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著作権思想をどうやって守って行くのか?--芸団協“「音楽」Day ネット創世記-デジタル時代の光と影-”

1999年07月19日 00時00分更新

文● 千葉英寿

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(社)日本芸能実演家団体協議会(以下、芸団協)のCPRA(実演家著作隣接権センター)は、16日、著作権法100年記念協賛事業として開催している連続シンポジウム“‘実演家の権利’を考えるパフォーミング・デイズ”の3日目にあたる“「音楽」Day ネット創世記-デジタル時代の光と影-”を東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて開催した。
 
CPRAは、芸団協の1部門として、芸団協の重要な業務のひとつである指定団体業務(商業用レコードの2次使用料、貸レコードの報酬請求権および私的録音録画補償金)の徴収・分配を担当している団体だ。
 
“「音楽」Day”は、シンセサイザープログラマーで日本シンセサイザー・プログラマー協会副会長の松武秀樹氏を司会に実演とシンポジウムの2部構成で実施された。

ISDN回線を用いた遠隔地セッションを実現

前半の実演の“演奏の部”では、東京・渋谷のヤマハ渋谷のスタジオと会場の東京国際フォーラムとをISDN回線で直結。デジタル通信による遠隔地セッションとその演奏を音源として実際に圧縮・配信するデモンストレーションを“圧縮音源制作の部”として実施した。

ISDN回線を使って東京・渋谷と東京・有楽町を結んで行なわれた遠隔地セッション。ステージには尺八奏者のジョン海山ネプチューン氏とそのバンドと直居隆雄氏(ギターを担当)。右上の画面は渋谷で演奏している弦楽四重奏団と松武秀樹氏
ISDN回線を使って東京・渋谷と東京・有楽町を結んで行なわれた遠隔地セッション。ステージには尺八奏者のジョン海山ネプチューン氏とそのバンドと直居隆雄氏(ギターを担当)。右上の画面は渋谷で演奏している弦楽四重奏団と松武秀樹氏



“演奏の部”では、ヤマハ渋谷にシンセサイザーの松武氏と弦楽器カルテット、有楽町の会場ステージには進行役も務めたジャズ・ギタリストの直居隆雄氏と尺八奏者のジョン海山ネプチューン氏とそのバンドがスタンバイ。渋谷のスタジオで演奏したデータを東京国際フォーラムにISDN回線を使って送り、ネプチューン氏らは送られてくるその音を聞きつつ、演奏を繰り広げた。

1曲目はジャズのスタンダードで“Don't Get Around Much Anymore”。2曲目では、松武秀樹氏の作編曲によるオリジナル“ネット創世紀”が演奏された。渋谷で松武氏の演奏するピアノを、有楽町会場に設置された自動演奏ピアノで即時に再現した。2曲目の演奏終了後に松武氏は東京国際フォーラムに移動するため席を外したが、引き続き演奏は続けられた。直居氏がネプチューン氏のバンドに加わり、渋谷の弦楽器カルテットとのセッションを継続した。3曲目および4曲目として、近々発売になるという直居氏とネプチューン氏とのコラボレーション・アルバムから“Spring Breeze”と“Wing It”を演奏した。
 
演奏後の直居氏の種明かしによれば、実際には10秒程度のずれがあり、完全なリアルタイムでセッションを行なっていたわけではない、ということだ。特に渋谷側では、往復で20秒の遅れが出てしまう有楽町側の音を聞くことはできない。このため、実際には演奏を送り出すだけで有楽町側の音を聞かずに弾いていたというわけだ。「渋谷側はかなりつらい、寂しい思いをしていると思うんですが」との直居氏のコメントからは想像もつかない完璧な演奏で、さすがプロ中のプロであることを痛感した。
 
松武氏は「こうした離れた場所でもセッションが可能であるということは、世界とのセッションも夢ではない、ということですね」と語った。

渋谷での遠隔地セッションを終えて有楽町の会場に駆けつけ、シンポジウムの司会を務めた松武秀樹氏
渋谷での遠隔地セッションを終えて有楽町の会場に駆けつけ、シンポジウムの司会を務めた松武秀樹氏



圧縮、配信実演はLiquid Audioで

演奏終了後、“圧縮音源制作の部”に移った。1曲目に演奏した音源を使用し、これをコンピューターに取り込み、Liquid Audio技術を使い、配信可能な圧縮音源に加工する工程を紹介するものである。

デモンストレーションには、(株)リキッド・オーディオ・ジャパンの小長井千晶氏が登場し、実際に作業しつつ説明した。

まず、コンピューターに取り込んだ未圧縮音源を“Liquifier Pro”でインターネット用ファイルに変換するインターネットマスタリング&エンコーディングを実行する。同時にDolby AC3/AACの処理や電子透かし処理、暗号化を行なった。次に、作成したデータを米国のリキッド・オーディオ社にある“Liquid MusicServer”を使用して芸団協のホームページを経由し、ストリーミングとダウンロードが可能となるまでの工程を紹介した。後は、視聴者が“Liquid MusicPlayer”を使って試聴、購入することができる、という仕組みだ。

国会議員も登壇したディスカッション
 
後半では、渋谷より駆けつけた松武氏を司会進行に、パネルディスカッションが開かれた。パネリストには、ジャズ歌手で芸団協常任理事の笈田敏夫氏、前出の直居氏、音楽家・シンセサイザー奏者で日本シンセサイザー・プログラマー協会会長の冨田勲氏、国会で著作権関連の質議を行なった衆議院議員の笹山登生氏、キーボーディストの向谷実氏が登壇した。

はじめに松武氏が、デジタル時代の音楽著作権について概要と最新情報を伝えた。まず、SDMI(Secure Digital Music Initiative)が先だって発表した携帯音楽プレーヤーの技術仕様や電子透かし技術、暗号化技術について触れた。また、JASRAC(日本音楽著作権協会)とASCAP(米著作権団体)にも話題が及ぶ。JASRACの“DAWN 2001(Design for the Administration of Works using New Technology)”と、ASCAPがMP3.comと提携しASCAP会員の曲をMP3.comから配信することにした、という対応の違いに言及した。
 
さらに『仲介業務法』の答申案にある“許可制から登録制への移行”、“使用料は競争原理に委ねる”の意図について触れた。JASRACの一元管理から著作権管理団体の複数化など、これから音楽著作権の状況が大きく変わる可能性を示唆した。

パネルディスカッションでは、テーマを“実演家が望む権利コントロールのあり方とは?”に絞って意見が交換した。向谷氏は、「なぜ、著作権を守るのか? また、著作権思想をどうやって守って行くのか? をみなさんとともに考えたい」とし、さらに「SDMIから仕様が発表されたからといってそのまま、ハイそうですか、と認めるわけにはいかない。MP3だって全然いい音だとは思わない」と強調した。

笹山氏は「(電子透かしなどについて)あまり厳しくしてしまっては、ブーメランのごとく自滅してしまうのでは?」と語るとミュージシャン側が厳しいことに越したことはない、と反発する場面もあった。

パネリストの興味の対象の中心は、仲介業務法で、意見も共通することが多かった。笹山氏の「ジャンル別の管理団体、配信形態別の管理団体といった形で出てくることでいい状況になる」や直居氏の「いろいろな技術やいろいろな管理団体などが出てくることはいいことだ」--などがその例である。

最後に、配信用に作成した音源を芸団協ホームページからダウンロードするさまを披露し、その場で焼いたCD-Rをネプチューン氏に進呈して、終了した。

第2部のシンポジウムでは、“実演家が望む権利コントロール”をテーマを絞って進められた。右より、笈田敏夫氏、直居隆雄氏、冨田勲氏、笹山登生氏、向谷実氏
第2部のシンポジウムでは、“実演家が望む権利コントロール”をテーマを絞って進められた。右より、笈田敏夫氏、直居隆雄氏、冨田勲氏、笹山登生氏、向谷実氏



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