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【Linux Conference 2000 Spring レポート】PCクラスタのすべてがわかる「日曜大工的PCクラスタ構築のすすめ」

2000年04月23日 00時00分更新

文● 沖中弘史

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 日本Linux協会(以下JLA)とソフトバンクフォーラム(株)は、Linuxユーザーを対象としたイベント“Linux Conference 2000 Spring(以下LC2000)”を東京・有明の東京ファッションタウンで開催した。開催期間は、18日から20日までの3日間。

 “LC2000”の2日目、19日に、東京ベイ有明ワシントンホテル内の会議室において、ビジュアルテクノロジー(株)企画部に勤務し、青山学院大学総合研究所客員研究員も勤める中田寿穂氏により、「日曜大工的PCクラスタ構築のすすめ」と題したセッションが開かれた。まずは青山学院大学のPCクラスタ並列計算機プロジェクト「Aoyama Plus(Aoyama-gakuin University PC Cluster System)」の一環として構築された、PCクラスタシステム「ARK」について紹介。PCクラスタシステムの利点や、今後の展開について発表された。日刊アスキーでは、以前中田氏に取材をしたこともあり、「Aoyama Plus」の紹介記事も掲載している。

青山学院大学総合研究所客員研究員、ビジュアルテクノロジー(株)企画部 中田寿穂氏画像
青山学院大学総合研究所客員研究員、ビジュアルテクノロジー(株)企画部 中田寿穂氏

並列化の利点

 PCクラスタには以下のような利点がある。

  • 高速な演算が可能: CPUの数に比例して実行速度が向上する
  • 非常に大規模な計算が可能: 1台ではメモリ不足で解けないような計算が、並列化によって可能になる
  • 信頼性の向上: 複数の計算機で結果を照合できる
  • コストの削減: レンタルでも、1カ月で数千万~1億円以上かかるスーパーコンピュータに比べると、非常に安価で構築できる

PCクラスタ実現のための要因

 PCクラスタを実現できたのは、

  • フリーなUNIX互換OSの登場: 「Linux」
  • フリーの開発環境: 「GCC(GNU Compiler Collection)」
  • フリーの並列用ライブラリ: 「MPI(Message Passing interface)」、「PVM(Parallel Virtual Machine)」
  • ネットワーク機器の低価格化: 1997年頃は100BASE-TXが10万円以上していた

などの環境がそろったために可能となった。1999年に「ARK」を構築したのだが、PC自体の高性能化、低価格化が進むなど、時期的にも恵まれていた。

PCクラスタシステム「ARK」画像
PCクラスタシステム「ARK」

PCクラスタ「ARK」の構成

 「ARK」は、Pentium II-350MHz×2のデュアルCPU、メモリ256MBを搭載したPC、69台で構成されている。

 それぞれのPCの役割は、

  • noah: ファイルサーバ兼ゲートウェイ(1台)
  • arkwright1~4: ブートサーバ(4台)
  • ark001~064: 計算専用PC(64台)

となっている。ファイルサーバの「noah」には、25GB×6のディスクでRAID5のディスクアレイを搭載している。ark001~064は、ハードディスクを積んでおらず、「arkwright」からネットワークブートするようになっている。「ARK」全体では、Pentium IIが138CPU、総メモリ量17.6GB、総ディスク容量は110GBとなる。PCクラスタ「ARK」にかかった金額は約1300万円。

 採用したディストリビューションは、「Debian GNU/Linux 2.1」。理由としては、「MPI」、「PVM」という並列計算用のライブラリのバイナリパッケージがあったことが挙げられる。

 「ARK」の実際の性能は、米Sun Microsystemsの「Sun Enterprise 4000」と同じぐらいの性能が出ている。これは、4、5年前のスーパーコンピュータとほぼ同じ性能といえる。現在出荷されているもっと速いCPUを使用すれば、より以上の性能向上が見込めるだろう。

 少し困ったのは、PCの部品が全部で2tトラック2台もあったことで、配送されたのはいいが、部屋に入り切らずに廊下に置くような事態になってしまったという。

 また、PCは学生に組み上げてもらった。その目的は、1つはコスト削減のためだが、もう1つは教育のため。PCを組み上げたことのない、ラジオペンチとニッパーの違いがわからないような学生もいるので、学生自身に組み上げてほしかったのだそうだ。

PCクラスタ用専用ディストリビューションの開発

 現在、「Debian GNU/Linux」ベースのPCクラスタ用専用ディストリビューションの開発を行なっており、夏ぐらいにはGPL(GNU General Public License)で公開したいと思っているそうだ。CD-ROM1枚でPCクラスタを構築可能となる予定。

 このディストリビューションは、PCクラスタの設定で1番困難な部分である、スレーブ側の設定を自動設定できるように開発している。つまり、サーバ側の設定のみで、設定が完了するようになっている。自動設定は、スレーブ側のマシンがハードディスクを積んでいても、いなくても可能。

 配布方法だが、現在中田氏が勤務しているビジュアルテクノロジー(株)のFTPサーバからダウンロードできるようにしたいと思っている。

SuperCluster

 次に、ビジュアルテクノロジー(株)が発表した「SuperCluster」システムについて紹介があった。

 通商産業省の新規産業創造技術開発補助金の援助を受け、東北大学工学研究科の小柳光正教授とビジュアルテクノロジー(株)で、「SuperChannel」と呼ばれるPCIバスを使用したネットワークスイッチを共同開発した。このネットワークスイッチは、それぞれのコンピュータ間で、533MB/sの速度を実現している。

 「SuperChannel」を組み込んだ「SuperCluster」は、Alphaプロセッサを使用した2CPUのSMPマシンを4台接続した、合計8CPUのシステムとなっている。OSには、「Kondara MNU/Linux」を使用。

 特徴としては、「MPI」(前述した並列計算機用ライブラリ)を「SuperCluser」用に移植したことで、既存のアプリケーションをコンパイルしなおすだけで「SuperCluser」用のアプリケーションになることだという。

「SuperCluster」画像
「SuperCluster」

 最後に中田氏は、「PCクラスタ用ディストリビューションの開発は、誰でも参加できるので、興味のある人はぜひ連絡してほしい」と語り、セッションを終えた。

 また、AoyamaPlusのWebページには、システムの機器構成や、ベンチマーク、並列処理に関する各種資料などがそろっている。興味のある方はぜひアクセスしていただきたい。

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