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「コンピューター教育シンポに1万人」――教育とコンピューター利用研究会

1999年08月10日 00時00分更新

文● 船木万里

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8月6日、7日の両日にわたり、ACE(教育とコンピューター利用研究会)の主催によるシンポジウムPOEM'99が玉川学園の視聴覚センターで行なわれた。ACE(The Association of Computer & Education)とは、教育関係者による任意団体で、教育におけるコンピューター活用の情報交換や啓発活動を行なっている。POEM(the Party On Education of Multimedia)は、'93年から始められたイベントで、今年で7回目を数える。本稿は、その1である。

6日、正午から、ACE会長である渡辺 隆(わたなべ・たかし)氏や玉川学園学長による挨拶が始まった。午後からは、メーンステージにおいてNECA(ねっか Nippon Educational Computing Association)の視察報告や同志社国際高校のワークショップ、そして基調講演が行なわれた。また、視聴覚センターの各フロアーでは、協賛企業によるブース展や、教室会場でのワークショップ、企業の発表などがあった。

NECA代表、今野恵理子氏 NECA代表、今野恵理子氏



「コンピューター教育シンポに1万人」

午後のプレゼンテーション、最初はNECA設立準備室代表、今野恵理子(こんの・えりこ)氏。アメリカで6月に行なわれたNECC(National Educational Computing Conference)の視察ツアーを企画して、日本の教育者数人と訪米した模様を、ビデオを交えながら報告した。

NECCは、全米から1万人近い教育者が集まる、コンピューター教育に関する大規模なイベント。NECAでは、情報教育における国際交流の窓口を設け、また国内でのつながりを広げたいと、このような視察ツアーを行なっている。今回は、日本から渡米した教育者3人が、会場で日本における事例報告を発表した。今後NECAは、米国の知識や経験を日本の現場に活かし、活動を本格的に始動する予定。

見知らぬ同士で考えをまとめさせる同志社国際高校によるワークショップ

続いて、同志社国際中学校・高等学校のコミュニケーション部主任、ヒレル・ワイントラウブ氏、副主任中川好幸氏により、“コミュニケーション教育という新しい概念”と題するワークショップが行なわれた。ワイントラウブ氏が話す英語まじりの言葉を、中川氏がわかりやすく説明しながら進んだ。

同志社国際中学・高校コミュニケーション部主任、ヒレル・ワイントラウブ氏 同志社国際中学・高校コミュニケーション部主任、ヒレル・ワイントラウブ氏



舞台に登場したワイントラウブ氏は、まず最初に観客席に向かい「遠すぎます。皆前列に移動して、もっと近くに来て下さい」と手招きした。また、会場入り口でワークショップ用に配布されたモール(毛足つきの針金)と無地のカラーカードを用意するように指示。参加者は、何が始まるのかと戸惑い気味の表情を浮かべる。

同校教員である西川氏の協力で、最初に3人による寸劇が行なわれた。手話でなんとか意思を伝えようとする、言葉の不自由な人を西川氏が演じる。ワイントラウブ氏は、その動作を理解しようとせずに逃げ出す通行人A。中川氏は、わからないなりに努力し、なんとか意思の疎通を図る通行人Bを演じた。

「このスキットで、どういうことがわかりましたか? AとBとの違いはなんでしょうか?隣の席の人と話し合ってください。一緒に考えていきましょう」と、見知らぬ他人同士でディスカッションするように指示が出された。「さあさあ」、と促されて、恐る恐る参加者の対話が始まる。

ステージを降りたワイントラウブ氏と中川氏は、各々マイクとビデオカメラを手に客席を歩き、直接参加者に問いかけた。「努力すれば分かり合えるのに、コミュニケーションが不足している」、「理解しようとする姿勢が違う」など、意見はほぼ一致した。「コミュニケーションを取ろうとする姿勢が重要である」という寸劇の意図は十分伝わったようだ。

紙風船の融通性

紙風船を使ったパフォーマンス
紙風船を使ったパフォーマンス



次に2人が取り出したのは大きなビーチボール。教師が生徒に与える知識をボールになぞらえ、大きすぎたり、また形が決まりきったりしたものでは、教師が生徒に押しつける一方通行のコミュニケーションになってしまうという様子をキャッチボールのパフォーマンスで伝える。

そして今度は紙風船が登場。さまざまな大きさ、色の紙風船はキャッチボールによってふくらんだりつぶれたりと形が自在に変化する。紙風船で戯れるように、“情報教育”においても、教師があり方を押しつけるのではなく、お互いが自在に意思を伝え合う状態が理想的であるとの考えを示した。

1人ひとりのアイデアを形に

さらに、参加者に配られたモールで“情報教育に大切だと思うこと”を、1人ひとりが形にしてみるという“創作作業”の時間が取られた。くねくねした針金を手に、全員が考え込む。数分間の制作作業の後は、小グループでの“作品観賞及びディスカッション”。再び両氏はビデオとマイクを持ち、客席へ。

参加者にマイクを向ける中川氏、ビデオをまわすワイントラウブ氏
参加者にマイクを向ける中川氏、ビデオをまわすワイントラウブ氏



“つながっていくハート”、“あちこちに曲がり角がありながらも、上へ上へと伸びていく道”、“自在に飛び回り、情報を伝え合う蝶”など、各々が個性的な形を披露。参加者の話す様子と、その“作品”が、壇上の大きなスクリーンに映し出された。

目的は“コミュニケーション”

モールでのワークショップがひと段落した後、同志社国際中学・高校の新施設、“コミュニケーションセンター”が紹介された。この新施設での生徒の様子を撮影したビデオが映し出された。パソコンに向かったり、指人形芝居に取り組んだり、本を読んだり、おしゃべりしたり……と、自由な空気が流れているという印象。

同校では、情報教育のための新しい施設を開設するにあたり、その名称について頭を悩ませたという。“情報教育”や、“メディア”、“コンピューター”という言葉では暖かみが感じられない、閉鎖した雰囲気……などと試行錯誤した末、“コミュニケーションセンター”という名称に決定。

感想を、とマイクを向けられた参加者からは、「生徒たちが楽しそうにしているのが印象的」、「カジュアルな雰囲気」、「教師にやらされているのではなく、自主的にいろんなことに取り組んでいるようだ」などの声が上がった。

ワイントラウブ氏、中川氏も「教師の思惑を超えて、生徒たちはさまざまな形でコミュニケーションセンターを利用しています。与えられたものではなく、多少難しくても自分たちで考え、使いこなしていくという新しい学習の形が始まろうとしています」と、コミュニケーションセンターの果たす役割についての期待を語った。

最後に両氏は、「今後の情報教育についてのアイデアを手元のカードに書いて、私たちに向かって投げてください」と呼びかけた。参加者たちがステージへと投げる蛍光色のカードが宙に舞い、華やかな幕切れとなった。

アイデアを書いたカードをステージに投げる参加者たち
アイデアを書いたカードをステージに投げる参加者たち

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