Fernridge Singaporeは、シンガポールで情報システム関連の事業を行なっているソリューションプロバイダー。15人の従業員のうち、日本人は2人だけという地元密着型の企業だ。マレーシア報告の最終回は、同社でアカウント・マネージャーを務める角田睦雄氏に、シンガポールのIT事情や企業戦略について話を聞いた。
--なぜ、シンガポールでの起業を思いつかれたのですか?
「'94年当時、アジアの経済が急速に伸びており、自分自身がアジア人であることからもアジアのどこかで修行を兼ねて見聞を広めたいという気持ちがありました。候補として考えたのはシンガポールと香港でしたが、英語圏であるということ、人と法律を含めたインフラが整っていたということで、ここシンガポールを選んだのです」
Fernridge社の角田睦雄氏、眼下にはシンガポールのモスリム街が広がっている |
--そのようにインフラが整っていた背景には何があるのでしょうか?
「シンガポールは、次世代の発展はIT産業にあるという認識を持ち、'90年代の初めに“インテリジェントアイランド構想”というのを打ち上げ、欧米や日本から多くのIT関連産業を誘致したのです。これを受けてシンガポール政府は'92年に世界先端の情報インフラを整備することで、シンガポールをインテリジェントアイランドにするという“IT2000プロジェクト”構想を発表しました。2000年に向けて政府、家庭、工場、オフィスのすべてがコンピューターネットで結ばれるネット社会を目指すというのが目標です」
「このIT2000プロジェクトを踏まえた上で、続く'96年には高速大容量ネットワーク計画の“シンガポールONE”という国家情報インフラ整備プロジェクトを発表したのです。このONEというのは、“One
Network for Everyone”の略です。名前の通り、誰でもいつでもどこにいても、ネットでアクセスすることにより、国民と政府や企業、企業と企業、消費者などが電子取り引きができるように国家情報インフラを整えるという計画です」
--シンガポールONEにおける、高速大容量ネットワークの具体的な内容をお聞かせください
「ATM(非同期転送モード)技術を利用した基幹ネットワークがシンガポール全土に構築されています。家庭やオフィスとのアクセスにはシンガポールテレコム(シンガポールの電話会社)が敷設したADSL方式の電話回線のほか、シンガポールケーブルテレビの同軸ケーブルネットワークを利用しています」
「その基幹ネットワークにインターネットやマルチメディアサービスを提供するプロバイダーを接続し、エンドユーザーに配信が行なわれるといったシステムです。この高速大容量ネットワークを使うと、画像、音声、データなどを従来のインターネット接続の数十倍の速さで流すことができるのです」
--ADSL方式とはどんなものでしょう?
「電話回線を利用して双方向高速データを可能にする技術で、光ファイバーケーブルが普及するまでの過渡的な高速通信回路と思ってもらえばいいでしょう」
--設備がそれだけ整っていれば、インターネットを利用する人やプロバイダーの数もかなり多いのでは?
「利用者数は50万人で、人口に対する比率でいえば14パーセント。アメリカについで第2位、アジアでは日本を抜いて第1位です。ただし、一次インターネットプロバイダーは国営のSIGNET、政府系の新聞社を母体とするCYBERWAY、政府系のPACIFICNETという3社しかありません。シンガポールという国は情報に非常にナーバスになっており、カルト的な宗教、共産主義的な政治、風俗に反するものは、一切シンガポールのプロバイダーからは見ることができないようになっているのです」
--しかしウェブは世界中に広がっており、日々拡大しています。そのすべてを規制するというのはかなり難しいことなのでは?
「政府にはそれをチェックする専門の部署があり、日々それをチェックしているのです。プロキシーから、“誰がいつ、どの時間帯に、何を見た”かもチェックされており、政治犯などは電子メールの内容までも監視されているという厳しさです。国民全体が監視されているようで不思議な感じもしますが、ネットワーク社会がここまで広まって来ると、親御さんの立場も考えなければなりませんから」
--Fernridge社の経営戦略についてお聞かせください
「今までは“生産性”というと、生産現場におけるブルーカラーの“生産”をイメージしてきたと思います。しかし、ITの需要の高まってきた現在、情報システムをいかに活用できるのかという点は企業における生産性を大きく左右します。モノを作るブルーカラーの生産というのは日本人の得意分野ではありますが、いわゆる縦社会、稟議書を回して印鑑をつくといったことをしていると、欧米の企業にどんどん追い抜かされて競争力を失っていきます」
Fernridge社の受付、同社はタイとマレーシアにも関連会社を持っている |
「会計処理、生産処理というキーパンチャー、オペレーターレベルの処理ではなく、社長と社員が電子メールを直接やりとりする、瞬時に情報を共有できる……。そういった“ホワイトカラーの生産性”を高めることが重要だと思っています。報告/連絡/相談や、稟議/決済などに、情報処理という道具をいかにして使うかというのが、これからの企業が生き残れるかどうかにかかっているはずです」
社内の至るところには、“Solution Provider”の文字が踊っていた |
「今までは日系企業相手にビジネスを行なってきましたが、この8月からローカル市場へも乗り出すことになりました。これからのITビジネスはハードウェアではなく、より高いホワイトカラーの生産性を高めるためのサービスを提供していくべきだと私は考えています。レベルの高いコンサルテーション、ソリューションを提案して実行する。これがソリューションプロバイダーとしての弊社の役割なのです」