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松村太郎の「デジタルとアナログの間」 第5回

松村太郎の「デジタルとアナログの間」

アニメの原点に戻る──「崖の上のポニョ」と奥井氏

2008年12月13日 11時00分更新

文● 松村太郎

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直線のないポニョの世界


 「崖の上のポニョ」の世界観を作り上げるうえでいちばん重要だったのは、監督・宮崎駿氏と美術監督・吉田昇氏が構想を作り上げた「背景」だという。吉田氏の特色である柔らかい表現、高めに設定された彩度、まるで絵本のような世界観──こういった柔らかな作風でスタジオジブリが長編アニメーションを作るのは初めての経験だったそうだ。


奥井氏 アニメーション制作に3D CGを導入していると言っても、その全体に占める割合はスタジオジブリの作品では約1割程度。CGは物理法則が基本だから、制作では思い通りの表現をするために、その法則に対してウソをつかなくてはならないこともある。それによって、いかに求める表現を実現するか、自然に見せるかという点がノウハウなんです。そして、その作り込みこそ、時間がかかってしまう部分でもあります。


 「崖の上のポニョ」では3D CGを使わなかったため、動きに関する作業は従来通りすべてアニメーターだけが担うことになった。しかし、膨大な作画枚数ながら、制作は順調で自由度も高かったという。アニメーターがキャラクターを動かせば「絵が動く」。スタジオジブリが過去40年間培ってきたアニメーション制作における技術と経験が存分に生かせたのだ。


奥井氏 最近の傾向として、より精細なもの、フォトリアルなものをアニメーションで追求しているという印象があります。それも方向性のひとつだとは思いますが、そのような作品ばかりでは面白くありません。例えば、炎を表現したいときには、現実の炎を正確に再現するのではなく、アニメーションとして様式化することが必要で、見る人に「炎だ」と認識してもらえるように描くことが大切なのです。


スタジオジブリ


デジタルによる表現のアシスト

 原画がすべて「手描き」であることばかりに注目されがちな「崖の上のポニョ」の制作においても、ペイントや合成などはパソコンを使ったデジタル作業であるし、表現を豊かにする補助としてデジタル技術も活用されている。そんなアシスト的な手法のひとつとして、奥井氏は「マスク動画」を紹介してくれた。


奥井氏 従来、嵐や強風のシーンでも背景の表現はキャラクターとは異なり静止していました。今回「崖の上のポニョ」では、草木を作画で動かし背景のディテールも生かすというチャレンジをしました。まず、キャラクターと同様にデータ化してペイントします。そのまま背景上に配置すると浮いてしまうので、色面をマスクとして使用し、背景のディテールを合成、さらに不自然にならないように処理を追加しました。


 例えば嵐のシーンでは、作画によって木を揺らしても、繁っている葉の色が一定では不自然だ。そこで葉が裏返って白っぽくなったりする表現をマスク動画を使って追加しているという。また、美術監督の吉田氏による世界観をアニメーションとしていかに再現するかにも、デジタル処理が活用されている。


奥井氏 光や影の処理については、手描きの背景や線画だけではなかなか表現できないので、デジタル上で処理を加えることで際立たせるといったフォローをしています。ただし決して、デジタル処理を前提とした作業はしません。美術やアニメーターがいいものを描いてくれることが大前提で、それあっての処理なんです。


ネコ

建物前に置かれた車のボンネットでは、ジブリで飼っているネコがのんびりしていた

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