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第1回iMedioサロン開催~メディアとしてのインターネットとコンテンツの今後 ~

1999年08月02日 00時00分更新

文● 服部貴美子 

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大阪市は、マルチメディア産業の総合的な振興拠点であるソフト産業プラザの整備を進めてきた。その一環として今春に設立された創造・情報化支援施設が“iMedio(イメディオ)”だ。“iMedio”は“Incubator for Multimedia Industry Osaka”の頭文字であると当時に、Image(映像)とStudio(スタジオ)とを組合せたイメージからつけられた名称である。

会場では、“iMedio”に関する資料も配布された。見学会は毎週火・木曜日に行なわれている会場では、“iMedio”に関する資料も配布された。見学会は毎週火・木曜日に行なわれている



去る7月16日(金)に開催されたiMedioサロンは、創業間もないベンチャー企業、中小企業のコスト負担を軽減し、仕事のためのよりよい環境を提供しようという、この施設の創業理念を受ける形で企画されている。
 
第1回目となるこの日は、立教大学助教授の古瀬幸広氏から「メディアとしてのインターネットとコンテンツの今後」というテーマで講演が行なわれた。会場はアジア太平洋トレードセンター(ATC)ITM棟10階のセミナールーム。

“iMedio”のあるアジア太平洋トレードセンター(ATC)ITM棟には、セミナールームや展示場、商業施設などが入居している
“iMedio”のあるアジア太平洋トレードセンター(ATC)ITM棟には、セミナールームや展示場、商業施設などが入居している



司会進行は、セミナーの協力団体である(財)イメージ情報科学研究所・関西業務部主査の小松久美子氏が務めた司会進行は、セミナーの協力団体である(財)イメージ情報科学研究所・関西業務部主査の小松久美子氏が務めた



講師の古瀬氏は、東京大学文学部卒業後、科学技術と社会を対象にしたフリージャーナリストとして活躍。その後、36歳の若さで立教大学に助教授として招かれたという経歴の持ち主である。「インターネットの黎明期からその発展にかかわってきた生き証人として、お話ししましょう」という挨拶から、講演がスタートした。

オープン思想と日本の抱える問題

まず最初に、インターネットの発明は“オープン思想”と、それによって生まれた新しい産業社会の常識であることを説明した。今、話題のLinuxとMS-NTとを例に挙げ、「重要な部分をベンダーや特定企業だけで独占するのではなく、公開した方が、ユーザーを含むいろいろな所属の人からの意見を吸い上げによって、改善速度を飛躍的に向上させるはず」と力説。

「西海岸の若者のように、Tシャツとジーンズ姿にしようかと思った」とジョークをとばす古瀬氏。終始リラックスしたムードで講演は進んだ「西海岸の若者のように、Tシャツとジーンズ姿にしようかと思った」とジョークをとばす古瀬氏。終始リラックスしたムードで講演は進んだ



この“オープン思想”は、アメリカ西海岸の若者たちの社会から生まれたもの。彼らは、既存の権威への挑戦としてRFC(Request For Comment)という手法を編み出した。これは、インターネットに関する規格や方式に関する提案を文書化して公開したデータの総称で、種々の開発のプロポーザルの段階で内容がオープンになるため、誰でも改善に関する意見を出すことができる。

同じアメリカでも、西海岸と東海岸とでは、コンピューター文化の発展の状況が全く違う。いわゆる「シリコンバレー」と呼ばれる地域も、西側位置している同じアメリカでも、西海岸と東海岸とでは、コンピューター文化の発展の状況が全く違う。いわゆる「シリコンバレー」と呼ばれる地域も、西側位置している



これに対し、現在の日本の情報化社会は“情報の独占”という問題を抱えている「どんなに高性能の製品が登場しても、その内容はブラックボックス化しており、企業専属のSEとセットで売られているようなもの。そういった経済システムによる独占と、政府による政治システムによる独占――とりわけ、コンピューターの独占に対する危機感が強い」と述べた。ハード・ソフトも高価な上に、通信環境を整えるのに一個人では費用かかかりすぎ、コンピューターが権力者(大企業と政府)のみの道具になってしまう。その結果、情報も権力者に集中し、持たざる者である一般市民はコントロールされるだけの存在にならざるをえない。


“ハッカー”たちの活躍

そうした大企業の情報の独占理念に反抗してきたのがハッカーたちだ。“ハッカー”という単語は、しばしば誤用されているが、悪意でシステムを破壊する“クラッカー”や、違法コピーを行なう“パイレーツ”とは異なる存在である。1984年から開催されている“ハッカーズカンファレンス”に出席した経験をもつ古瀬氏は、世界初のマイクロプロセッサー“4004”を開発(1972年)した嶋正利氏や、本格的なパソコンとしてAppleIIを開発(1977年)スティーブ・ジョブス氏とスティーブ・ウォズニャック氏らの活躍について語った。「彼らが起こした革命の特徴であるオープンアーキテクチャーと情報の共有という理念が背景にあれば、Computeing Power to the Peopleが実現するはずだ」。

本格的なパーソナルコンピューターとして登場したAppleIIシリーズは、ホビーパソコンとして、多くの人に受け入れられることになり、IBMをはじめとする他社にも大きな影響を与えたコンピューターだった本格的なパーソナルコンピューターとして登場したAppleIIシリーズは、ホビーパソコンとして、多くの人に受け入れられることになり、IBMをはじめとする他社にも大きな影響を与えたコンピューターだった

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技術革新の妨げになっているものは?

 
1990年代に入り、半導体革命をドライビングフォースに、パソコンは価格の低下と性能の向上を同時に実現。マルチメディア情報をインターネットでやりとりできる時代が到来している。
 
「WDMなど、新しい高速バックボーン技術や、NTTが検討している安価な定額制サービスが実用化されれば、MP3のウェブ配信など、コンテンツの将来像が見えてくる。反面、ろくなコンテンツがないという悪い話も」と古瀬氏。

“ダイアルQ2”に類するイメージの悪いメディアへの懸念や芸術で儲かるのか? という疑問も残る。また、「市場なきところに、著作権を持ちだすのはナンセンス。初めは著作権を留保し、クリエイターに儲かる作品づくりをさせる時間を与えるくらいの勇気が欲しい」と、出版業界への苦言を述べた。

また、国家のもつ情報を国民に還元できていない日本の現状を指摘し、「たとえば判例集などのデータベースを、専門家のみに高額で公開するのではなく、無料で国民に公開することで、新しいコンテンツビジネスが生まれてくるのでは? と提言した。


iMedioへの期待

 
最後に、情報化支援施設としての“iMedio”に期待することとして、次の3つの役割を挙げた。

まず、正しい知識のセンターとして、情報を収集すること。この時、ホームページクリエイターたちには馴染みの深いHTMLについて「DLタグで用語解説を作成したり、H1タグで大見出しをピックアップすることが可能なはず。ところが、実際にはインデントや文字サイズの調整に使われるケースが多く、本来の力を発揮しきれない」というエピソードも。
第2に正しいコミュニティセンターであること。第3に正しい投資のセンターであること。アメリカのように個人のアイデアに無償でお金を出してくれるエンジェルの存在がない日本において、アイデアと技術が評価される場を作ることの大切さを述べ、創業から店頭公開まで時間がかかりすぎる日本の証券市場のシステムにも疑問を投げかける形で講演を終えた。

クリエイターだけでなく、大企業の肩書きをもつ参加者も多かった。講師の辛口なコメントに苦笑いする場面も。なお、次回の開催は10月の第2金曜日の予定
クリエイターだけでなく、大企業の肩書きをもつ参加者も多かった。講師の辛口なコメントに苦笑いする場面も。なお、次回の開催は10月の第2金曜日の予定

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