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松村太郎の「デジタルとアナログの間」 第9回

松村太郎の「デジタルとアナログの間」

オープンリールを「楽器」として再発見──和田永氏

2009年03月15日 13時00分更新

文● 松村太郎

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古い機器を「楽器」化する

 現在、私たちはさまざまなテクノロジーの恩恵にどっぷりとつかって生活している。

 そんな中にあって、和田氏が注目したのは、いまや古びたテクノロジーとなってしまったオープンリール式のテープレコーダーだった。なぜいま、オープンリールなのか?


和田氏 僕は普段から音楽活動をしていて、演奏したり、作曲をしたりしています。それで新しいパフォーマンスとしての楽器を探していて、40年くらい前の古いオープンリール式のテープレコーダーに出会ったんです。これをUSBで接続して操作できるように改造しました。

 DJが使っているターンテーブルのように、楽器としてこの機器を捉え直し、Macやネットワークなどの技術で使える道具として誕生させたのが、今回の作品です。オープンリール自体が録音/再生する機器だから、その特徴を生かして録音やミックスしてプレーできるようにしています。


 このMac経由でコントロールして音楽を奏でるカルテットは、再生メディアであり、記録機能を備えた録音メディアでもあり、パフォーマンスが可能な楽器でもあるのだ。


和田氏 通常Open Reel Ensembleは、備え付けのテンキーで操作していますが、ネットワーク経由で遠隔操作もできます。もちろんiPhoneからも操作可能です。また、プログラムで物理的にスイッチを動かして音を作り出せるほか、動きを記憶させて、録音した音をその場でミックスもできます。


 和田氏は、プログラミングやデジタル技術によってオープンリールという古い機器に楽器として命を吹き込んで、完全に手なずけていた。


「変換」へのこだわり

和田氏 ブラウン管テレビの映像入力ポートに音声端子を差すと、音声信号が変換されて画面に砂嵐が表示されたんです。これをビデオ撮影して、今度はその映像信号をアンプに入力した。すると劣化はしたものの音源がわかる程度に音がよみがえった─といった実験をしたことがあって……。

 そういった経験をとおして、情報の形を変えて記録することや、そうして記録したものを再生することに興味を持つようになりました。


 例えばレコードは音の情報を表面の傷として記録しているし、オープンリールは音を磁気に変えて記録している。その仕組みのわからないブラックボックス化した製品が多い現在にあって、過去のアナログ技術を使った製品は情報の形態の変化や、その原理をより明確に示してくれる存在なのだ。

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