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【INTERVIEW】ハードの答えは出した、次は使い方の提案--『CASSIOPEIA FIVA』開発者インタビュー

1998年12月22日 00時00分更新

文● 風穴 江、報道局 郷家香織

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 11月21日に発売されたカシオ計算機(株)の小型ノートパソコン『CASSIOPEIA FIVA』について、東京事業所システム事業部 第1開発部 商品企画室 室長兼10プロジェクトリーダーの高津戸弘昭氏と同プロジェクトの佐藤修一氏に聞いた。

東京事業所システム事業部 第1開発部 商品企画室 室長兼10プロジェクトリーダーの高津戸弘昭氏(写真右)とシステム事業部 10プロジェクトの佐藤修一氏
東京事業所システム事業部 第1開発部 商品企画室 室長兼10プロジェクトリーダーの高津戸弘昭氏(写真右)とシステム事業部 10プロジェクトの佐藤修一氏



「Five A」で携帯情報端末の最高峰を表現

--『FIVA(ファイバ)』の名前の由来は何でしょうか。

「5個のA(Five A)という意味です。いつでも、どこでも、誰でも、何でも、どんなふうにでもですね。Always、Anytime、Anywhere、Anyhow、Anybodyの頭のAを取った5つのAで『ファイバ』です。カシオの携帯情報端末シリーズの中で最上位ということを表現したかったのです」

--この企画のきっかけは?

「まず、携帯情報端末というジャンルで、カシオとしてどのような製品を投入していくのかという大きなテーマがありました。当時すでにWindows CEを搭載したモデルの開発は始まっていましたが、ハードウェア動向を見ても、いずれはWindows 95を搭載したパソコンが小型化するだろうということは予測できていたんです。特に企業向けのアプリケーションを考えた場合、すでにVisual Basicなどで開発したソフトウェア資産がありますから、やはりWindows CEよりもWindows 95のほうが都合がいいわけです。そうした背景があって、Windows 95/98を搭載した携帯端末をどのような形でいつ出すかというテーマがまとまり、2年前に本格的に開発をスタートさせたわけです」

「ですから、小型で携帯性に優れた物を作りたいという方向性は決まっていましたが、その中で、カシオの独自性をどのように盛り込んで特徴あるものに仕上げられるかが課題でした」

先に大きさありき

--大きさが先に決まったのですか?

「大きさはA5と最初から決まっていました。重量は約800グラムを目指すことから始めています。キーボードの大きさと表示の大きさは犠牲にできないので、結局、どこまで本体を薄くできるかということに開発の焦点を置きました」

「そのために、まず薄い液晶を作るということを開発の軸に据えることにして、そのための検討と設計を始めたのが、今から約2年から1年半くらい前です。結局、実際に望み通りの液晶を開発するのに1年以上かかりました」

「FIVAで採用している液晶は、それ自体の厚みが6mmで、恐らく今のところ世界で一番薄い液晶だと思います。それを実現するために、パネル自体の薄さの追求はもちろん、バックライトを反射する反射版なども工夫しました」

--800×600ドットというのも、サイズと同様、最初から考えていたのでしょうか。

「はい。弊社は、小型のビデオレコーダーで使われているファインダー用液晶でかなりのシェアを持っているのですが、そこで培われた技術を使えば何とかできるのではないかという目論見があり、開発初期のころから液晶事業部で検討を始めてもらえたのです」

「ですから、FIVAの開発には、液晶を内製しているという弊社の強みを活かすことができました。800×600ドット液晶の小型版というのをコンセプトに掲げて、それが実現できるとなったから、この商品を出すことができたわけです。そこがかなり大きなブレイクスルーでした」

小型化の鍵はCPUの発熱対策

--Windows 98を搭載しながら小型化するうえで、液晶以外に苦労した点はありますか?

「FIVAのボディには、薄く軽くするためにマグネシウム合金を使っているのですが、我々が開発を始めた当時は、このマグネシウム合金の技術自体が確立されていませんでしたので苦労しました。このマグネシウムケースの薄さも他社にない薄さというものを実現しています」

「あとは熱の問題ですね。パソコンの小型化を実現するうえで一番難しいのは、熱と消費電流の問題です。言ってしまえば、これ以上筐体を小さくできないのは、CPUの熱の問題が影響しているのです」

「実際一番苦労しているのはCPUのところです。パソコンでは、本体サイズで熱容量が決まってしまいますから、本体の大きさが決まれば、自ずと利用できるCPUが決まってしまいます。しかし、お客様の立場で考えれば、できるだけ高いパフォーマンスのCPUを望まれるわけですから、その相反する要求を両立させるのに苦労しました。今回、サイリックスさんの協力も得て、CPUにはMediaGX-200MHzのローパワーバージョンというのを使わせてもらっています」

--パワーマネジメントということでは、ACPIには対応しているのでしょうか?

「いえ、基本的にはAPMです。この場合、BIOS側で消費電力を管理することになりますが、そこでもかなりきめ細かい部分まで工夫してやっています」

「ACPIを採用しなかったのは、それ自体がもともとデスクトップ向けの規格になっているということもあります。自分たちで細かい部分まで手を入れれば、APMでも十分な電力管理が可能です」

CEにするか98にするかはユーザーの選択

--『CASSIOPEIA』シリーズとしては、Windows 98版とWindows CE版の2種類があるわけですが、ユーザーから見ても、お互いに競合する製品のように見えて分かりにくいという声がありますが。

「対抗しているということは全然なくて、いろいろある選択肢としてそれぞれ用意している、ということです」

「小型化を考えた場合、Windows CEのほうが有利な面はいろいろありますが、個人ユーザーでも、すでにソフトウェア資産をお持ちの方もいらっしゃるわけですから、本体自体は安くても新たな追加投資が必要になるWindows CEと、すでにあるソフトウェアを活用できるWindows 98とで、どちらかをお好みで選択できるようになっているのが一番いいと思います」

--携帯情報端末のように、位置づけとしてユーザーに近いところにあるものは、デスクトップPCのような汎用的なものではなく、もっとユーザーごとにカスタマイズされた形が求められているのかもしれませんね。それこそ、カシオの時計のラインアップのように。

「そうですね。考え方としてはそうだと思います」

「きっかけは確かに企業向けということを意識していましたが、実際にプロジェクトを進めていく段階で、やはりパソコンというものはコンシューマとしても通用するものでないと企業でも使ってもらえないということが分かってきました。ですから、開発を進めながら、どちらかというと、強くコンシューマを意識した作り方、開発コンセプトにはなってきています。ですから、Windows 98を搭載したからといって、特別に企業向けということはなくて、個人として使ううえで使いやすいものということで仕様を決めていきました」

--Windows 98がフルに使えるとなると、ユーザーの使い方も変わってきますよね。

「ええ。会社にパソコンがあって家にもあって、さらに自分では携帯端末機を持ち歩くとなるとデータが分散してしまいます。それを維持するのは、やってみれば分かりますが、かなり面倒です。そうなると、常時持ち歩く携帯端末1台でどこでも済ませてしまうのが一番便利です。携帯端末をメインにして、デスクトップPCはバックアップ用とか、何かヘビーな操作をするときに使うサブマシンとして位置づけるという使い方もあるでしょう」

「デスクトップ機に匹敵するディスク容量やパフォーマンスがあれば、たとえ携帯端末機でも、こうした使い方が現実のものになってきます。液晶ディスプレイがSVGAで、ハードディスクは3.2GBあるのですが、このぐらいになれば、十分そのニーズは満たせると思います」

--ただ、コンシューマー向けとしてFIVAをみると、プレインストールソフトウェアが少なめに見えるのですが。

「もちろん、パソコンを初めて買う方にとっても十分使い手があると思っていますが、やはり多くは、ある程度使いこなしていて、さらに小型のものが欲しいという方が買いにくるのではないかと思いました。そうすると、ソフトウェアはすでに自分で持っている場合が多いですし、我々がお仕着せのものを用意するよりも、自分で使いやすいものをそのまま使われるでしょうから、プレインストールソフトウェアは少なめにしました」

「ただ、もし市場から強い要求があれば、プレインストールソフトウェアを増やしたモデルも検討することにはなるでしょう」

ハードの答えは出した、次は使い方の提案

--ソニーや松下電器は、ノートPCにCCDカメラを付けたりしていますが、それについてはどうお考えでしょうか?

「否定的な見方はしていません。奇抜性を狙ったのではなく、あれはあれでモバイルの1つの形態として認めてよいと思っています。技術的に問題があることではないですから」

「我々はこれが第1弾だったので、そこまで踏み込んではいません。小型のカメラを付けるという形もあるのでしょうけど、最初に出したから通用したという面もあると思います。モバイルにはいろいろなバリエーションがあると思います。マニアでもないし仕事でもないという使い方の提案をどのようにしていくかということは、今後の大きなテーマの1つだと思います」

「モバイルとしてパソコンをどう使うかという提案は、まだまだこれからだと思います。そういう意味では、技術的な面でも応用面でも、カシオ独自の提案をしていけると思っています。だからこそ、この分野に参入したのです。この市場は、これからまだまだ変わっていきますよ」

--今後のモデルで、本体サイズを大きくするという可能性は?

「今のところは考えていません。考えているのは、このサイズの製品をどのように展開していくかということです。我々としては、このキーボードの大きさや表示をデファクトスタンダードとして評価してもらえるようになれば成功かなと思っています。ですから、この大きさにこだわって、使い方の提案などを含め、さらに進歩させていきたいのです」

--『CASSIOPEIA FIVA』を含めたCASSIOPEIAシリーズとしてモバイルを追求していくということでしょうか。

「そうです。携帯端末としてのブランドとモバイルでオープンプラットフォームということを追求していきます」

「今回、アプリケーションを入れていないので、まずはハードウェアとしての提案となりました。しかし、もう少しいろいろ取り込んでいき、使い方の提案までできたらいいなと思います。すなわち、モバイルとしての新しいことへの挑戦ですね」

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