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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第44回

新聞の終わりの始まり

2008年11月25日 16時30分更新

文● 池田信夫/経済学者

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メディアも「水平分離」へ

 しかし今後10年ぐらいを考えると、紙の新聞が媒体として成り立たなくなることは確実だ。日本は世界的にも新聞の普及率の高い国だが、昨年の新聞発行部数は世帯あたり1.01と、1を切る寸前に落ちた(新聞協会調べ)。これが欧米並みの0.7部になると、現在の宅配網は維持できなくなるという。今のペースで部数が減り続けると、10年以内にそういう状況になる。

 新聞の経費の4~5割は販売経費が占めるといわれ、ここにメスを入れないかぎり紙の新聞に未来はない。特に各社ごとに専売店をもつシステムは限界に来ており、戦前のように合売店にして流通経費を削減しなければコストは削減できない。長い目で見ると、新聞社の機能の中で残るのは記事(コンテンツ)だけで、インフラは紙からウェブまで何でもありという形に変わってゆくだろう。メディアも今までのように取材から販売まで垂直統合した経営ではなく、図2のように機能別に水平分離されてゆくのではないか。

【図2】メディアの水平分離

 ここでコアになるのは編集機能であり、自社の社員がすべて取材・制作する必要はない。紙のインフラを切ればコストは半減するので、採算に乗る可能性はある。ただこの場合、広告だけで今のコンテンツを維持することはむずかしく、また新聞だけで成り立つかどうかもわからない。新聞社も出版社のように編集機能に特化し、印刷も執筆もアウトソースする形態に変わってゆくだろう。


狭義のメディア産業は縮小する



 これに対してウェブベースのニュースメディアは、ほとんどが非上場なので財務状況はわからないが、黒字化したところも多いといわれる。もちろん事業規模は新聞とは比較にならないが、コストを低く抑えているからだ。かつてNTTの固定電話の年間売り上げは最盛期には5兆円以上だったが、それが効率の高いIP(Internet Protocol)に変わると、ISPを全部あわせても売り上げは8000億円程度だ。メディアの効率が上がると、見かけ上の事業規模は小さくなるのだ。

 従来型のメディアは、成長産業ではない。21世紀のメディアの主流は、新聞やテレビのような重厚長大型ではなく、ISPのようなローコストのプラットフォーム型に変わるので、狭義のメディア産業の規模は小さくなるが、情報コストが下がることによって情報の消費量は格段に多くなり、関連する産業は広がる。インターネットの理想である「ユーザー中心のネットワーク」が、メディアの世界でも実現するだろう。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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