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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第18回

シャープの電子辞書が「ザウルス」になる?

2009年02月06日 15時15分更新

文● 西田 宗千佳

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まずは「電子書籍」からスタート
ビューワーとしての能力を磨いて高機能化へ

本体左側面

本体左側面。ワンセグ受信用のロッドアンテナを装備

本体右側面

本体右側面。タッチ操作用のスタイラスペンはこちらに内蔵可能

 オープン化といっても、完全にコンピューターとして公開してしまう、というわけではない。ビジネスとしてはあくまで「電子辞書」である。「完全にオープンにしてしまうと、店頭に電子辞書として買いに来られるお客様を戸惑わせる可能性がある」(名井氏)からだ。

 しかし、単純に電子辞書として売るのではない。「自分のための『ブレイン』になるよう、いろんな使い方をしてほしい」(名井氏)という思いを生かし、様々なコンテンツや機能を追加できるという部分をアピールしていく。

 まず前面に出していくのは「XMDF」だ。XMDFとは、シャープが開発した電子書籍のフォーマット。俗に「ブンコビューア形式」と呼ばれるものだ。携帯電話で広く利用されているほか、Brainも対応している。専用辞書や小説など、XMDFでは様々なコンテンツがダウンロード配信されているが、この戦略は2008年12月発売の最新機種「Brain PW-TC980」以降、さらに拡大されている。

お詫びと訂正:掲載当初、「XDMF」していましたが、正しくは「XMDF」でした。ここに訂正するとともに、お詫びいたします。(2009年2月9日)

 PW-TC980には、パソコン上で個人がXMDFのコンテンツを作成できるオーサリングソフトが付属する。ごくシンプルなもので、コンテンツ作成企業が利用するプロ向けのオーサリングツールとは異なるものだが、とりあえず、「ある程度自分で好きなものが作れる環境を用意した」(名井氏)という。

 「自分史でもいいし、アルバムもいい。ですが、面白いと思うのは問題集などを作ること。キーワードで(任意の位置に)ジャンプできるので、企業などでは、サービスマニュアルを作ることにも使えます」(名井氏)。また、シンプルなテキストファイルや画像ファイルであれば、オーサリングすることなく直接表示できる。

テキストビューワーの機能を内蔵

テキストビューワーの機能を内蔵。知られていないが、テキストビューワー機能を内蔵した電子辞書は多い

 その次に来るのが「アプリケーション」の利用だ。現在もシャープは、漢字検定用のゲームなどをWindows CE上で動作するアプリケーションとして作成し、標準搭載している。またゲームなどに関しては、同社のウェブサービス「ブレーンライブラリー」を経由し、販売されている。

標準で組み込まれている漢字検定ゲーム

本体に標準で組み込まれている漢字検定ゲーム。正体はWindows CE向けに書かれた単体のアプリケーション

メニューには最初から、外部アプリケーションを呼びだす機能がある

メニューには最初から、外部アプリケーションを呼びだす機能がある。今後はコンテンツ的なものだけでなく、ツール的なソフトも用意される

 Brain向けに提供されているのは、現在は電子書籍やゲームなど、コンテンツに近いものが主力だ。だが今後は、より「アプリケーション」に近いものが用意される予定だ。すでに述べたように、今春をめどにエディターやスケジューラーなどの「Brainをツールとして使う」ためのアプリケーションが公開される予定である。これらがどのような機能を持つのか、有償か無償か、対応機種はどうなるのかといった詳細は得られていないが、「電子辞書が電子辞書を超える」第一歩といえそうだ。

 「情報はウェブなどでも公開していきたい。最初から開発環境を個人にまで公開する、ということは難しいでしょう。まずは、ビジネスパートナーと協業して開発する、という体制を取ることになる」(名井氏)とのことなので、いきなり自由にソフトをインストールできるようになる……と考えるのは難しそうだ。しかし、個人的にハックする対象としては、なかなか興味深い存在になりそうだ。

本体前面にはSDカードスロットを用意

本体前面にはSDカードスロットを用意。パソコンとの手軽なデータ交換に使える

 さて、これらの施策を経て、名井氏はBrainという電子辞書をどうしたいと考えているのだろうか?

 「基本的にはビューワーでいいと思っています。パソコンの世界にはあらゆるコンテンツがある。それをどんどん貯めていって活用できるようにしたい。電子辞書独自の環境を作るのではなく、パソコンや携帯電話のインフラをうまく生かし、補完的に使えるものになれば……と思います」

 「自分の秘書であり、文字どおりの“ブレーン”として役に立つものにしたい。『気になることがあればBrainに聞く』というように。全文検索機能を生かして、辞書を“引く”のではなく“読む”ように使ってほしい。そうなると、機械の中にあるデータだけでは進化していかない。例えばWikipediaの中身を参照する、といったことも検討しています」(名井氏)

 はたして、電子辞書というプラットフォームはどこに向かうのか。シャープの決断がどのような形で展開するのか、注目していきたい。


筆者紹介─西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」。


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