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歴史は繰り返す

1999年11月10日 19時48分更新

文● 塩田紳二

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 仕事の関係で、Microsoftの製品を評価することがあるのだが、製品を見る限り、たしかに生産性を上げてくれたり、便利に使えるものは少なくない。それに、最近のMicrosoftは、従来のパソコン=非定型業務という枠を越え、企業の基幹システムを狙うシステムが多い。簡単にいえば、ユーザーが直接使う、机の上にあるパソコンは、すでにほとんどWindows一色といっていいぐらいだが、それをとりまとめるサーバ、さらには企業全体の情報を扱うシステムなどの分野では、かならずしもMicrosoft優勢ではない。極端な例がインターネット用のサーバや、インターネット技術を応用した社内ネットワーク用のサーバ(俗にイントラネットと呼ばれる部分)分野では、UNIX系OSがいまだにがんばっているし、たとえば、インターネットで一番使われているWWWサーバは、UNIX上で動くApacheだったりする(ちなみにNetscapeのWWWサーバも企業に限っていえば、かなりシェアが高いらしい)。

 それで、Microsoftはこの手薄な分野を攻めるテコに、デスクトップマシンを利用することにした。つまり、デスクトップマシンにつながるサーバにMicrosoftのものをつかうと、よりデスクトップマシンが便利になるようなアプリケーションとサーバの組み合わせを作ることにしたのである。それが、Office 2000であり、Windows NTの上で動くBackOfficeなどのアプリケーションである。

 しかし、この図式をよく見てみると、かつてメインフレームメーカーが行なっていた「独自ハードウェア」、「自社製OS」、「自社製アプリケーション」という、ユーザー囲い込みとまったく同じものなのだ。結局のところ、Microsoftの製品で、便利さなどを追求していくと、Microsoft製品一色になってしまうというのがMicrosoftの狙うところなのである。

 だが、かつて、こうしたメインフレームメーカーの囲い込みに反発して、DECのミニコンがもてはやされ、さらに、コンピュータそのものを個人に解放するパソコンがもてはやされたことを考えると、結局、「歴史は繰り返す」を実感せざるを得ない。

 かつては、Microsoftも、パソコンの性能や使い勝手を向上させるソフトメーカーとして、広くユーザーに支持されていたわけで、いまのように、みんながみんな、「アンチMicrosoft」なんて雰囲気はなかった。それが、結局、変わり始めたのは、Windows 3.0の成功以来だと思われる。結局、この成功が、Microsoftにより大きなビジネスを可能にさせ、それによって登場したWindows NTは、単純なWindowsの後継OSではなく、上位OSとしてサーバ分野を狙うことになった。

 そもそも、Windows NTはかつてOS/2 Ver.3として計画されていたもので、あるときまで、MicrosoftはDOSとその上に乗ったWindowsの直接後継OSとしてNTを考えていたようだが、Windows自体が成功し、それがDOSに乗ったものであったために、互換性を維持するために、NTカーネルへの移行が困難になってしまった。それでWindowsは、独自の発達を行なうことになり、登場したのがWindows 95である。ここで、ある程度Windows NTとの互換性は保たれたものの、パソコンの市場拡大により、多数のユーザー、多数のアプリケーション、そして多数の周辺装置が登場し、移行が困難になっていく。Windows 2000と呼ばれることになったWindows NT 5.0の開発が遅れたのも、その互換性の維持と、Windows 95/98などが持つ、脆弱さ(たとえばシステムディレクトリにあるファイルを簡単に置き換え、消去が可能)などが、やはりNTのポリシーと合わないからである。

 そういった中で、話題になったLinuxだが、やはり、そこには、「アンチMicrosoft」のバイアスが多分にかかっているというのが本当のところだ。とりあえず、今はLinuxブームだが、アンチMicrosoftという要素がなくなったときにいったい何が残っているのだろうか?

(塩田紳二)

塩田紳二(しおたしんじ)

プロフィール
 雑誌編集者、電機メーカー勤務を経てフリーライターとなる。月刊アスキー、月刊インターネットアスキーなどの雑誌連載や、Web雑誌(ASCII24 Intel/MS Espresso)の連載などで執筆中。1961年生れ。一児の父。最近の趣味は、革細工。といっても、通信教育のコースを始めただけ。目的は究極のモバイル鞄づくりなのだが。

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