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「携帯モバイル“ザウルス”はどこへ向かう?」--現代マーケティングフォーラム例会から

1999年08月02日 00時00分更新

文● 服部貴美子

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“現代マーケティングフォーラム”は、来年で創立20周年を迎えるマーケティングの研究会。'99年7月現在で、ビジターを含めて約180名を擁する。現代のビジネスや社会現象についてあらゆる角度から議論、研究することを目的に、テーマ性のあるセミナーを開催している。7月の月例研究会は、シャープ(株)の情報システム事業本部の下山徹氏を招き、日本のPDA(携帯端末)の代名詞ともいえるザウルスにスポットを当てた講演を開いた。会場は、大阪・天満橋にあるドーンセンター。

参加者の顔触れは、学生からメーカー社員、教育関係者、起業家など多彩
参加者の顔触れは、学生からメーカー社員、教育関係者、起業家など多彩



ザウルスの誕生とヒットの要因

ザウルスは、'93年に発売された。ハード面でみると、パソコンと電子手帳との中間に位置する新携帯情報ツールといえる。発売以来、今年5月までに累計180万台の売り上げを記録している。とはいうものの、その内訳は買換えが中心で、「実ユーザーは、その3分の1程度の見込み。パソコンが、'98年に750万台売れたという数字に比べると、あまりにも小さい」(下山氏)--。

ビジネスツールとして認知度の高いザウルスだが、新機種の登場でユーザーに変化が出始めているという
ビジネスツールとして認知度の高いザウルスだが、新機種の登場でユーザーに変化が出始めているという



"いつでも、どこでも、誰にでも"という商品コンセプトと手書き文字認識の良さは、キーボードアレルギーに悩まされていた中高年層にとって、当時、大きな魅力だった。また、赤外線通信機能による情報共有、パソコンとの連携によるスケジュール管理などの利便性などが口コミで広がり、当初は順調に市場を伸ばしていった。販売面では、売り場に明るいイエローと紺を使うなど、"難しい機械"から"やさしい機械"へのイメージチェンジに成功したといっていいだろう。

シャープ(株)の携帯システム事業部商品企画部係長、下山徹氏。下山氏自身も、もちろんザウルスの愛用者。「実際に自分が使ってみなければ、新しい用途など思いつくはずがない」 シャープ(株)の携帯システム事業部商品企画部係長、下山徹氏。下山氏自身も、もちろんザウルスの愛用者。「実際に自分が使ってみなければ、新しい用途など思いつくはずがない」



市場の変化に気づかなかったことによる伸び悩み

もちろん、研究開発部門での苦労は大きかったようだ。下山氏は「お客さまは、小型軽量化を求める反面、高速性と大容量も望む。しかも価格を下げて欲しいと、両立できないようなことばかり」と苦笑い。それでも、デジカメ機能の付加、イラスト対応、携帯、PHSとの接続による通信機能の強化、VGA画面の導入、ワイド画面--等々、プラスアルファの機能をもつ上位機種を送り出してきた。

にもかかわらず、パソコンの本格的な普及、携帯電話の予想以上の増加、電子メールのパーソナル化、インターネット環境の充実、音楽・画像を含む、各コンテンツのデジタル化という市場変化をとらえきれなかったという。「ビジネスで売れてきたというイメージをぬぐいきれなかった」と反省点を述べた。

ところが、ソニーのVAIOなどが"楽しさ"を打ち出したあたりからメーカーの動きにも変化が見え始め、ザウルスのライバルともいえるWindowsCE、PalmPilot、ポケットボード、iモードなどの登場により、PDA市場は活気づいてきている。とくに、ポケットボードの登場以降、携帯端末を持つ女性の数が伸びており「今年こそが本当のモバイル元年になるかも」と下山氏は分析している。

今春の新製品に関するパンフレット類。若いモデルを使った明るいデザインは、ビジネスマン向けPDAという印象を払拭してくれる
今春の新製品に関するパンフレット類。若いモデルを使った明るいデザインは、ビジネスマン向けPDAという印象を払拭してくれる



インターネットに軸足を置いた新しい展開へ

 WindowsCE機などとの違いについては、「ザウルスは独自OSゆえに文字認識が良く、アプリケーションの切り替え/連動の高速化を実現できている。もちろん、汎用性や拡張性が弱いため、ソフト開発面で遅れを取ることにはなるが、使ってみれば良さがわかるはず」と発言。デファクトスタンダードでないことの不利を認めた上で、モバイル機器としての機能の高さに対する自信を見せた。

今年の春からはブロバイダー事業へも参画。「この分野に関しては最後発」と自認しているが、“パソコン”ではなく、あくまで“情報家電”向けのプロバイダーとして特化するつもり、と意欲的だ。

ネットワークへの簡単加入や目的別コンテンツに力を注いだ“シャープスペースタウン”には、出版社などとの連携によるデータが満載されている。それらを短時間で個人情報として活用できる“クイックパス”という仕組みを作り上げた。

 「既存ユーザーに新しい使い方を提案すると同時に、ザウルスはこんなふうに使えるという実例を見せることで、新しいユーザーを獲得することができる」と下山氏。イベント会場などでは、目をひくPHS機とザウルスを接続し、デモンストレーションすることもあるのだとか
 「既存ユーザーに新しい使い方を提案すると同時に、ザウルスはこんなふうに使えるという実例を見せることで、新しいユーザーを獲得することができる」と下山氏。イベント会場などでは、目をひくPHS機とザウルスを接続し、デモンストレーションすることもあるのだとか



ホームページの開設にタイミングを合わせるかたちで発売された『アイゲッティ』は、メール利用に重点をおき、無駄な機能をマイナスした低価格のモデル。購入実績の内訳をみると過半数が新規、2割が女性と、新しいユーザー層を獲得している。

4月に登場した『アイクルーズ』は、『アイゲッティ』とは対照的に高性能にこだわったモデル。オートサーフィン機能なども搭載し、ネーミングにも情報の洪水の中をスイスイとわたっていくイメージを与えている
4月に登場した『アイクルーズ』は、『アイゲッティ』とは対照的に高性能にこだわったモデル。オートサーフィン機能なども搭載し、ネーミングにも情報の洪水の中をスイスイとわたっていくイメージを与えている



現代のマーケティングとザウルスの未来

これからの時代のマーケティングについて下山氏は、「アドレスのパーソナル化によって個人が主役になりうるということや、彼らからの情報発信ということを無視しては進められない。また、書店や旅行代理店がウェブ店舗を持つなど、大手が資金力で勝ち取っていた立地条件という足かせがとれ、小さな組織でもサービスの善し悪しで勝負ができる時代になっている点にも注意したい」と説明した。

そうして、誰もが気軽にネットを利用している反面、リスクに関する認識が甘いことも指摘。ネット上でのモラルや、個人情報に対するリスク管理に、もっと神経を使うべきと付け加えた。

現在シャープでは、電子書店から書籍のテキストをダウンロードできる“ザウルス文庫”や、古典のデータをデジタル化して活用する“万葉集ザウルス”などへの取組みを始めている。今後は、個々のユーザーに合わせたパーソナルザウルスとしての目的別展開と、電子メールやインターネットなど広く使ってもらえる用途に特化した専用機の充実、最新のインフラサービスに対応できるマルチメディア端末としての仕組み作りという3つの方向で展開していきたいと抱負を述べた。

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