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【事例紹介】Linuxサーバを導入したISP、「岩手エクナネット」

1999年09月02日 21時01分更新

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 なぜLinuxなのか? なぜNetfinity(IBMのPCサーバ)なのか? IBMのシステムを導入するのであれば、ほかのUNIX系プラットフォームという選択肢もある。そして、Linuxを運営するのであれば、Netfinity以外の選択肢も数多くあるはずだ。
 こうした疑問を抱かせたのが、8月6日付け日本工業新聞に掲載された「初の業務インフラ向け Linuxサーバー納入 岩手のECHNAネットに」という記事だった。岩手のISP(Internet Service Provider)「エクナネット」では、日本アイ・ビー・エムのPCサーバ「Netfinity」+Linuxといった構成でシステムを運営しているという。早速取材を申し込み、「エクナネット」事務局の、村上智宏氏にお話をうかがった(エクナネットの詳細は、月刊アスキーNT 1999年11月号(9月24日発売 定価1280円)の事例紹介コーナー「Case Study」に掲載予定)。

村上氏写真エクナネット事務局 村上智宏氏

エクナグループ外観写真岩手県盛岡の中心地に位置するエクナグループ。エクナネットは、岩手県下に5カ所のアクセスポイントを設置。会員数は3000人にのぼる

 エクナネットは、システム開発からソフトウェア開発、OA機器販売までを手がける、岩手県の「エクナグループ」が運営するISPだ。ISP黎明期ともいえる1994年に運営を開始し、現在に至っている。大半のISPが接続サービスにフォーカスして事業を展開しているのに対し、エクナネットの場合はシステム販売のためのツールの1つとして、インターネット接続サービスが位置づけられている。つまり、顧客に対してインフラ(インターネット)を含めたシステムを提供していくのがエクナグループとしての姿勢であり、その中のツールとしてエクナネットが存在する、といった位置付けである。エクナネットの利用者の4割りは法人ユーザーとなっている(残り6割は個人ユーザー)。

 とはいえ、エクナネットのシステムは、継ぎ足し継ぎ足しで拡張してきたため、1998年末にはシステムが行き詰まっていた。膨大な数のモデムと、それらに接続されているケーブルの不具合、PCサーバの老朽化による破損など、メインテナンスに膨大な手間をとられるばかりになってしまったのだ。また、こうした建て増しが繰り返された状況では、顧客企業にインフラを提供する立場としては堅牢性にも欠ける。そこで1998年末、INS64からINS1500へと回線も増強し、サーバシステムそのものも一新することになった。今度は、建て増しをしないでも、4年から5年は使い続けられるシステムを作ることにしたのだ。

Linux万能という方針ではなく、適材適所で

 こうした経緯の中、なぜLinuxの採用が決まったのだろう。これには、新システムの機器選択が大きくかかわっている。新システムの出発点として、すでにサーバにはIBMのNetfinityの採用が決まっていたという。Netfinityにした理由は、OSに依存しない管理機構が使えること。村上氏は、「PCサーバの管理機構というと、どうしてもNOS(NetworkOS)上の管理用モジュールがハードウェアの管理機構を動かす仕組みになっていて、NOSがハードウェアの管理機構に対応していないと使いにくいという側面がありました。Netfinityの場合は、OSが何であろうと、ディスクやCPU、ファンの状態までを独立して監視しているし、いざとなったら別の管理サーバに監視結果をエクスポートすることもできます」と語る。

 現在エクナネットのサーバルームには、Netfinity 5000が6台、Netfinity 5500が1台設置されている。Linuxがインストールされているのは、Netfinity 5000の6台中5台。ディストリビューションはRed Hat Linux5.2で、IBMのサポート対象であったことと、雑誌付録などで、気軽に手に入れることができたことが、選択の理由だという。

Netfinity全体写真ラックにぎっしり詰まったNetfinity。1サーバには1つの機能しか割り当てていない。たとえ1台が壊れても、すぐにほかのサーバがフォールトトレランスをかける

Netfinity管理コンソールラック中央に位置する管理コンソール。画面を切り替え、サーバを統括して管理するWindows NTや、各Linuxサーバのコンソールを表示する

 5台のLinuxマシンは、それぞれDNS(BIND)、News(Inn)、Web(Apach)、認証(DTC-Radius)、キャッシュサーバ(Squid)と、基本的に1サーバ1機能で動いている。こうして機能ごとにハードウェアを切り分けることで、トラブルを局所的に抑えようというわけだ。あとの2台はWindows NTで、管理用のNetfinity 5500と、メールサーバ(Imail Server)である。管理用のサーバは、1つのサーバが完全にダウンしてしまったときに、別のサーバにダウンしたサーバのディスクイメージをすべてコピーし、システム停止を免れる仕組みを持っている。もちろんこうした事態に陥る可能性は非常に低い。最終手段というわけだ。こればかりは、OSとハードウェアが協調しないとできない部分だ。つまり、各サーバにはどのようなOSがインストールされていてもいい(当然IBMがサポートしていれば)し、それらに不具合が発生したときは、OSを経由せずに管理サーバにメッセージが伝達されるが、それを束ねる管理サーバで動くバックアップシステムは、Windows NT上で動作している、ということである。そして、意外なのがメールサーバがWindows NTという点だ。これに関しては、長いユーザー名をエイリアスを作らずに利用可能なことと、ユーザーライセンスが無料なので、何千ユーザーも登録するISPには適しているから採用したとのことだ。

 実は、Netfinityに決定したときは、OSはBSDIを使うことにしていた。同社の旧システムはBSDIで動いており、そのラインセンスが半年分残っていたし、村上氏もBSDIに慣れていたという面もある。ところが、Netfinity導入決定後、IBMがLinuxをサポートするという発表があった。村上氏は、Netfinityが搬入されてからすぐに、Windows NT、Linux、BSDIによるパフォーマンステストを実施した。Webサーバやメールサーバを各プラットホームにインストールし、1日数万トランザクションをかけた。結果、Linuxの堅牢性もわかったし、逆にWindows NTとImail Serverの組み合わせでも「行ける」という結果になったそうだ。Linux万能という方針ではなく、やはり適材適所で、使いやすいものを採用していくといった姿勢である。「Linuxは分かりやすい動きをするし、カーネルレベルできわめて安定性が高い。さらに、1サーバ1機能というシンプルな構成も手伝って、不具合があったときも原因の特定がしやすいんですね。カーネルのソースを読んで勉強もしました」。テスト時の評価基準は、OSの機能的な側面はもちろん、いかにセットアップが簡単だったか、といった点も含まれた。BSDIにも相当心残りがあったという。

Netfinity内部写真
Netfinity内部。PCIバスのすぐ右脇にある白い板のようなものは異常検知パネル。ハードディスクやCPUに異常があったとき、このパネルが光るようになっている(当然、OSには依存しないので、LinuxでもWindows NTでも同じようにはたらく)

 サーバでは、最低限の機能が動いていればいい。使用ディストリビューションはRed Hat Linux5.2だが、インストール時にはカスタムインストールをして、ほとんどの機能を削ったという。「このサーバはこのサービスしかいらない、というのが分かっているので、必要なモジュール以外を消していく作業のみをしました。面倒はありませんでした」とのことだ。「カーネルのチューニングまではやっていません。誰が見ても分かる仕組みを作ろうということで、素のままで使おうと。もしも我々で手の施しようがない時は、サポートに見てもらう必要もありますし」。

 ちなみに、Red Hat 5.2は、CD-ROMから30分程度でインストールが完了し、起動できるので、楽だったという。今話題の6.0へのアップグレードは? という質問に関しては、「Webサーバだけは、新しい機能も使いたいので検討するつもりです」という。ほかの機能は、すでに5.2が世界中で一定期間使われ、熟成された存在になっているだけに、アップグレードの必要性はないという。

 実は、今回のLinux導入作業では、まだIBMのサポートを受けていないという。前述のとおり、インストールからテスト、実際の立ち上げまで、村上氏1人で実行できてしまったのだ。現在トラブルもなく、順調に運営しているという。

レンタルサーバもLinux

 エクナグループにおけるエクナネットの位置づけが、システム販売時におけるインフラ提供といった側面もあることは前述したとおりだ。こうした方向性にそって、同社ではレンタルサーバ業務も行なっている。具体的には、コバルト・ネットワークスの「Cobalt RaQマイクロサーバ」を導入し、月2万円という低価格でレンタルを開始している。こうしたレンタルサーバを使って、単に顧客企業がWebページを持つだけではなく、たとえばWebグループウェアをインターネット上で運用することも可能になる。RaQはご存じとのとおり、ハードウェア専用にカスタマイズされたLinuxが搭載されている。したがって、結果的にエクナネットの環境は、ほぼLinuxで統一されることになったのである。

RaQ写真
Cobalt RaQマイクロサーバ。月額2万円はお得だ。サービスを開始して間もないが、今後はシステム販売の主力商品へと展開していくという

Linux採用の決め手は?

 いまではもうほとんど見られないが、半年ほど前は「フリー(無料)のOSであるLinux」という記述が、メディアの中で目立っていた。その後こうした曲解は訂正されつつあるが、確かにサーバ用途のOSとしては、どのディストリビューションをとってみても、単価が安い。しかし、少なくともエクナネットの場合は、安さ故に採用したわけではなく、あくまでもLinuxのOSとしてのパフォーマンスと、分かりやすさという面が決め手となった。もともとのLinuxの実力に、大手コンピュータ企業であるIBMのサポートという、いわば鬼に金棒状態になったことで、こうした事例が登場したわけだ。現在、大手のPCサーバメーカーや、代表的ソフトウェアベンダーがLinuxサポートを表明し終えた状態であり、情勢としては、Linuxによる企業システム構築の土台がある程度は整ったといえるだろう。今後はLinuxによるシステム構築事例は加速度的に増えていくのではないだろうか。

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