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【夏季特別企画 Linux対談 Vol.1】「冷奴が食べたいだけの関与者も、大豆をまくところから始めなければならないのか」

1999年08月10日 00時00分更新

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夏季特別企画Linux編では、3人の専門家をお招きして、思う存分、Linuxの現状と課題、希望などを語ってもらった。その模様を3回に分けてお伝えする(発言中に登場する人物の敬称を一部略)。

Linuxというコミュニティーに、大企業の参入が与える光と影とは?

本誌編集部「まず、今回の対談は、最近何かと話題のLinuxについてなのですが、とにかく米国ではもう大企業はLinuxにすごい力を入れている。特にIBMの力の入れ方は半端じゃなくて。まあ、IBMは部門部門に分かれていますからね。1つの部門は世界最大レベルのソフト会社に匹敵するぐらいの大きさがあって、そこがもう、かなり本気で力を入れているからソフトウェアの業界をリードする力もあるということなんです。

Vol.1では、“しゃべり”の2人に挟まれて、発言する隙が見つからなかった福面(ふくめん)編集者の日刊アスキー編集部 清水久美子氏。Linux 専門サイト立ち上げのために、日刊アスキーに異動したascii24の元編集者。この対談の鴻(こう)一点。机に突っ伏すことなく、椅子に座った格好のまま寝られるという特技の持ち主。この特技のおかげで、ゴキブリの這い回る床に寝転がらずに済んでいるVol.1では、“しゃべり”の2人に挟まれて、発言する隙が見つからなかった福面(ふくめん)編集者の日刊アスキー編集部 清水久美子氏。Linux 専門サイト立ち上げのために、日刊アスキーに異動したascii24の元編集者。この対談の鴻(こう)一点。机に突っ伏すことなく、椅子に座った格好のまま寝られるという特技の持ち主。この特技のおかげで、ゴキブリの這い回る床に寝転がらずに済んでいる



それでIBMのような大企業が Linuxに力を入れてくるとなると、結局、プロのエンジニアたちが仕事として Linuxの開発をやるようになるわけじゃないですか。いままで Linuxっていうのは基本的にボランティア精神で支えられてきて、世界中のエンジニアは余暇の時間を見つけてどんどん改良してきたんだけど、これからそれを仕事でガンガンやるようになってくる。

Linuxコミュニティーの中に賛否両論というか、かなり否定的な意見は多いと思いますけど、 Linux自体にとってこの状況は果たしてプラスなのか? プラスにならないのか? というテーマで、お話していただきたいのですが」

吉岡「私の個人的なスタンスとしては、あるビジネス分野に人々がやって来るっていうことは、長い目で見れば絶対プラスになると思います。なぜかというと、インターネットの発展を見てもよくわかるんです。ある種のボランティアでやってきて、ずっとやってきた時点で商業化っていう流れがあって。まあ、その商業化の流れにも賛否両論あるんですけどね。そうやって企業がワッときたときに、インターネットにとってプラスとマイナスの双方があったんだけど、相対的に見てみるとプラスだったんですよ。

日本オラクル株式会社 吉岡弘隆氏。オラクルでプリンシパル・エンジニアを務める吉岡氏は、この8月に発売された『Oracle8i最新テクノロジガイド』(弊社刊)の共著者でもある。
日本オラクル株式会社 吉岡弘隆氏。オラクルでプリンシパル・エンジニアを務める吉岡氏は、この8月に発売された『Oracle8i最新テクノロジガイド』(弊社刊)の共著者でもある。



大きな資源が投入されて、人の知恵も、金も、リソースもガッと投入されることによって、やっぱりテクノロジーも進歩すれば使い方も進歩する。そういうことで企業が入ってくることは必ずしも悪いことじゃない、むしろプラスのことだと、私自身は思っています。非常に楽観的な立場。それと同じことが Linuxにも絶対起こるだろうと。

その1つには、個人のプログラマー、個人のハッカーが絶対できないようなことを、企業だったらできることっていうのはあると思います。どういうことかというと、たとえばハッカーは、自分にとって面白くないプログラムは絶対やらないんですよ。

ところが企業のプログラマーで仕事だったら、ほかの人が面倒くさいと思うような力仕事もやらざるを得ない。技術的には面白くないけど、システムインテグレーションみたいな仕事で、“これとこのコンポーネントとこのコンポーネントをくっつけたら動くか動かないか”というようなテストとか、そういう地味な仕事っていくらでもあるわけですよ。そういうところっていうのは、やっぱり企業のプログラマーが落穂拾いをするように、たぶんやるんでしょうね。

SIのベンダーなんてまさにそれで、Apacheのバージョンがいくつ、Red Hatのカーネルのバージョンがいくつ、そういうのが何十種類もある。それをインテグレートをして、コレとコレとコレだったら動くと。こういうアプリケーションだったら動く、というのをお客さんに納める。

そういうつまんない仕事をハッカーが喜んでやるかというと、あまりやらない。だけどそういうことをやっている人たちがいるから毎日のウェブサーバーがちゃんと動いて、毎日メールがちゃんと届く。そういう人たちにどこかでお金を払う仕組みがない限り、健全な発展というのはないと思います。

コミュニティーはそういうところまでは面倒みないで、自分のやりたいことだけをやる。だから、お金を払うところ、それを使ってシステムインテグレーションをするところ、面白いプログラムを書く人なんかに分かれているでしょう」

本誌編集部「棲み分けができるというわけですね」

吉岡「そうです」

本誌編集部「逆に、大企業が入ってきたときにですね。ハッカーとか、いま世界中にある Linuxユーザーグループが果たしていく役割というのは変わってくるのでしょうか?

吉岡「基本的には変わらないと思いますよね。自分が興味あるところをずっとやり続けているでしょう。何でプログラマーがプログラムを書くかというのは、実は未来永劫(えいごう)、ずっとわからないというか、テーマですよね。だけどハッカーっていうのはやっぱりいるわけで、ひとりひとりに聞いてみても、それぞれの答えというのは 100人いれば 100人違うんです。

エリック・レイモンドかなんかは、その答えを出そうとして、ひとつの解答を彼のエッセーに書いているけど、それでも説明しきれていない部分があります。ただ、別に理解しなくても、そういう人たちがいっぱいいるという事実はあるわけです。それは面白いところですね。

そういう人たちにとってみれば、自分が何でやっているか? ということを別に自分自身で理解していなくても、とりあえずやっているわけです。じゃあ、彼らがやらないところを企業が入ってくることによって補完するような何かができるか? というと、私はいっぱいあると思う。それはいくらでもあると思いますね。

その1つとしては、私はデータベース屋だから、データベースを載せるOSとしてどういうものが必要になるかというような話をしますね、このあいだ、ascii24にLinux Worldのレポートを書いたとき、いくつか挙げましたよね」

本誌編集部「2GB以上のファイルシステムだとか、スケーラブルなSMPだとか、7つぐらい挙げてくださいましたね」

吉岡「そういう項目というのは、やっぱり大規模なハードウェア資源があって、それをテストできる環境がないと開発できないものがあるんです。たとえばRAIDシステムだと、それを1000台つなげて大規模なものをグワーッと回すような開発っていうのは、環境がないとできるわけないですよね」

本誌編集部「たしかに、個人のプログラマーがディスクを1000台用意するなんてわけにはいきません」

吉岡「そのへんはやっぱり企業が研究開発しなくちゃいけない部門で、そこの部門に関しては大企業はノウハウも持ってるし、やり方を心得てるんですよ。だからそういうところに企業のプログラマーを、会社の戦略として、こういうことをやりましょうというのはありますよね」

コミュニティーと企業による、共存共栄の新しい関係が必要

本誌編集部「Linuxのコミュニティーって、“アンチマイクロソフト”が合言葉というか、大企業に対して警戒心があると思うんです。マイクロソフトだけでなく、IBMでもオラクルでも大企業であることには変わりないわけで、そういった大企業の発言力が大きくなってくることを、ハッカーの人たちは不満に思ってくるんじゃないでしょうか?」

風穴「それが、あんまりそうでもない。まあ、そういう人ももちろんいますけど、そうでもないんですよね。アンチマイクロソフトという人は多いですけど、でもアップルは好きだという人はけっこういたりするんですよ。別に企業だからどうこうっていうのは、実は意外とこだわりがない。

Windhole 風穴 江氏。Linux がブームになる以前から、Linux を追いつづけていたという正真正銘のLinux ウォッチャー
Windhole 風穴 江氏。Linux がブームになる以前から、Linux を追いつづけていたという正真正銘のLinux ウォッチャー



Linuxには昔からビジネスがあったんです。逆に、FreeBSDなんかLinuxよりもライセンス的には緩いのに、ビジネスをやらなかったんですよね。結局、いろんな経緯があって、 Linuxのほうに企業が参入してきた。いろんな企業が Linux用にドライバーを出したりとかですね。そういう意味では、わりと昔からの本当のフリーソフトウェアコミュニティーな人に比べると、いくぶんか抵抗はなくなったんじゃないかな。わりと現実主義的なところが Linuxにはありますので。だから純粋にBSDな人たちからは、汚いって見られているというか(笑)」

本誌編集部「アイツらうまいことやりやがって、みたいなところもあるんですかね」

風穴「技術的にもちょっと、IOポートを直接たたけたりとか、OSとしてどうかというのもあるんですけど、まあいいじゃん、便利だからみたいなノリがありますね(笑)」

吉岡「前回のLinux Expoかオープンソース・デベロッパーズ・デーで、リチャード・ストールマンが言っていたコメントなんですけど、IBMがApacheの開発をすごいサポートしてるんですよ。10年前はね、IBMって今のマイクロソフトみたいに悪の権化のように言われていたわけですよ、独占的とかと。

ところが時代は変わって、IBMですらGPLのコードを書いているよと。ストールマンは非常に反商業的な人物と言われているけれど、実はそんなことはなくて、“IBMの動きを私は心から歓迎したい”とすら言っているわけですね。彼みたいに反商業主義者と思われている人ですら、オープンソースのところに大企業が来ることを称賛していると言うか、賛辞を示しているというのは、何か新しい動きなのかなと感じます」

風穴「企業もコミュニティーも、どっちかだけじゃ、もうどうしようもないんでしょうね。昔のIBMとか、今のマイクロソフトみたいに隅から隅まで全部うちの製品で固めるなんていうのは、1つの企業では無理です。

でも、マイクロソフトでWindows2000の開発に関わっているのは2000人という話ですけど、ものすごい数です。2900万行のソースコードを管理して、いろいろサポートとかマニュアル作ったりとかやっているんですよ。

だから、コミュニティーだけだと、きちんと組織だったテストができないという面は確かにあるんです。たくさんの人が使っているので、セキュリティーホールも見つかりやすいんですけど、意外とみんな同じような使い方をしていて、そのために見つからないセキュリティーホールもありますよ。Linuxも 2.2が出てすぐのときに、ハードをリセットできるようなハードルが見つかって、すぐに修正されたんですけど、そういうのを残したままリリースしちゃう危険性っていうのはありますね。

だから、コミュニティーの大きな枠でテストして、企業は企業でお金とリソースをかけて、ガーンと大規模にいろいろ組織だったテストをするという、いろいろ選択肢があるでしょうね。いろいろな方法で、全体として発展していくというのが、これからなんじゃないかなと思います。どっちかだけというのは、もうお互いだめなんでしょうね」

フリーソフトウェアに対するマーケットの認識が変わった’99年

本誌編集部「4月のCOMDEX/Chicagoでトーバルズ氏が基調講演をしたんですけど、これからはPDA向けのLinuxであるとか組み込み用途のLinuxであるとか、いろんな方向に広がっていってもらいたいし、広がるだろうと言っていたんです。すると、PDAに組み込むとか、組み込み型用途に使うというのは、個人の努力だけでは限界があるはずです。まさしく、そこに企業が入ってこないとできないことですよね。ところで、’99年のここにきて、ガーッと大企業が一気にLinuxに殺到しはじめたということには、何かわかりやすい転換点があったんでしょうか?」

吉岡「エリック・レイモンドに言わせれば、フリーソフトウェアの状況は変わっていないそうです。何が変わったかというと、周りの目が変わった。たとえばフリーソフトウェアの作り方というのは、1年前とか2年前とでは変わっていないですね。レイモンドは、“マーケットの認識が変わった”っていう言い方してたかな。で、あるときふと気がつくと、ビジネスマンがLinuxを発見していたわけですよ。Linuxっていうかオープンソースを。

そこで、この1年ぐらいエリック・レイモンドが何をしてたかっていうと、彼はオープンソースのマーケティングが必要だというふうに言ってたんですね」

本誌編集部「マーケティングですか」

吉岡「マーケティングというのはどういうことかというと、ビジネスモデルを示して、ブランドイメージを確立して、ブランドを売ることなんですよ。

昨年、サンノゼのオープンソース・デベロッパーズ・デイというイベントでエリック・レイモンドが基調講演して、“これからの9ヵ月、何が必要だ”っていうようなことを言ったわけですね。そこで彼は、マーケティングだと。そのマーケティングっていうのはどういうことかというと、ニューヨークタイムズ紙とかワシントンポスト紙とか、ビジネスウィーク誌とかにわれわれが出ることだと、非常に明確に言っていたんですよ。それは印象がありますね。

そうすれば、これまでLinuxやオープンソースに目を向けていなかった、企業のIT部門の責任者がわれわれを見に来るだろうってことなんです。いままでLinuxっていうのはボトムアップで広まってきたけれど、これからはトップダウンで広がるんだと。だから、これからはCIOが部下にLinuxを導入しろと言うという時代がくるんだと、そういう時代を作るんだと力説してました。彼はそれをこの1年間ずっとやっていて、ある意味でそれは極めて上手に機能しましたね」

本誌編集部「米国においては、そういったマーケティングはもうかなり成功を収めていると言ってもいいのでしょうか?」

吉岡「そうじゃないですか。ニューズウィーク誌にもフォーブス誌にもLinuxという文字が踊っているわけです。だから、ソフトウェアの作り方そのものは、10年前のストールマンの時代と、まるっきり変わっていないですよ。

だけど、ビジネスマンがLinuxを発見したりオープンソースを発見したりするきっかけとなるものを、彼らはパーッとやっていた。それもエリック・レイモンドとか、あるいはネットスケープとかは、1年半ぐらい前にフリーソフトウェアという言葉をやめて、新しい言葉として“オープンソース”という言葉を作ったんです。それはマーケティング上の新しいブランド名を作ったのと一緒なんです」

本誌編集部「Linuxがブランド名だと」

吉岡「そう、だから“新発売”ってことですね。同じものだけど、実は名前を変えただけなんです」

日米の温度差―――Linuxへの乗り遅れ感、米国はすでに通り過ぎている?

本誌編集部「では、Linuxが企業に発見されていったキッカケになるようなことが、何かあったんですか? 大企業が、これならうちがサポートしても大丈夫だと思うようなバージョンがリリースされたとか」

風穴「一番象徴的なのは、去年の9月27日、インテルがRedHatに出資したってことでしょうね。その前からインフォミックスがやるとは言っていたし、ぼちぼちやるって言っていた企業はあったんですけど。あのインテルが本気で出資したんです」

本誌編集部「インテルのお墨付きが付いたわけですね」

風穴「そのころ、RedHatは本当に中小企業で、まだ20~30人しかいなかったんじゃないかな。そんな企業にインテルが出資して、そのあとネットスケープと、もう1つ何かベンチャーキャピタルみたいなのが出資したんです」

本誌編集部「オラクルとかインフォミックスのようなデータベース系の企業は、Linuxにいきやすいと思うんですよ。でもインテルは、完全なハードウェアメーカーですから、そこがLinuxをサポートするというのは、ほかのどこかが声を上げるよりも影響力があったということですよね。

それで実際に、たとえばヒューレット・パッカードがサポートを始めるとか、IBMがサポートを開始したというような、Linux関連のニュースがスクープ的にガーッと出てくるようになったのは、今年の前半ぐらいからですね」

風穴「そうですね、去年の9月以降です。ただ、各企業にはいろいろ温度差があって、IBMは多分、一番本気でやっているんじゃないかなと思いますけど、ハードウェアやシステムのベンダーでは、動作検証結果を発表するっていう程度のところも多いですね。しかもほとんど子会社にやらせてみたりして。

中ではいろいろ動きはあるんですけど、まだ自社のの社運を賭けるようなビジネスの柱に据えるというほどではないんです」

本誌編集部「そのへんは米系と日本系では、かなり温度差があるんでしょうか?

吉岡「温度差、ありますよね」

風穴「いま、このLinuxブームの中では、企業として“うちはやりません”とはたぶん言えないと思うんですよね。どれだけ自分のビジネスとしてやるかというのは、ハードウェアシステムベンダーはまだ測りかねているところがあるんじゃないですか」

本誌編集部「そのへんの日本の対応の遅れっていうか、 Linuxへの乗り遅れ感というのはメーカーだけじゃなくて、別に悪口を言うわけじゃないんですけど、日本のいまの Linuxコミュニティーが、米国のコミュニティーより盛り上がりがちょっと遅れてるなっていう気がしないでもないんですよ」

風穴「うーん」

本誌編集部「いま何か Linuxコミュニティーに参加してるっていうのが旬みたいなところがありますよね。米国は、もうそこは通り抜けちゃったんじゃないかっていう気がしないでもないんですが」

風穴「まあ、難しいですよね。民族性というか、(笑)米国はあんまり集まりたがらないしとか。一応 Linuxインターナショナルとかあるけど、あれが絶対的な求心力があるかっていうと、みんなビジネスはビジネスでやってるし、みたいなところが。日本もJLA、日本 Linux協会が4月1日から発足して、6月にようやく総会までこぎつけたんですが、なかなか思ったほど機能してないんで」

本誌編集部「機能していない」

風穴「やきもきしているようなところが。特にメーカーは。吉岡さんは直接の仕事には……」

吉岡「いや、私は全然わかんないですよ、コミュニティーに属していないから。だから、どんなんですかね、よくわからないですけど。むしろそのへんは風穴さんのほうが長いことずっと見てたから、ご承知のことが多いんじゃないですかね」

風穴「なかなかフリーソフトウェアだと、企業もどういうスタンスで扱っていいのかわからないみたいです。あれどおりビジネスとしてガーッと、自分1人だけでやっていいのかみたいな、すると何かコミュニティーから反発をくらうんじゃないかみたいな、本当に真顔で心配してるんです」

日本のLinuxコミュニティーの課題。コミュニティーのあり方も新しくなる必要がある

本誌編集部「これ、ちょっと門外漢としての非常に素朴な質問ですが、 Linuxって、これが Linux日本語版だっていうのがないじゃないですか。メーカーにしてみれば、お客様に安心をもって薦められる Linux日本語版がないと本腰を入れづらいっていうところがあると思うんですよ。なぜ Linux日本語版っていうのは出ないんですか、っていうか、だれが作るんでしょうねっていうことになっちゃうんでしょうけど」

風穴「一応出てるけど、あのレベルなんですよ、まだ」

吉岡「たとえばね、私なんかは日本の Linuxのコミュニティーは全然知らないし、けっこう門外漢だから、その疑問後のをガンガン言っちゃうわけですよ。そうすると従来の第1世代の Linuxのお偉いさんからは、ある種、罵倒される部分があって(笑)、非常に素朴な疑問を言うと、文句があるんだったら自分で作れって言われちゃうんですね」

本誌編集部「たとえばその素朴な疑問って、どういうものがあるんですか」

吉岡「たとえば、何でもいいんですけどね、日本語のワープロがほしいなとか言うと、文句あるなら自分で作れ。それとか日本の Linuxの雑誌なんか、どれ見ても似たようなもんじゃないかって言うと、文句があるなら自分で原稿書けって言われるんですよ。

で、それはある種、この春ぐらいにずいぶんなんかありまして、何かっていうと、コミュニティーが小さいときは自分たちで全部あれして、何かするっていうのは私は非常に当たり前のことだと思うし、そういう時期っていうのは絶対、どんなコミュニティーにも必要だと思うんだけど、これだけ大きくなってるときに、そういう言い方をしていると、なんかタコツボに入っちゃって、次の発展がないんじゃないのかなというような気がしてるんですよ。

それは何でかっていうと、たとえば私はこういうものが必要だよというふうに言うってことは、そこに大きなビジネスチャンスがあるわけですよ。こういうことを必要としてる人が、少なくとも世の中には何人かいるっていうのがあるわけ。

だから米国だったらね、そういうことを、その素朴な疑問を言った人に対して、おまえ、どういうことがほしいんだってことで、ある意味で言うと起業家の人はね、そのビジネスニーズを見つけて、それをビジネスにしようとするわけですよ。質問した人を罵倒する暇があったら、そこから何か金儲けのネタを、どうやって取ろうかというスタンスですよね。

だから、素朴な疑問を言った人を、ある意味で言うと潰しちゃビジネスをシュリンクさせる方法でね、発展させる方法じゃない。で、声が出なくて、いままでそれを引っ張ってきた日本のコミュニティーの長くやってる人たちは、ひょっとしたら次のステップに行くのを自ら摘んでいるんじゃないかなっていう危惧はありますね」

本誌編集部「たとえば日本語ワープロがほしいという人がいたら、それは日本語ワープロを作れば売れるっていう意味なのかもしれないですよね」

吉岡「そう。だから、それをエンカレッジするような場所がないと、なかなか次のところにいかないでしょうね」

本誌編集部「実際そういうのをエンカレッジする状況っていうのはあるんでしょうか」

風穴「中小のソフトハウスとかは、まあ中小は資金力はないですけど、そういうところに一気にガーッと注力してもいいんじゃないかなって気もするんですけど。ないことはないし、コミュニティーといっても古くからやっているような人たちはたくさんいますからね、いろいろな面が。もちろん一生懸命エンカレッジするような方法でやろうという人もいるし、でもやっぱりそういうのにはちょっとっていう人も、たしかに中には、吉岡さんが言うような状況もたしかにあります。というのが現状ですね。

やっぱり Linux協会っていうかたちでユーザー会から発展的に協会ってかたちにして、企業があって、企業でやっていこうというときに、それがうまく調整できていないというか、本当に全体として理解する方向に向かうというところには、まだ行っていないという気がする。もちろん一部、中でがんばっている人たちもいるんですけど、そうじゃない人たちもやっぱりいるんで。そこがまあ、難しいですね。

コミュニティーにいた人たちにとってはやっぱり、何かこう自分の世界みたいなものがあって、という。そこをどうコミュニティーとして克服していくのかというのが、1つの課題という意味もあると思います。 Linuxというのはやっぱりフリーソフトウェアですけれど、コミュニティーベースで発展してきたし、多分これからもリーナスを中心に、コミュニティーベースで発展していく、コミュニティーベースというかコミュニティーも関わりながら全体として発展していくものだとすれば、コミュニティーのあり方というのも1つ、なんか新しくならないとという面はあるじゃないですかね。

ぼくもこの先、どうなっいくのかなと。ビジネスだけで、本当にコミュニティーはまったく無視してやればいいのかっていうのもちょっとどうかと思うし、だけど、じゃあコミュニティーの中だけで、内輪うちわしたようなところでやるのも、それはもうそういう時代じゃないんじゃないかという論もあるし。

そういう意味で Linuxもビジネスをどうするかという企業側の、これからどうやってビジネスしていくかというのがこれからの課題というか、ターニングポイントだと思うし、コミュニティー側はコミュニティー側で、この新しいビジネスのところを取り込んでいく時代に、コミュニティーとしてどうやってきちんと、また新しいコミュニティーのあり方というのを模索していくのかというのもまたターニングポイントだと思うんですよね、たぶん。それが本当にいま、ちょうどこれから今年後半に向けて……」

本誌編集部「今年後半に向けて……」

風穴「どうなるかはいろいろ。それはいろいろな意味で、RedHatが株式公開することに対してもいろいろあるわけです」

本誌編集部「批判とか、あるわけでしょう」

風穴「ええ。1人で儲けるのか、みたいなのがやっぱりある。そう考える人たちも一部にはいるわけで。でも、これから本格的にやるんだとすれば、それを摘んじゃうとやっぱり発展はないと思うし、RedHatはRedHatでどういうふうにビジネスやっていくのかというので、また、それはみんなが注目して。そういう意味で全体として、いま本当に転換点というか、次に行けるかどうか。一歩間違えると、そのままヒューッて(笑)。でも、しぼんでいく可能性がないとも言えないんじゃないかなと思いますよね」

(Vol.2に続く)

【お詫び】
本対談の掲載にあたり、一部の用語と人名につきまして、表記の確認を取らずに記事を掲載いたしました。以上におきまして、関係者および読者の皆様にご迷惑をお掛けしたことをお詫びし、訂正させていただきます(ascii24編集部)。

【関連記事】【夏季特別企画 Linux対談 Vol.2】日本のプログラマーよ、立上がれ!Linuxコミュニティーに小(さ)村井(むらい)、出でよ!
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/1999/0810/topi05.html

【関連記事】【夏季特別企画 Linux対談 Vol.3】Netscapeの『モジラ』で開眼したオープンソースの意味合い
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/1999/0811/topi02.html

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