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MS古川会長らがTV会議でトロントの学者と“結合知”について議論

1998年01月21日 00時00分更新

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 カナダのトロント大学で定期的に行なわれているマクルーハンプログラム公開セミナーの会場と東京を結ぶテレビ会議をICC(NTTインターコミュニケーション・センター)が開催した。テーマは“コネクテッド・インテリジェンスとビジネス”。

 トロント側のスピーカーは、同プログラムのディレクターで“コネクテッド・インテリジェンス”という概念の提案者のデリック・デ・ケルクホブ(Derrick de Kerckhove)氏、KPMG Canadaのブライアン・アルジャー氏、加Digital Renaissance社のCEO、キース・コーショー氏、加Design Vision社のジョージ・ヒューズ氏の4名。日本側は、コーディネート役として(株)日本総合研究所取締役の田坂広志氏、マイクロソフト(株)会長の古川享氏、NTTソフトウェア(株)インタースペース事業本部長の鈴木元氏の3名。

 コネクテッド・インテリジェンス(Connected Intelligence:結合知)は、「電気・電子メディアによって人間の中枢神経が地球規模に拡張される」というマクルーハンの理論をケルクホブ氏が発展させたもので、「インターネットが全世界的に普及した現代においては、人間の知性は個人の脳機能に限定されたものではなく、それぞれの知性がネットワーク化されたコネクテッド・インテリジェンス(結合知)として、新たな知性の段階を迎えつつある」という。

 同概念をふまえ、カナダ側から、個人の知から集合的な知へ向かっているという話題の投げかけで、ディスカッションが始まった。

 ケルクホブ氏は研究の中で、「カナダ国内にいるアフリカから来てコンピューターをいじったことのない人たちとワークショップを開催し、コンピューターの専門家と非専門家の共同作業というコネクテッド・インテリジェンスを実践した」という。

 アルジャー氏は「コネクテッド・インテリジェンスは、学会で研究され、企業ではその応用ができる。真の意味で知識の階層構造を持ち、ビジネスにおける問題を解決するソリューションとして使える」とコメントし、またコーショー氏は、多次元に物語展開できる可能性を示唆した。

 鈴木氏は、「テレビ会議の概念は30年前からあるにもかかわらず、なかなか発達しなかたのは、“相手がいない=コネクトできない”から」として、相手の顔や行動が見え、楽しめるサイバースペースに関する同社のプロジェクトを紹介した。またサイバースペースにたくさん人が集まると自然に有名人ができるという自己組織化については、ヒューズ氏などカナダ側も同感した。

 集合に向かうことでインテリジェンスが創造されるという話題から、知は創造するものという西洋的な発想と、知は創造するのではなく、無意識の世界にもともとあるものを現実化するのだという東洋的な発想といった、東西の発想の違いにも話は展開した。古川氏は「日本人は農耕民族として、調和を大切にする。マイクロソフトは業界で、いろいろ押しつけていると思われているが、ビル・ゲイツが若いエンジニアや顧客の声を聞き、また日本の市場に土足で上がり込むのではなく、ジャストシステムなど日本のソフト会社のアプリも使えるプラットフォームを提供してきたのが、日本市場での成功の秘訣」と語った。

 田坂氏は、インターネットの未来に関するカナダ側からの質問に複雑系にたとえて答えた。「数人がネットワークでつながるだけでは世界は変わらないが、世界中の多くの人がネットワークでつながると、そこには高度な秩序が生まれるか、またはカタストロフィーが訪れる。そして未来は予測できないものだ」。
 
 通訳を通して、東洋人と西洋人が哲学的内容を議論するため、話は途中で多少混乱。ケルクホブ氏らもあらためて、「日本との違いを認識していかなければならない」とコメントした。田坂氏が思想家ウィトゲンシュタインの言葉を引用したのちに「深い意味においては、カナダ側と日本側の意見は一致している」と語り、「知に対するアプローチも多様性を求められている」としめくくった。

 マクルーハンプログラムは、コミュニケーション技術の心理的・社会的影響に関する研究を行なっているグループで、コミュニケーション論などで著名なマーシャル・マクルーハン氏('11-'80)の息子のエリック・マクルーハン博士の呼びかけで発足したもの。

 またICCは、NTTが電話100年記念事業として'91年に設立し、コミュニケーションという テーマを軸に、科学技術と芸術文化の対話を促進し、豊かな未来社会を構想していくためのミュージアム。展示や映像上映、シンポジウムなどを行なっている。(報道局 若名麻里)

http://www.ntticc.or.jp/

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