このページの本文へ

ヒマラヤ颪(おろし)と蛍とインドIT産業――アジアインターネットセミナーから(2)

1999年07月19日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

14日、東京・千代田区の東京會舘において、インターネット産業をリードするアジア企業を紹介する“アジアインターネット/ソフトウェアセミナー”が開催された。本稿はそれを伝える第2回。今回はインドのIT大手企業5社を中心にお伝えする。

今回のセミナーに参加したインドのIT企業は、インフォシス・テクノロジーズ、ウィプロ・インフォテク、タタ・インフォテク、タタ・コンサルタンシー・サービシズ、サトヤム・コンピュータ・サービシズの5社。日本では、あまり馴染みがないかもしれないが、いずれもインドを代表するハイテク企業である。

インドというと、“カレー”や“ターバン”を想像する方も多いかもしれないが、それはもはや遠い昔のこと。今やインドと言えば、コンピューター産業、とりわけソフトウェアの開発では世界の中心的な存在になっている。インドのIT産業が発展した要因には、'91年のナラシマ・ラオ政権による経済政策や、外資を積極的に導入したことなどが挙げられる。

また、もともとインド人は数学に強い民族だったと言われている。ゼロという概念を発明したのも彼らである。インド中部から南部にかけて、ハイデラバードやバンガロールなどの都市では、有数のコンピューター会社が集まった一大エレクトロニックシティーを形成している。

【インド編】
タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)タタ・インフォテク・リミテッド
サトヤム・コンピューター・サービシズ
ウィプロ・インフォテク
インフォシス・テクノロジーズ

タタ財閥系のコンピューター会社が参加

今回のセミナーでは、インドではとても有名な“タタ”という名前を冠した財閥系コンピューター会社が2社参加していた。1社はタタ・コンサルタンシー・サービシズ、もう1社はタタ・インフォテク・リミテッドである。

タタ・コンサルタンシー・サービシズは、世界48ヵ国に拠点があり、1万1000もの人員を有する、インド最大のソフトウェアサービス会社である。後述する“SEI-CMM Level5”を取得している会社でもある。同社は主にバンキングシステム、CAD/CAM、データ通信システム、マルチメディア関連ソフトなどを得意としている。日本では、教師向けにローカライズしたマルチメディアツールなどを納入しているという。

同社のセミナーでは、マルチメディア関連製品の説明とデモンストレーションがあった。同社の代表的な製品である“innovaTVシリーズ”を使って、MPEGビデオシステムの紹介があった。編集済みの料理番組サンプルは、ビデオを見ている途中でレシピを調べたいと思ったときに、画面をクリックするだけでレシピ情報をすぐに引き出すせるというインタラクティブビデオだった。

MPEGビデオシステムのデモンストレーション
MPEGビデオシステムのデモンストレーション



もう1社のタタ・インフォテク・リミテッドは、ユニシスのシステムを中心として、教育関係、ソフト販売分野でシステムインテグレーションサービスを展開している企業である。外国為替、金融市場取引サポートシステム『EasyDeal』や、サイン認証パッケージ『SignBank』などの金融システムも得意としている。

日本ではオンサイトコンサルティング業務から始まったが、2年前から東京支社も開設した。JICAにGDBシステム(地図情報データベース)を納入した実績もある。

アジア太平洋地区代表のS.モハナゴルト氏は、同社のGIS(地図関連情報システム)について紹介していた。いままでの製品はウェブ上で地図情報データを共有することが難しかった。同社の製品は、XML(eXtended Markup Language)をベースに、データの共有化を実現していることに大きな特徴がある。同社のGISサーバー上にある地図データをXML変換エンジンを通じてインターネットサーバーに送り、クライアント側でブラウジングできるようにしている。

タタ・インフォテク・リミテッド、東京支店のS・モハナゴパール氏
タタ・インフォテク・リミテッド、東京支店のS・モハナゴパール氏



世界で9社しか取得していない“SEI-CMM Level5”を取得したインド企業

“SEI-CMM(Software Engineering Institute -Capability Maturity Model)”は、ISO9001と同様に、品質レベルの評価基準の指標となるもの。その中でも、CMM Level5は最高の基準であり、その取得は非常に難しい。CMM Level5を取得している企業は、モトローラ、IBMなど世界で9社しかなく、しかもそのうちの3社がインド企業だという。今回のセミナーでは、CMM Level5を取得した3社すべてが参加していた。1社は冒頭に出てきたTCS、残りがこれから紹介する2社である。
サトヤム・コンピューター・サービシズは、インドで初めて“オールインディア・インターネット・サービス・ネットワーク”を立ち上げたISP(インターネットサービスプロバイダー)である。同社では、金融関係のシステムに特化したソフト開発や、メンテナンスサービスなどの業務を中心に据えている。

同様に、SEI-CMM Level5を取得しているもう1つの企業が、ウィプロ・インフォテクである。ウィプロは、世界で初めてSEI-CMMLevel5を取得した。上場IT銘柄としてはインド最大の企業で、従業員も5000人を超える。もともとはハードウェアの生産からスタートした会社だが、業務内容の多角化を進め、'90年代からソフトサービスも始めている。また、GEと合弁し、医療機器や、ハイテクヘルスケア機器もインド国内で製造しているという。

サトヤム・コンピューター・サービシズのブースにて
サトヤム・コンピューター・サービシズのブースにて



ウィプロ・インフォテクのブースにて
ウィプロ・インフォテクのブースにて



現在のドットコムは嵐の前の蛍と同じ、Eコマースを制する者はビジネスを制する

インフォシス・テクノロジーズは、インドでも5本の指に入る大企業である。本社はバンガロールにある。米国、カナダ、ヨーロッパ、日本など世界各国にも拠点があり、従業員3160人を擁する。ソフト開発、メンテナンスサービス、コンサルティング業務などを中心に展開している。

同社の専務取締役であるM・ゴパラクリシュナン氏は、電子取引によって広がるビジネスチャンスについて語った。現在、IT産業の世界は、Eメールやウェブを提供するだけのサービスではなく、パーソナル化、カスタム化した仮想企業が続々と出てきている。そのような企業は、在庫の管理作業などの工数を大幅に効率化し、大幅な人員削減に成功しているという。

また、ルイス・ガースナーの言葉を引用して、「現在のドットコムは嵐の前の蛍と同じ」だとも語った。IT産業でビジネスチャンスを狙って新興企業がどんどん出現しているが、今後は従来型の大企業が動き出して、さらに大きな変革が訪れるだろうと予測した。

将来リーダーとなり得る企業は、ITを便利なサポートツールとは考えず、新しく売り上げを創出するものだと認識している企業だという。Eビジネスを事業戦略としてとらえられるかどうかが成功の鍵になると語り、同社でもサイバーソース社と提携、ECシステムの分野に積極的に進出しているという。

今回紹介したインド企業は、いずれも金融関係のシステムに強く、Eビジネスにも意欲的な姿勢をみせている企業ばかりだった。ゴパラクリシュナン氏の言うとおり、Eビジネスを事業戦略としてとらえらない企業は、今後、新しい変革の波の中で生き残ることは厳しいかも知れない。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン