手間なしで収益、悪い話ではない
── レコード会社にとって、DRMフリー化はどういった影響がありますか?
津田 少なくとも欧米のレコード会社にとっては悪い話ではないと思います。
iTunes Storeでは、お金を払うことで、以前買ったDRM付きの楽曲をDRMフリーにアップグレードできるようになっています。このサービスを利用する人も多少はいるでしょうから、わずかですが何もせずに追加収入を得られるというのは大きいですよね。
DRMフリーの音楽配信サービスは、元々、アップルがEMIと2007年4月に始めたものです(関連記事)。そして、途中で参入してきたAmazon MP3が思った以上に成功した。
それはデジタル音楽市場を支配していたiTunes Storeの「ライバル」を育てるため、レコード会社がAmazonに積極的に協力した結果でもあります。そうした流れの中で、アップルのレコード会社に対する態度も軟化してきて、結果としてiTunes Storeの大幅DRMフリー化が実現したんじゃないでしょうか。
「音楽不況」は底を打ったか?
── 昨年はサブプライムローン問題に端を発する不況が盛んに言われていました。音楽業界はどのような状況ですか?
津田 2008年のデータがちょっとずつ出てきているんですが、興味深いのは、音楽ソフトの販売という観点で見ると、欧米の一部で回復傾向が出てきていることです。
先日ニールセングループが発表した米国音楽市場の調査結果によれば、CD、音楽ビデオ、音楽ダウンロードの販売総数が10%上がってるんですよ(関連リンク・英語)。CDは下がってますが、それ以上にダウンロードが売れているということですね。
英国もそうで、英国レコード産業協会(BPI)が先日発表したデータによれば、こちらもCDアルバムは微減しているものの、それ以上にデジタル音楽が売れて、CDの落ち込みをカバーしています。今後、音楽ダウンロードの占める割合は高くなっていくことで、世界的な音楽不況の傾向に歯止めがかかりつつあるということが言えるのではないでしょうか。
ただ、日本は日本で深刻ですね。英米と比べてCDの落ち込み幅が大きいです。「着うた」「着うたフル」を中心とした携帯向け音楽配信はまだ伸びていますが、若干飽和状態になりつつあるので、もしかしたらCDとダウンロードが今の割合からさほど変化せずに固定化されてしまう可能性もあります。
音楽ダウンロードへの依存度という点でいうと、現時点では米英の方が高いです。2008年のデータで見ると、日本は全体に占める音楽配信の割合が20%程度でしたが、先ほどのニールセングループの調査では、米国は32%だったということです。CDの売り上げ減がどこで底を打って、デジタル音楽との均衡が取れるのか、そこが個人的に興味のあるところです。
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