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時事ニュースを読み解く “津田大介に聞け!!” 第32回

なくならないネットの誹謗中傷、どうすればいい?

2009年02月26日 13時00分更新

文● トレンド編集部、語り●津田大介(ジャーナリスト)

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「名誉毀損」か、それとも「表現の自由」か

── 誹謗中傷とは逆で、本当のことだと思ってネットに書いたら名誉毀損で訴えられたというケースもあると思います。

津田 ネットにおける「表現の自由」は、とても難しいテーマなんです。

 1月31日にも、ネット上の書き込みが名誉毀損にあたるかどうかを争った裁判が東京高等裁判所で開かれました。

 名誉毀損の裁判では、「事実の公共性」「目的の公益性」「真実性の証明」などが争点となります。この裁判は、昨年2月の1審にて「ネットの書き込みは利用者が互いに反論可能」「情報の信頼性が低いと一般的に受け止められている」として無罪判決が出ていました。先に挙げた争点のうち、ネットの個人利用者については「真実性の証明」の基準を緩和したわけです。

 それが高裁では一審の考え方を否定し、被告の名誉毀損を認めて有罪という判決を出しています。

 何が言いたいかといえば、この裁判は、名誉毀損において、放送や新聞、雑誌といった一般的なマスメディアと、インターネットの書き込みを同じ基準で扱うのかどうかという話につながってくるんです。

 マスメディアによる言論には、少なくとも名目上、事実を報道する公共性とその言論に対する責任がセットになっています。だから名誉毀損の裁判で公共性が低いと判断されれば、メディアが負けることもある。

 一方、インターネットは、情報発信があまりに手軽なため、書き込みをしている個人が公共性や責任を自覚しているかどうかという問題があります。環境的要因が違う両者を、果たして同じ基準で扱っていいのか。それは今後、さまざまな場所で議論をしていくべきでしょう。

 とはいえ、「表現の自由」は無秩序に誹謗中傷してもいいということではありませんし、ある程度のガイドラインができるまでは個別、具体的に判断をしていくしかないのでしょう。

 今回の裁判は、スマイリーキクチ氏の摘発とは違って、一部乱暴な表現もありましたが、雑誌記事並みとは言わないまでも被告の調査に基づく一定の事実が示されていました。

 もし企業を告発する書き込みすべてに厳しい基準を適用し、名誉毀損として処理していると、真実性を伴った内部告発や、明らかになっている情報を元に発表した個人の否定的考察なども、杓子定規的に名誉毀損とされてしまう可能性も出てきます。

 最終的には「ネット上の表現の自由をどこまで認めるか」という話になると思います。ただ、いざ規制をかける場合でも、極端な事例や事件をきっかけに基準が作られてしまうというのは違和感を覚えます。


── そもそもインターネットには出所不明な話が多すぎて、いまいち信頼を置けないという意見もあります。

津田 結局は世代やその人ネットリテラシーでまったく変わってくるので、「ネットの情報はこういうものだ」と言い切ることも難しい。「テレビや新聞は嘘ばかりだけど、ネットなら本当のことが書いてある」と思っている人もいれば、まったく逆の認識を持っている人もいる。

 しかし、リアルの世界……例えば、テレビの公開収録で観客席から「あいつは人殺しだ!」って言って回ったら、何らかのペナルティーは免れませんよね。そういう基準がネットにも持ち込まれつつあるし、昨年起きた秋葉原殺傷事件で殺害予告が厳しく取り締まられるようになったことも影響としてあるように思います。

 今まではある種、見逃されていたネットに対して世間の目が変わってきたし、悪質な書き込みをした人間を摘発することを認める社会的なコンセンサスもできあがりつつあるんでしょう。今回、書類送検された人々は「まさか自分が」という気持ちかもしれませんが。

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