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日本TI、今後の事業戦略について発表~DSPとアナログデバイス製品が2本柱

1999年06月24日 00時00分更新

文● 編集部 佐々木千之

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日本テキサス・インスツルメンツ(株)は24日、5月に移転したばかりの西新宿新本社において、記者を集めて今後の同社の事業戦略について説明を行なった。同社は、'96年以降DSP(Digital Signal Processor)およびアナログ製品の2分野に資本と技術の集中を行ない、それぞれの分野で世界市場のトップシェアを保持している。今後も安定した成長の見込めるこの2分野に注力していくという。


日本TIの事業戦略

代表取締役社長の生駒俊明氏
代表取締役社長の生駒俊明氏



生駒代表取締役社長は、日本TIの事業戦略について述べた。まず世界の半導体市況について、アジアは復調して好調であるといえ、ヨーロッパとアメリカも堅調に推移しているが、日本はまだまだ復調したとはいい難いという見解を披露した。また、従来、半導体市場を牽引してきたのはパソコンであったが、これからの牽引役はネットワーク機器であると述べた。「パソコンをネットワークに接続することで、システムとしての価値が生まれ、今までと違った使い方ができるようになる」。

ネットワーク間の通信においては、データのリアルタイム処理が必要とされるが、この点で「リアルタイム処理が可能で、かつ同じ処理をさせるにはCPUよりも低消費電力であるDSPが重要な意味を持つ」、「DSPであれば、ソフトウェアを変更することでさまざまなシステムに対応可能で、開発期間の短縮が可能」と述べた。また、現在携帯電話市場で世界1であるスウェーデンのノキア社の例を挙げ、「ノキアは数年前に(デジタル携帯電話の内部処理を)TIのDSPを使ってすべて処理するという方針を決め、現在は100パーセントDSPで処理している」と、DSP戦略の正しさを強調した(編集部注:TIのDSPはフィンランドのエリクソン社の携帯電話にも使われている)。

さらに最近の企業経営の指針としてよく使われる“選択と集中”という言葉に触れ、「不採算部門を売却して採算部門に注力するというようなことではない。自社がもっとも強い分野に集中するということ」と述べた。TIでは、ここ数年DSPおよびアナログ製品に注力する方針とし、メモリー事業など14事業を売却して、逆に14の事業を買収したという。特に最近の動きとして、ホームネットワークの基幹技術を持つイスラエルのButterfly VLSI社やVoice Over IP技術を持つ米Telogy Networks社の買収などを “選択と集中”の例として挙げた。

現在TIはDSP市場において、2位の米ルーセント・テクノロジーズ社に大きく差をつけ、50パーセント近いシェアを握る。アナログ製品市場においても、'97年以降売上ベースで1位を維持しているという。'98年から2002年までの5年間で、年平均としてDSP市場は30パーセント、アナログ市場は17パーセントの成長率と、半導体全体の成長率12パーセント弱を上回っているというデータを挙げ、今後も安定して成長が見込めるとした(データはすべてデータクエスト、フォワードコンセプト調べ)。

日本国内においては、茨城の美浦工場(CMOS)に、8インチウエハーによる、0.35μmルールのデジタル・アナログ混載ICラインを立ち上げることや、来年4月までに、つくばにテクノロジーセンターを設置することなどを明らかにした(編集部注:混載IC分野においては、0.35μmは最先端技術という)。また、TI全体の話題としては、0.15μmルールでの大規模な製造のめどがついており、年末から本格的に出荷を開始するという。製品としては無線用LSIから出荷される。

アナログ製品事業

オフィサー、ミックスド・シグナル・ロジック製品事業部長の安達省三氏
オフィサー、ミックスド・シグナル・ロジック製品事業部長の安達省三氏



続いてアナログ製品事業について、安達部長より説明がなされた。アナログ製品市場は半導体市場の6分の1を占めており、応用分野も広く、(デジタル製品に比べ)製品の寿命も長いという魅力があるという。ビデオや携帯電話など、デジタル製品が急速に普及しつつあるが、こういったデジタル製品には必ず、アンプやデータコンバーター、パワーマネージメント製品としてアナログ製品が使用されており、金額ベースにおいておよそ、DSP1に対してアナログ製品は1.7倍の需要があるという。

TIとしてはアナログ製品事業分野で、IEEE1394などのアドバンスドバス製品、データコンバーター製品、パワーマネージメント製品に特に注力していく方針という。また、DSPをサポートするアナログ製品をリリースし、セットメーカーが最終製品を迅速に市場に出せるようサポートしていくと述べた。

DSP新規応用分野

ASP事業部DSP製品部部長の岡野明一氏
ASP事業部DSP製品部部長の岡野明一氏



次にDSPの新規応用分野について、岡野部長より説明がなされた。

まず、現在もっとも高成長を続けている移動体通信分野については、'98年は全世界のデジタル携帯電話出荷台数1億5300万台に対し、1億個超のDSPを出荷した実績を披露し、この分野でナンバー1であることをアピールした。通信・ネットワーク分野においては、パソコンで起こったようなダウンサイジングの動きが、通信分野においても必ず起こるとし、将来、ケーブルTVやLANを利用した、VoIPによる電話が大きな割合を占めるという予測を述べた。この点について、先ごろ買収したTelogy Netwoks社の技術が、シスコシステムズ社、スリーコム社、ノーテル・ネットワークス社などの製品に使われていること、および、現在世界で設置されているVoIPゲートウェイのポートのうち80パーセントにTIのDSPが使われていることを挙げて、TIの優位性を示した。

xDSL製品分野については、xDSLの重要な特許を保持していた米Amati Communications社を'97年に買収しており、この分野でも世界ナンバー1を目指すとしている。また、数年前から起こった、モデムの新プロトコルラッシュ(V.34、V.34+、V.90など)において、ルーセント、アナログ・デバイセズ、TIなどのDSP陣営がシェアを伸ばし、専用ロジックチップで対応していたロックウェルがシェアを落としたことを挙げて、規格が短い間隔で変化していく現状では、DSP+プログラムという解決法が最良であると述べた。デジタル電話の基地局などでも、DSPを使っておけば、新しいプロトコルへの対応もハードウェアを変えることなく、プログラムのみの変更で対応可能であるという。

また、MP3プレーヤーなどに代表されるソリッド・オーディオ/ネットワーク・オーディオ製品では、DSP用の音楽圧縮・伸張ソフトウェアを各種開発済みであるほか、米Liquid Audio社と共同で著作権を保護する技術を開発し、SDMI(Secure Digital Music Initiative:音楽配信における著作権保護を決めるための世界組織)に提案済みであることが明らかにされた。SDMIによる著作権保護の仕組みについてはこの30日にもバージョン1が発表される予定といい、発表と同時にDSPとソフトウェアを提供可能としている。この技術を使った製品は、今年のクリスマスシーズンから登場する見込みだという。

最後に、1チップにDSP、MPU、ASIC、メモリーを搭載したシステム・オン・チップ製品にも触れ、今までのようにデジタル携帯電話だけでなく、デジタルカメラにも応用されるという見通しが明らかにされた。DSPによる処理とすることで、デジタルカメラの設計のスピードを速めることができ、また、デジタルカメラメーカー各社それぞれの“画作り”もプログラムにより実現できるという(編集部注:このチップを使ったデジタルカメラはまだ市場には出ていない)。

TIのデジタル携帯電話用システムLSIの世代によるダイサイズの変遷。現在は0.18μmが主流で、0.15μm品をサンプル出荷中。チップが載っているのは名刺サイズの紙。このサイズのチップにDSPコア、MPUコア、ASIC、SRAMが載っている
TIのデジタル携帯電話用システムLSIの世代によるダイサイズの変遷。現在は0.18μmが主流で、0.15μm品をサンプル出荷中。チップが載っているのは名刺サイズの紙。このサイズのチップにDSPコア、MPUコア、ASIC、SRAMが載っている

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