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「ソフトウェア開発風土を論じるのは日本の風土病」--情報処理学会全国大会公開パネル

1998年10月07日 00時00分更新

文● クララオンライン 弓木裕史

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 10月5日から7日まで、名古屋大学工学部を会場にして情報処理学会の第57回全国大会が開催された。スローガンは“21世紀のみえる技術”。ここでは5日に開催された公開パネルの中から、“日本の風土と21世紀のソフトウェア”をレポートする。同パネルは多摩美術大学の石田晴久氏の司会で進行し、パネリストとして竹内郁雄(電通大学)、近山隆(東京大学)、田村浩一郎(中京大学)、二上貴夫(東陽テクニカ)、市川照久(三菱電機)の5名が参加した。



現実世界の絶対要素と情報世界の相対的需要とのかい離が問題

 このパネルでは、Windows、Javaなどソフトウェア業界における米国を中心としたデファクトスタンダード商品の確立に対し、世界に通用するソフトウェア商品が生まれないという“日本の風土”について意見交換を行なった。さらに21世紀への処方箋について考えた。「日本から世界に通用する優れたソフトウェア商品が生まれない理由は、日本語を使っていること、互換性の必要ない製品への組み込み型ソフトに強いこと、目に見えないものへの年投資が少ないことなどだ」(石田晴久氏)など、厳しい意見が飛び出した。

司会を務める石田晴久氏 司会を務める石田晴久氏


 

田村浩一郎氏(左)と二上貴夫氏(右) 田村浩一郎氏(左)と二上貴夫氏(右)



 田村浩一郎氏は、現在を“大変な時代”と呼んだ。'89年にベルリンの壁がなくなり、WWWが誕生した事実を背景に、個人が組織に対して強くなってきた事実を指摘した。この時代には(衣食住などの)“絶対需要”から情報という“相対需要”へニーズが変化し、ユーザーインタフェースが発達するとともに、コンピューターがメディアになったと説いた。「ソフトウェア面では、オブジェクトに代わる概念としてエージェントが重要になり、“アクティブなソフトウェア部品”としてエージェントを利用できるようになるだろう」、「これからは、情報世界が現実世界をきちんと反映させていないという問題がでてくる。ヒューマンサイエンスの視点から見ていくことが必要だ」(田村氏)。

実行ではなく意味付けを目的とする言語も登場

 これを補う形で意見を述べたのは、近山隆氏。「これまでのソフトウェアの定義は“CPUに実行させるプログラム”だった。これからは、XMLなど直接的に指示を下すようなものではない、多様な言語構造が重要になりつつある」として、ソフトのプログラミングよりコンセプトが重要になってきたことを指摘した。また同時に、このような状況にもかかわらず、日本においてはカーナビの開発コストの8割がソフトウェアに費やされるなど、ソフトウェアについてハード製品ほど品質管理がなされていないことに警告を発した。

近山隆氏 近山隆氏



 市川照久氏は、「風土を論じること自体が日本の風土病ではないか(笑)」としながらも、現実問題としては創造的なことはアメリカにやってもらい、日本は第2位として現実的な仕事に徹するのもいいとの“開き直りの論理”を展開した。

 

市川照久氏(左)と竹内郁雄氏(右) 市川照久氏(左)と竹内郁雄氏(右)



 結論として竹内郁雄氏らは、次のようにアピールした。すなわち、日本人がソフトウェア開発に向いていないのではなく、ソフトウェア業界の国際化の並みの中では積極的に外国人技術者を招いて国際的な共同開発プロジェクトを推進し、通信技術と結びついたソフトウェア開発に注力すべきというのである。会場からは、TRONの盛り上がりを連想させるような、日本独自のソフトウェア商品開発はできないのか、といった声も出た。しかし、パネリストから「これからは日本とかアメリカとかいう枠組みで考えず、グローバルな市場の中で生き残っていくことを考えるべきだ」という意見が多く出たのが対照的だった。

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