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「電子投票システムのセキュリティー技術は実用段階」--日本社会情報学会定例研究会から Vol.1

1999年07月19日 00時00分更新

文● 編集部 中野潔

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9日、日本社会情報学会(同名の学会が2つある。こちらは日本都市情報学会だった方)は、“社会情報理論の課題と次世代への展望”と題して、第70回定例研究会を実施した。

最初に、早稲田大学理工学部情報学科の後藤滋樹教授が“次世代インターネットの研究課題”と題して講演した。次に、“社会情報理論と政策評価”と題して、リレープレゼンテーションを開いた。講演者は、電気通信大学大学院情報システム学研究科の太田敏澄教授、聖徳大学の五藤寿樹助教授、同志社大学の新川達郎教授、群馬大学社会情報学部の富山慶典教授、中央大学文学部社会情報学科の宮野勝教授。司会は、東京工業大学大学院社会理工学研究科の遠藤薫・助教授である。

本稿では、後半のリレープレゼンテーションについて、報告する。

「電話帳の共有の仕方で、派閥の形成結果が変わる……」

後半では、“社会情報理論と政策評価”と題して、5名の講演者によるリレープレゼンテーションが繰り広げられた。電気通信大学の太田敏澄教授、聖徳大学の五藤寿樹助教授、同志社大学の新川達郎教授、群馬大学の富山慶典教授、中央大学の宮野勝教授--の5名。司会は、東京工業大学の遠藤薫・助教授である。

司会役の東京工業大学の遠藤薫・助教授
司会役の東京工業大学の遠藤薫・助教授



太田教授は、“サイバー・コモンズの構築をめざして -ディジタル社会における情報・知識の共有地の開発-”と題して講演した。太田教授の研究室では、個人の保有する自分向けの電話帳を、自分だけが占有する場合(個人記憶モデル)、会った人と1対1で交換し、自分のものと統合していく場合(対人交流的記憶モデル)、共通データベースとして保有する場合(外部記憶モデル)とで、集団(俗にいえば派閥)の形成に違いが出るか否かを、シミュレーションで調べている。

サイバースペース上の共有知識について語る電気通信大学の太田敏澄教授
サイバースペース上の共有知識について語る電気通信大学の太田敏澄教授


また、社会情報学事典をウェブページ上で構築しているが、それをもとに、用語に基づいて論文(のカバー範囲や位置づけや関係)を視覚化するなどしている。

五藤助教授は、“自治体の政策評価 -政策評価と情報システム評価-”と題して講演した。政策体系は、政策→施策→事業 という順序で具体化される。この事業を、行政機関では“事務事業”と呼んでいる。五藤教授によれば、目的である事業あるいは仕事と、手段である事務とは別ものと捉えるべきである。前者では有効性、後者では効率性が問われる。旧来型の情報システムの評価では、A事務事業にAシステムがあり、B事務事業にBシステムがあり、個々の事務事業に対するシステムの効率性が評価されてきた。これからは、事務事業と情報システムとをクロスさせた評価が必要になる。

行政の各事業とそのための情報システムを単独で評価するのでは足りないと説く、聖徳大学の五藤寿樹助教授
行政の各事業とそのための情報システムを単独で評価するのでは足りないと説く、聖徳大学の五藤寿樹助教授



「電子投票システムのセキュリティー技術は実用段階」

新川教授は、“社会情報理論と行政システム”と題して講演した。電子政府論というものがある。そこでいわれる電子政府の特徴を誇張すると、事務執行のパターンの変化、アクセス可能性の拡大を特徴とする“ペーパーレス政府”、事務権限の実質的分散パターン形成を特徴とする“ネットワーク政府”、政府の普遍的存在と政府イメージの変化を特徴とする“ヴァーチャル政府”といったキーワードで表現できる。住民の意思から始まる決定の過程を、政策プロセスだけでなく、情報プロセスの観点からも、捉えられるであろう。

電子政府は、政府と住民との関係を変える、と同志社大学の新川達郎教授
電子政府は、政府と住民との関係を変える、と同志社大学の新川達郎教授



権限の分散により、権限がどこにでも日常的に存在するようになると、よりよい社会状況を実現するために罰金で権力的に強制すること、サービスを政府が与え、市民がそれを享受するという図式、政策形成への市民の参加と政策責任--などに、変化が生じざるをえない。

富山教授は、“電子投票システムを用いた住民投票による政策評価の課題”と題して講演した。現在提案されている電子投票システムのセキュリティー技術は、実用段階にまで到達している。さて、直接民主主義を“討議と決定へのすべての市民の参加”で、間接民主主義を“討議への一部の市民の参加と決定へのすべての市民の参加”で、特徴づけることができる。直接民主主義の概念を用いて、日本型の間接民主制を評価すると、討議においても決定においても大きな歪みを生じていると言える。

電子投票システムのセキュリティー技術は実用段階に来ていると群馬大学社会情報学部の富山慶典教授は断言する
電子投票システムのセキュリティー技術は実用段階に来ていると群馬大学社会情報学部の富山慶典教授は断言する



従来、間接民主制のもとで直接民主制に近い形を実現したり、一部に直接民主制を取り入れたりすることは、物理的に非常に困難だったが、電子投票システムを導入することで、採用可能になる。富山教授は、局面ごとに(本稿では詳細略)、ボルダ方式、加重多数決方式、コープランド方式の採用を提案している。

近代的市民が育っているのか

宮野教授は、“「民主主義」度の測定について -政治評価の理論の試み-”と題して講演した。'80年代、'90年代に、中南米、アジア、アフリカ、東欧などで“民主化”が進んだ。民主主義は、世界中を相手に議論するものであるから、どこに対しても使える“「民主主義」度”のインディケーターの確立が要望される。市民の参加、市民的自由、選挙における競争といった前提と照らし合わせて、日本の民主主義の理念が完成したとは、とてもいえない。

近代的市民は育っていないようだ、と中央大学文学部社会情報学科の宮野勝教授
近代的市民は育っていないようだ、と中央大学文学部社会情報学科の宮野勝教授



普通の市民というのは、政策に通暁し、議論に積極的に参加する“近代的市民”では、なさそうである。では市民が何を見ているかというと、米国などの例をみると、政府の過去の実績を見ているようである。政治、とりわけ民主主義において、“情報”は、大きなキーワードとなる。デジタルデモクラシーにおいては、デマゴーグ、衆愚政治など、古代民主主義においても問題になった問題を、考慮しなければならない。

司会役の遠藤助教授は、“社会情報理論と政策評価 -ディジタル・グローカリゼーションの時代に向けて-”という観点で、コメントを差し挟みながら、司会進行、質疑応答の切り盛りの役を果たした。

熱心に聞き入る聴講者たち
熱心に聞き入る聴講者たち

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