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IIJ セミナー(後編)――オンライントレーディングとDLJの戦略

1999年08月23日 00時00分更新

文● 服部貴美子 hattori@ixicorp.com

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8月20日に大阪YMCA會舘において開催されたIIJ 関西支社インターネットセミナーの第2部のテーマは“オンライントレーディング”である。講師は、米国DLJと住友銀行が合弁設立したDLJディレクトSFG証券株式会社代表取締役の國重惇史氏。司会は第1部に続き、IIJ関西支社の天野氏が務めた。

1部、2部を通じて司会進行役を務めたIIJ関西支社営業部長の天野氏
1部、2部を通じて司会進行役を務めたIIJ関西支社営業部長の天野氏



金融ビッグバンの最後の課題――株式売買委託手数料の自由化

金融ビッグバンには、3つの柱があった。そのうちの2つ、業態間の垣根撤廃と内外の資金移動の自由化は、すでに完了していた。しかし、残る1つ“金利・手数料の自由化”については、株式売買委託手数料の定率制(約1%)の慣例を破ることができず、保留の状態が続いていた。

國重氏は、「10月1日の手数料自由化の動きは、ビッグバンに関する規制緩和がようやく完了するという、重大な節目であると認識してもらいたい」と、この改革のもつ意味の大きさを強調した。
 
従来の株式委託手数料を試算してみると、売買代金が1000万円の場合、その手数料は8万2500円。これが、DLJディレクトSFG証券の場合、成り行き注文で1900円、指値注文で2500円の定額となる。「ディスカウント率90パーセントと紹介されたこともあるが」と國重氏は冗談を交え、その明確な違いを示した。

講師の國重氏は、住友銀行出身。銀行員時代は、MOF担当を務めていたという。ユーモアを交えたトークに、会場は大いに沸いた
講師の國重氏は、住友銀行出身。銀行員時代は、MOF担当を務めていたという。ユーモアを交えたトークに、会場は大いに沸いた



オンライントレーディングの歴史~アメリカの場合

國重氏は、オンライントレーディングの先進国であるアメリカの事例を挙げ、今後の日本についても考察を進めた。
 
アメリカでは英国のビッグバンに相当する、'75年5月1日のメーデー(証券市場改革)以降、金利・手数料の完全自由化が実施された。その後の激しい競争により証券会社の倒産・廃業、他社による買収があいついだ。

一方で、従来の手数料の半額程度で売買注文を受け付ける、いわゆるディスカウントブローカーが台頭してくる。これは、注文の執行という業務のみに特化し、顧客に対して個別銘柄の推奨や資産運用に関するアドバイスなど付加的なサービスを行なわないことによって、価格を切り下げるものである。

最大手のチャールズ・シュワブ社は、急激にそのシェアを拡大していった。それと同時に、個人投資家を中心とする小口取引に関する手数料は割高になってしまうという現象も現われた。
 
しかし、全体としては徐々にコストダウンしていき、'90年代に入ると、ディスカウントブローカーは電子取引サービスを用いることにより、さらに格安な手数料を武器として新規顧客資産を大幅に増やしていった。

米国DLJでも、'89年よりオンライン取引事業をスタート。「インターネット自体が一般に普及しきれていなかったこともあり、7~8年は、さしたる進捗もなかった」(國重氏)。しかし、もともとは、カリフォルニアのシステム会社であったE*trade社が、ウォールストリートジャーナルに大きな広告を打ったことがキッカケとなり、業界全体の流れが変わっていった。現在では、個人投資家の約3割がオンライン取引を利用しており、口座数も750万に達すると言われている。「こうして、個人投資家がマーケットに参入していったことが、アメリカの好調な株式市況をささえてきたともいえる」と國重氏は述べた。

では、日本の場合は、どうだろうか。
 
國重氏は、「ブルームバーグによると、日本のインターネット取引口座は、今年の7月末で、約10万。これは、わずか半年前に5万だったことを考えると、大きな伸びである。が、前述のアメリカの比率に比べると、かなり少ないともいえる」と説明。その原因として、サービスを開始している証券会社等が、まだ30社弱と少ないことを挙げた。それとともに、検討中の会社が多く、ほどなく50社から100社に近い会社が参入してくるはずと予言した。

約款や名義届け出書、税金の選択申請書(源泉分離)といった書類の提出は、いまのところアナログ処理。口座開設申込書でも「記名、捺印が必要になっている」(國重氏)
約款や名義届け出書、税金の選択申請書(源泉分離)といった書類の提出は、いまのところアナログ処理。口座開設申込書でも「記名、捺印が必要になっている」(國重氏)



競争が激化が予想される中でDLJのとるべき戦略とは?

日本でも、大手の証券会社がすでにオンライン証券業に乗り出しており、さらにE*tradeとソフトバンクの合弁によるE*トレード証券が7月から営業を開始。ほかにも10月1日に営業開始を予定している会社は少なくない。
 
すでに6月11日から営業を開始しているDLJ direct SFG 証券も、安穏としていられない状況である。しかし、同社には米国DLJの経験とノウハウ、グローバルな展開力に加え、住友グループの日本における信頼感、日本市場でのノウハウとの両方を兼ね備えているという強みがある。

國重氏は「いままで、外資が日本進出に失敗した原因の大半は、文化やプラクティスの違いを認識しきれなかったことにある」と指摘し、自信のほどをうかがわせた。そして、これからの目標を、同社の社名“SFG”の頭文字を持つキーワードで説明した。
 
1つ目が、“シュア”。経営の安定感に加え、最大繁忙時の4倍の情報量にも耐えられるバックボーンに支えられたシステムの安定性は、投資家に安心感を与えるには十分であろう。

2つ目は、オブジェクト指向の設計により、変更が容易にした“フレキシブル”なシステムだ。「オーダーにたどりつくまでのクリック数や、情報呼び出しのスピードまで厳しくチェックしている」と言い、さらに2ヵ月単位でシステムを見直し、訂正していくという。
 
3つ目は、商品供給の“グローバル”化。米国の投資信託が豊富に揃っているのはもちろん、来春には、ロンドン株の取扱いもスタートさせる予定。また、11月からは、アメリカの株式をリアルタイムで売買できるようになるという。「時差があるため、従来は昼間に受注し、翌日の寄付きで買うことしかできませんでした。でも、オンラインなら営業時間に制約がないので、リアルタイムでの取引が可能なのです。2000年には、信用取引、オプション取引などもスタートさせたい」と抱負を語った。
 

“トレーディングザウルス”が登場

また、DLJでは、株式取引機能を付加した“トレーディングザウルス”を、会員に配布する計画があると発表した(9月中旬以降に配布予定)。

PDAを使って、株価照会、サマリー情報(時価評価額など)、インベストメントレビュー、などがいつでもどこでも参照できる。一般投資家の悩みの1つである情報不足が解消し、しかも手数料が格安となれば、資産運用に対する意識も変わるかもしれない
PDAを使って、株価照会、サマリー情報(時価評価額など)、インベストメントレビュー、などがいつでもどこでも参照できる。一般投資家の悩みの1つである情報不足が解消し、しかも手数料が格安となれば、資産運用に対する意識も変わるかもしれない



 
株価情報や経済・株式ニュースといった一般的なものに加えて、田丸好江氏のチャート分析、澤上篤人氏の投信教室、フィスコ社(Financial Intelligence Support Company)の新規公開株情報といった新コンテンツを提案し、他社との差別化を図っていく。
 
講演の終わりに、國重氏は「とくに、“ファクトを伝える”ということに重点をおきたい。決算予想(上方修正、下方修正)、自己株取得や増資など、株式数の増減に関すること、信用取引き残など、ややプロよりの数字も入れていくつもりだ」と語った。また基本情報については非会員にもオープンにして、「たとえ当社の顧客になってもらえなくても、株式を始めるキッカケになれば」という営業姿勢をアピールした。

セミナー終了後、受付では、アンケートの回収とインターネット相談が行なわれた
セミナー終了後、受付では、アンケートの回収とインターネット相談が行なわれた

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