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企業・業界レポート 第2回

ASCII Research Interview Vol.1

コンテンツ消費の縮図「とらのあな」が考えていること

2008年12月01日 14時00分更新

文● 村山剛史(構成) 聞き手●アスキー総合研究所所長 遠藤 諭 撮影●吉田 武

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地方と、海外との連携がこれからのテーマ

―― 「世界中にあるコミケみたいなイベントを繋ぎたい」といったお話を、東京コンテンツプロデューサーズ・ラボの講演でされていらっしゃいましたが、その意図は?

吉田 これはまだ思案している最中です。海外の作家さんの作品をこちらに持ってくるか、あるいはこちらの作品を海外に持って行くか。言葉や印刷所など、問題も多々あります。例えば、国内の同人販売イベントは代表が日本人じゃないとサークル参加できないことが多いので、外国人が日本で直接頒布するのは難しい。まずは頒布できる環境を作ることが先決でしょう。

 ただ、海外の同人誌はまだレベルがそれほど高くないので、日本の同人作家が海外で本を売る環境の構築も同時に考えています。店舗の形態がいいのか、ネット販売がいいのか……。作品交流とクリエイター紹介を行って、向こうから仕事が来る可能性を高めたり、ファンのすそ野が広がったりするような仕掛けを作っていきたいと考えています。

―― 政府が「知的財産立国」を掲げてから、6年が経とうとしています。そのようなアイデアに対してこそ、国が援助すべきだと思うのですが、いかがでしょうか。

吉田 実は、地方に「トキワ荘」を作れないかという提案を今、関係省庁に行っている最中です。出版の拠点は東京に集中していますが、例えば関西にトキワ荘のようなものを作って、ある一定の数のマンガ家を集積させれば、編集者も来てくれると思うんです。都市部ならば可能だと考え、現在、廃校を貸してほしいとお願いしています。少子化で廃校となった校舎などに、入れ替わり制で入居するかたちを想定しています。

 地方自治体が企業を誘致する試みがありますよね。あれのマンガ家版、フィギュア原型師版です。場所さえあれば出口はこちらで作れますからね。これと海外の窓口と接続していくなどして、今後3年以内になんとかかたちにしていきたいなと考えています。

―― 同じく、講演で「店員もオタクであるべきだ」と話されていましたが、御社の場合はどうなのでしょうか?

吉田 コアなユーザーでもある従業員が、全体のおよそ半分を占めています。昔はもっと多かったかな。次に、ちょっとかじっていますという層が3割、そして残り2割が一般人といった比率です。最後の層はほとんど管理部門ですね。

とらのあな吉田社長

「秋葉原の怪しさとか、インディーズ感は大切にしたい。でも、秋葉原のお店って、みんな本当にマジメですよ」

 以前は入社試験にオタク検定のような問題が入っていたのですが、あまり意味がないことがわかりました。というのも、この手のものが嫌いな人間はそもそもウチに来ない(笑)。オタク度を測るような試験は、バイヤー向けなどに限定しました。知識は入社してからいくらでも勉強できるので、入る段階で変に縛りを付けるのはやめて、人材はできる限り社内で育てようと考えています。

―― 現在、ニコニコ動画やpixivに代表されるコンテンツ鑑賞を軸にしたコミュニケーションが盛んですが、これらCGM系に関する戦略は?

吉田 ネットは通販などで早くから取り入れていたのですが、とらのあなが現在一番弱いと感じているのがこの方面でして、CGMの充実はこれからの課題ですね。

―― 最後に、御社が進めている海外との交流事業やトキワ荘計画で、日本のオタク業界はどのように変わるのですか?

吉田 日本のオタクはライト化しましたが、海外のオタクはまだ濃いんです。海外のオタクを見ていると「あいつら純情だなぁ」と思うのと同時に、いつの間にか自分たちが(オタクのシーンを)斜めから見ていたことに気づかされます。だから、一連の施策でもう一度日本のオタクを濃くしていきたい。海外のオタクとの交流によって、我々が忘れかけている熱い血のたぎりを取り戻せるような気がするんです。

 また、本社と物流を集約するため、12月1日に本社を千葉県・市川市に移転します。秋葉原UDXを借りようと思ったのですが、六本木ヒルズより高いのでやめました(笑)。このあたりで一度、秋葉原を外から眺めてみることで、街のよさを再確認できるんじゃないかと思っています。楽しみですね。

本記事を制作したアスキー総合研究所は、アスキー・メディアワークスの法人向けリサーチ・メディア部門です。

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