatの経営者がバカなことばかり言うから、VA Linux SystemsとRed Hatは今すごく仲が悪いのね。ティムなんて、自分さえよければいいって感じの人だから、相互扶助の精神が大切なオープンソースの世界では何の価値もないんだ。Linux CareやVA Linux Systemsは怒るに決まってるよ。最近、西海岸のほうのメーリングリストを見てると、ふた言目にはRed Hatの悪口だよね。マイクロソフトの悪口よりRed Hatの悪口のほうが多いんじゃない?」

植山「特にIPOしてからですよね」

窪田「株式を上げたじゃない? ところが、もらえた人ともらえなかった人がいるわけだよ。もらえなかった人は怒るよね。そんなことをするヒマがあったら、そのお金でオリジナルなものを作って、今までみたいに撒けばよかったんだよ」

「今まではそうだったんだよ。ところが、ティムとかマシューとか、金の亡者が集まってきたものだから、そういうような仕切りに変わってしまったわけ。『あの会社は何をやってるんだ、金の亡者だな』と、オープンソースとして賛同を得られないということになった」

「Red Hatは、マイクロソフトみたいに技術はないしね。マイクロソフトはなんだかんだ言っても、自分で(製品を)作った会社だから、そういう意味ではやっぱりえらいんですよ。それに比べると、Red Hatはただ威張っているだけのバカじゃないかという話になっちゃうわけだよね」

「オープンソースの世界というのは、皆さんご存知のように、市場の動きが一般のソフトの世界よりも3倍から4倍速いと言われているでしょう。もともとソフトの世界が普通の世界より7倍速いと言われてるんだから、言ってみれば20倍速いということ。世間では20年間続く企業というのはまれだから、そういう意味では、Red Hatは今後1年から1年半続けばいいほうじゃない?」

「もちろん、舵取りを間違えなければ続くよ。だけど、僕はやっぱりボブが手を離したことに問題があると思う。ボブは創業社長だけあって、技術もわかっている、経営もわかっている、人の心もわかっているという非常にハイタッチな人なんだ。ただ欠点を言うと、ビル・ゲイツみたいな執念がないんだ。学者みたいな人だし、人間がいいから、のんびりしちゃうんだよね」

「結局、売上が出ても手放さないで、自分が経営していればよかったんだよ。そこで根性を出すか出さないかがポイントだったのに、気を緩めて、能力のない人間に任してしまったのが敗因だよね」


赤い帽子のパッケージをミリオンセラーにしなければ、Red Hatは生き残れない

窪田「IPOで、結果として70億円を調達したんだ。この70億円は、はじめは赤字でよくても、いつかは配当しないといけないのね。70億円を配当するには、現在の米国の金利水準から考えて、8パーセントくらいの金利を付けないとまずいんだよね。ということは、5億6000万円の利益を出さないといけない」

「ところが普通の商売をやっていると、売上高経常利益率は、20パーセントもあったら相当優秀な企業だよ。大体14パーセントくらいなのね。そうすると、Red Hatの昨年の売上は12億円だから、超優良企業だったとして、20パーセントの経常利益率で2億4000万円となる。でも実際には赤字だったんだからね」

「だから、70億円の資本金に対して、投資家が納得できるような売上をあげるには、売上を1年間で4倍から5倍にしなければならない。要するに、Red Hatの箱をミリオンセラーにしなければ、生き残れないということなんだよ。ところがご存知のように、今Red Hatのシェアはどんどん下がっているんだよね」

優秀すぎるUNIX技術者が足かせに

窪田「何で下がっているかというと、SuSEとMandrakeにすごく取られているんだ。特に最近は、Mandrakeに目茶苦茶食われてるんだよ」

「Red Hatは、開発者をいっぱい抱えていて、そういう意味で技術的に非常に優れてるのね。でもそれが逆に足かせになることがあるんだよ。彼らはUNIXの人たちだから、Corel Linuxみたいなものは許せないんだ。多分、精神的に作れないんじゃないかな。『オートマウントなんてとんでもない。これはセキュリティーホールだ』というのがRed Hatの言い分だと思うよ。一方Corelの言い分はね、『オートマウントしないなんてパソコンじゃない。こんなものは欠陥商品だ』ということ。同じLinuxでも全然違うわけ」

植山「Red HatはUNIXしか作れないということですか」

窪田「そう。なぜかと言うと、開発者が優秀すぎるから。彼らにとって、ハイタッチなインターフェースなんて無用の長物なんだよ。ただCPUパワーを食うだけのものでしかない。でもCorelのお客さんから見てみれば、そうでないと使えない。『私、黒い画面が出たら、コンピュータの電源切っちゃう』という人たちだからね(笑)。そういうところにギャップがある」

「だから本来の伝統的なUNIXの世界、サーバーの世界では、SuSEやMandrakeなんかと衝突するし、コンシューマーの世界ではCorelやStormixに食われていくわけだよね。それでRed Hatがどこまでがんばれるのかと考えると、僕はRed Hatの命運は長いことないなと思う」

「結局のところ、僕は経営者だから、Red Hatの経営陣の腹を探ってるわけだよ。彼らはやる気あるのかな、ちゃんとできるのかなと。ティムとはずいぶん話をした。こちらも誠心誠意、いろいろな助言を何度も何度も提案したよ。でもどれも全然見てない。基本的に金のことしか頭にないんだ。それで、彼らとはもう仕事はできないな、というようなことは思ってたね」

「ただね、それじゃお客さんに迷惑がかかるし、日本国内のいろいろなメーカーさんにも、一生懸命やってくれてるのに迷惑がかかるじゃない? だから、8月24日のぶち切れる直前、数時間前まで外交努力をしていたんだよ」

「さらに、打ち切り通告がきてからも、なおかつまだ外交努力をしてたんだ。まずRed Hat側に24時間猶予をあげてね、『そうなると、僕らは反乱軍を起こさなければならなくなる。従って、僕らが株式に参加するという形、こちらが資本(金)を出すという形にして、できないか』ということを最後まで言ってたんだ」

「でも、それも結局『No』って言ってきたんで、じゃあしょうがない、これじゃあ一緒に仕事できないなということになったんです。このまま彼らと一緒に仕事をしたら、日本のお客さんに迷惑がかかるよね。なぜかというと、Red Hatが多分いい商品ではなくなってしまうから」

「だから、僕らのイメージとしては、Red Hatというのは6.0、7.0くらいまでは、コンシューマー/サーバー合体型でいくかなという感じがしてるんだよね。だけど、その先というのは、サーバーにしか使われなくなんじゃないかと思うよ」

(中編に続く)

  • 五橋研究所
  • レーザーファイブhttp://www.laser5.co.jp/(現在準備中)

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