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【田中維佳のマレーシア報告】サイバージャヤ内の一大教育施設、マルチメディア大学訪問

1999年08月23日 00時00分更新

文● 取材/文:田中維佳

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マレーシア政府が推進する国家プロジェクトの“サイバージャヤ”。このマルチメディア都市が、この7月にオープンした。クアラルンプールとクアラルンプール空港(KLIA)のほぼ中間、クアラルンプールからタクシーで45分あまりのところにサイバージャヤは立地している。

“ジャヤ”はマレー語で栄光や成功という意味。首都機能を持つプトラジャヤをはじめ、クアラルンプール近郊の新興都市には、このジャヤという名前がついているところが多い。

縦15km、横50kmの細長い廊下のような地域であると聞かされても、どうも実感が沸かなかった。しかし、実際に行ってみて、その広大さには正直言ってビックリした。

森の中に出現する超近代都市

ヤシの木がおい茂る赤土の大地にはしっかりとした舗装道路が整備されており、サイバージャヤの中へ入ってからも10数km、NTT MSCセンターのサイバージャヤ本社(*)を通り越し、さらにさらに奥へ行ったところに、マルチメディア大学(サイバージャヤキャンパス)が青い屋根と白壁を輝かせている。同大学はマレーシアテレコム(Telekom Malaysia)という電話会社が'97年4月に創立した大学だ。

以前は、ここから南に2時間ほど下ったマラッカという場所にあった大学なのだが、サイバージャヤのオープンとともに移転してきた。工学、情報技術、メデイアアート・科学、クリエイティブマルチメディアなどの学部があるサイバージャヤ校の生徒数は現在3300人あまりで、マラッカの方もマラッカ分校として残る予定だ。

マルチメディア大学の外観、いかにも南国らしい開放的なデザインが好ましい
マルチメディア大学の外観、いかにも南国らしい開放的なデザインが好ましい



マレーシアには、“マレー人を優先的に大学に入れる、職に就かせる”というブミプトラ政策があり、国立大学での授業は自国語であるマレー語で行なわれている。だが、ここマルチメディア大学での授業は英語でなされている。同大学は私立であるためブミプトラ政策による規制もなく、海外からの留学生も積極的に受け入れており、現在は13ヵ国からの学生が集まっている。生徒の中に日本人はまだいないが、教授陣の中には3名の日本人がいる。

マルチメディア大学の学生寮、留学生のみならずマレーシア国内の学生も多く入寮している マルチメディア大学の学生寮、留学生のみならずマレーシア国内の学生も多く入寮している



デジタル通信事業が専門の高橋謙三工学部教授は、「マレーシアの人はコンピューターグラフィック、ソフトウェア作りなどが得意ですね。熱帯特有の色彩感覚もさることながら、独創的な工夫や発想は日本人にはないものです。設計製造販売の得意な日本人と、彼らマレーシア人が組めば、素晴らしいビジネスが行なえるようになるのではないでしょうか」と語る。

国際部の部長も兼任する高橋謙三教授は、NTT研究所から派遣されている。'98年秋からマレーシアの通信省や教育省に働きかけ、遠隔教育のプロジェクトを推進中。バンコクのアジア工科大学でも教授を務めていた経験を持ち、アジア諸国のマルチメディア事情に通じている
国際部の部長も兼任する高橋謙三教授は、NTT研究所から派遣されている。'98年秋からマレーシアの通信省や教育省に働きかけ、遠隔教育のプロジェクトを推進中。バンコクのアジア工科大学でも教授を務めていた経験を持ち、アジア諸国のマルチメディア事情に通じている



マルチメディア施設の充実度はピカイチ!

クリエイティブマルチメディア学部の学生が作ったというアニメーションやCGの作品を何点か見せてもらったが、“本当に学生が作ったもの?”と目を疑いたくなるほど、プロ顔負けの作品の数々であった。同大学のCG分野における教育レべルは、専門家にも非常に高く評価されているという。

クアラルンプール市内から直線距離で約30kmの同大学には、“かなり遠い”という印象を受けるのもまた事実。だが、クアラルンプール市内とサイバージャヤを結ぶモノレールが完成すれば、約20分で行き来できるようになるという。モノレールの完成は'99年末から2000年の予定だが、前出の高橋教授によると、「この国の事業は進み出したらあっと言う間」なのだという。

マルチメディア大学の中をぐるりと回ってみたが、とにかく広い。食堂で食事中であった学生に、「広すぎて迷子にならないか?」と声をかけてみると、「そうかなぁ? 慣れちゃったからそうでもない」との答え。「今できているのは半分だけで、もう半分があっちにできればもっと広くなるのよ」--。彼女が指したのは、向こう側の丘であった。

大学内の食堂、東南アジアらしく辛そうな料理がたくさん並んでいた
大学内の食堂、東南アジアらしく辛そうな料理がたくさん並んでいた



移転してきたばかりであちこちまだ掘り返したり、ダンボールが転がっていたりはするが、大学としてはすでにきちんと機能しているようだ。図書館の中も見せてもらったが、本棚には意外にも本は少ない。すべての情報や文献はすべてネットワーク上で検索してそれをプリントアウトする仕組みになっているからなのだそうだ。検索デスクもかなりたくさんあり、実際に使っている学生も順番待ちなどはしていない。

学生が利用する検索デスク
学生が利用する検索デスク



実際にコンピューターを使って行なう授業のための教室には、すでにずらりと学生用のコンピューターが並んでいる。大教室での授業にお邪魔したところ、「やだぁ、写真撮るなら前持って知らせてよね」などというジョークも生徒から飛び出すなど、なかなか楽しそうな授業風景。

大教室での授業、日米ではおなじみの階段型教室だ
大教室での授業、日米ではおなじみの階段型教室だ



サイバージャヤはまだまだオープンしたてとは言いつつも、設備はすっかり整っており、学生たちはすでにカリキュラム通りに授業を受けている。マルチメディア大学は高度な技術を持った生徒を、これから毎年1000人あまり社会に送り出していくことになる。マレーシア社会にとって非常に期待の抱ける学校となるだろう。


*NTT MSCは、NTTが100パーセント出資で設立したマレーシア現地法人。NTTはMSC(マルチメディア回廊)構想にデザインレベルから参画しており、その実績がマレーシア政府に認められたことから“MSC status”を与えられている。つまり、NTT MSCという社名自体が、政府のお墨付きを表わしていることになる。

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