情報処理学会は7日、“ネットワーク社会フロンティアへの挑戦”と題し、情報処理学会連続セミナー'99
第1回を開催した。テーマは“ウェアラブルコンピューター”。東京大学教授の廣瀬道孝氏をコーディネーターに、慶應義塾大学教授の石井威望氏、日本アイ・ビー・エム(株)でウェアラブルパソコンを開発した中井真嗣氏、ウェアラブルコンピューターを発売しているザイブナー(株)の豊郷和之氏などが講演を行なった。
ウェアラブルコンピューターの意義
冒頭、豊橋技術科学大学の広田光一教授は、「コンピューターの位置に人間が合わせていたのが、コンピューターのモバイル化によって、コンピューターが人間のいる場所に存在するようになり、人間とコンピューターの関係が180度変化した」と、モバイル化の現状認識を行なった。
続いて、「モバイルコンピューターは使用にあたって立ちどまらなくてはならず、移動という意味においてはモバイル化は大きな意味を持つが、情報処理のオーバーヘッドを極小化するためには、ウェアラブルコンピューターによるハンズフリー化というパラダイム変化が必要」と、ハンズフリー化の重要性を指摘した。
さらに、「現在のウェアラブルコンピューターの利用イメージは、データベースに屋外からアクセスするという“情報の受信”だが、ウェアラブルコンピューターのポテンシャルは、外界から取り込んだ情報を発信することにこそある」と、ウェアラブルコンピューターの存在意義について述べた。
ウェアラブルパソコンの開発
最初のセッションでは、日本IBMが昨年10月に発表した『ウェアラブル/パソコン』の製品開発を担当した中井真嗣氏が、開発についてのエピソードなどを披露した。
ウェアラブルパソコンの開発にあたっては、当時の同社の高性能ノートパソコン『ThinkPad560X』と同等のスペックを小型化するために、様々な技術が投入されたと説明。マザーボードについては、ThinkPad560Xに対し約74パーセントも小型化する必要があったため、ThinkPadが8層基盤なのに対し、10層の基盤を使用したことなどが明かされた。
内容自体は昨年にウェアラブル/パソコンを発表した時のものと同様であったが、これは、「次期モデルも開発中だが、まだ話せる段階でない」という理由によるとのこと。
次期モデルについても、昨年のモデルと同様に技術的なデモンストレーションの意味合いが強く、直接製品化するといった具体的な計画はないということであった。
ウェアラブルコンピューターのメーカーから
次のセッションでは、ウェアラブルコンピューターをすでに製品化し、日本国内でも出荷実績を持つというザイブナー(株)の豊郷和之代表取締役社長が、“モバイルアシスタントの開発”と題した講演を行なった。同社は米Xybernaut社の日本法人で、豊郷社長はXybernautの上級副社長と経営会議のメンバーを務めている。
Xybernautは、米軍の依頼を受けて'88年からウェアラブルコンピューターの開発を開始。'93年にi486を搭載した初号機の『MA
I』を商品化し、軍に納入している。その後、'95年に『MA II』、'96年に『MA
III』、今年1月に『MA IV』を相次いで発表。米軍が携帯端末を求めた理由としては、整備などに必要な技術マニュアルの統合化、作戦精度の向上などが挙げられるという。
Xybernaut社内では初代のMA Iを“PCウォークマン”と呼んでいたが、その実態は「大きく、重く、不細工」(豊郷社長)だったという。そこで豊郷社長は、日本メーカーで商品企画を担当していたという経験を活かし、「これならもっと小さくできる」と、商品化の拠点を米国から日本に移したという。
こうして、カメラは東芝、ディスプレーは日立製作所、ヘッドマウントディスプレー(HMD)は島津製作所、リチウムイオンバッテリーは日本電気、組み立てはソニーという、日本の各メーカーの技術が結集したMA
IVが完成する。しかし、日本の銀行はベンチャービジネスに対する資金提供の意識があまりにも低く、完成に至るまでには多くの苦労があったいうエピソードも語られた。
MA IVを装着したところ。基本的にはMMX Pentium-200MHz搭載のWindowsパソコン。HMDは左側にカメラを、右側には1インチのVGAディスプレーを内蔵している。ディスプレーはミラーに反射したものを見る反射方式を採用 |