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【Linux Conference 2000 Spring レポート】Ruby開発者が語る「オープンソースのビジネスモデル」

2000年04月24日 00時00分更新

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まつもと氏の講演中、不適切な表現があったとのこと。詳細は、まつもと氏による捕捉文を参照してほしい

 Linux Conference 2000 Springの2日目、オブジェクト指向スクリプト言語「Ruby」の開発者で(株)ネットワーク応用通信研究所(NaCl)に所属するまつもと ゆきひろ氏が「オープンソースのビジネスモデル ~開発者の立場から~」と題したセッションを行なった。ビジネスモデルの話ではまつもと氏のNaClでの経験を交えながら、ソフトウェア・ビジネスモデル特許や「フリーソフトによるハッピーさ」など「ソフトウェアの自由」についても語った。

講演を行なったまつもと ゆきひろ氏

オープンソースは科学の伝統的な手法

 まつもと氏はまず、このセッションでの「オープンソースソフトウェア」(OSS)が何であるか定義した。OSSとはもちろんソースがオープンなソフトウェアであり、具体的にはOpen Source Initiative による「オープンソースの定義」に沿ったものがそう呼ばれる。オープンソースの定義はただソースを公開することよりも厳しく、次の条件を満たしていなければならない。

  • 再配布自由
  • ソースコードの公開
  • 派生物の許容
  • 差別の禁止
  • 特定の商品への非依存
  • ほかのソフトウェアを妨害しない

 「再配布自由」とは好きなようにソフトウェアを配布してもかまわないということで、たとえば「あるサイトにログインして名前や住所を必ず入力しなければいけないもの」はOSSとはいえないという。また「特定の商品への非依存」とは、商用ソフトウェアがなければ動作しないソフトウェアであり、これはオープンソースの定義に準じていないということだ。

 オープンソースは、実験や発明などを論文にして公開するという科学の伝統的な手法である。フリーソフトもソフトウェアの昔からあるソフトウェアの開発手法だが、なぜ最近になって「オープンソース」という用語が出てきたのかということについては、フリーソフトは「自由」という意味ではなくただ「無料」なだけと誤解されることがあるのに対し、オープンソースはそのようなことがないという点からきているという。ただし「オープン」は「自由」を意味しないので、まつもと氏は個人的に、「フリーソフト」というほうを気に入っているそうだ。

なぜオープンソースにするのか?

 開発者にとって大きな理由は「プログラミングが楽しい」からだ。「オープンソースの開発者はほうっておいてもプログラミングをする」人たちで「ある意味病気」みたいなものだという。しかし、なぜ「自分の開発したソフトが使われても1銭も入らない」(まつもと氏)ものを開発するのか。それは、自由はすべてに勝ること、名誉を得られること、技術力を評価してもらえること、そして講演・出版などで時にはお金になるという理由がある。

企業にとってのオープンソースの利点

 まずは無料であるということ。一例として、NaClが開発に参加したMUSIC PODいう、MDによる音楽配信・販売システムは、サーバもコンビニなどに置かれる端末もLinuxを使用している。端末は最終的に数万台配置するので、Windowsを採用していたら数億円かかっていたはずだ。

 次に、進歩やバグフィックスが速いということがある。たとえば、PentiumプロセッサがF00Fから始まる不正な命令を実行すると停止してしまうバグは、LinuxやFreeBSDでは3日で対応がなされた。また、ソースが公開されているので、技術力さえあれば自分でデバッグできるという利点もある。まつもと氏はプレゼンテーションにMagicPointを使用しているのだが、自分の書いた資料を読み込ませると落ちてしまうバグを見つけてしまったという。プレゼンテーションの数日前にそれを直して、いまではパッチがMagicPointにとりこまれている。

 そして、ブラックボックスではないということがある。何をやっているのか確認できて、自分でサポートすることも可能だ。たとえばエレベータの制御にDOSを使っていた例があるそうだが、サポート打ち切りによってLinuxに入れ替えたという。こうすれば、たとえ20年後までもサポートしていくことができる。

オープンソースと商用ソフトウェア、どちらで商売するか

 オープンソースと商用ソフトウェアは次に示すように異なる強みを持っているので、「個人的には棲み分けると思う」(まつもと氏)。

オープンソースの強み:

参入障壁が低い
流通・販売コストの高いパッケージソフトに参入しにくい小さな会社でも、オープンソースならば参入できる
ソフトウェアそのもの以外でビジネスする
ソフトウェア自体ではビジネスせずに、サポートなどを売る。小さな会社でも可能なビジネス
商用ソフトウェアというもの自体に無理がある
ソフトウェアは簡単にコピーすることができる。それをライセンス一枚で禁止することにそもそも無理がある

商用ソフトウェアの強み:

お金をかけられる開発で差別化
資金力を活かして、オープンソースとの差別化を図る
特許で保護
ソフトウェア特許により、競合ソフトの登場を防ぐ。ただし、これはまつもと氏が大嫌いな戦略で、ビジネスモデル特許を行使するAmazon.comから個人的に書籍を購入しないし、たとえばビジネスモデル特許を推進すると発表のあったNECのような企業にはなるべくかかわりたくないという

 オープンソースで稼ぐ具体的な方法は次のようなもの。

  • サポート・コンサルティング
  • 教育・出版
  • 寄付・投げ銭

 サポート・コンサルティングはNaClの大きな仕事で、オープンソースソフトウェアを利用してソリューションを提供するというものだ。つまり、ソフトウェア自体ではなくサポートなどで稼ぐというビジネスモデルである。

 教育・出版というのは、フリーソフトウェアの解説書を発行しているO'Reilly & Associatesがいい例で、セミナーなどから利益をあげるということだ。

 寄付・投げ銭は、オンラインでの小額決済が普及すれば可能性のあるビジネスモデルで、大道芸のようにソフトウェアに対して利用者の一部から寄付をもらうということである。

オープンソースを支援する

 企業がオープンソースから利益を得れば、必ずそれを還元する必要があるのだろうか。「ただ乗りはライセンス上も道義上も許容される」というのがまつもと氏の答えだ。しかし、企業がオープンソースを支援することには意味がある。まず企業のサポートによって、「可能性があるのに止まってしまったプロジェクト」の開発体制を安定化することができる。また、「自分のほしい機能を拡張してもらえる」ことや「ブランドイメージを確立する」という利点もある。ブランドイメージの確立とは、たとえばRedHatがLinuxカーネル開発者Alan Coxなど有名人をを雇用して支援することで、「オープンソースに積極的で技術力があるからRedHatにしよう」と仕事を受けることができるというものだ。NaClでも、その理由で仕事を受けたことが何度もあるという。

質疑応答

 セッションの最後に質疑応答が行なわれた。主な質問はつぎのとおり。

[Q] Rubyなどの開発で、特許の脅威を具体的に感じているか?
[A] 今はない。しかし、「誰も踏んだことのない地雷原を歩いている感じ」がする。
[Q] 仮にRubyの中のアルゴリズムで特許を取ったら、「オープンソースの定義」に反することになるか
[A] まず、「定義」に反したからといって「悪い」ということは意味しない。商用ソフトに対抗するために特許を取るのもありかもしれないが、それよりも公開してしまって既知の物にするほうがいいのではないか
[Q] Qtのように、ビジネスで使うときは有料、フリーソフトは無料というライセンスはどう思うか
[A] 商用ソフトウェアからお金を取るのも理解できる。私がそれをやらないのは、フリーなライセンスのときと比べて世の中のハッピーさが減るからだ

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