さらに著作者が分かりにくい、映像の世界
── 音楽だけでなく書籍や映像など、すべての著作物の権利者を探せるデータベースは存在しますか?
津田 今のところはありません。文化庁にも著作物の登録制度はありますが、ほとんど使われていない。
本来は文化庁が予算をと取って包括的なデータベースを作る必要があるのかもしれませんが、音楽ではJASRACがすでに存在していますし、経団連が中心になってこうしたデータベースを作る動きもあります。現状は、どれを業界標準にしようかということも決まってないし、コンテンツによるメタデータ(作品名や作者といった分類情報など)の統一すらできてない状況です。
出版の世界はまだ著者が少ないため、管理もそれほど難しくありませんが、映像になると、制作者だけでなく、出演者のパブリシティ権や、使われている音楽といったように、とにかく複雑に権利がからみあってしまう。さらに、制作者から放送局に権利が譲渡されるケースも多いので、現在の著作権者が誰なのか分からない。
今回の詐欺事件がきっかけになって「データベースの整備は必要だよね」という機運が熟していき、政府が本腰を入れてくれるようになれば、著作物を使いたい人と著作権者との距離が近くなるかもしれませんね。
初出時、「欧米では放送局が音楽出版社を持つことが禁止されている」という文章がありましたが、「そうした行為が禁止されているという事実はない。BBCなども持っているし、米国にも放送局系の出版社はある。米国で放送局系の出版社が少ないのは、伝統的に主要テレビ局自身による番組制作が禁じられてきたという歴史的側面が大きい。海外と比較して日本だけ放送局が音楽出版社を持てるよう優遇されているとするのは間違った認識だ」とのご指摘をいただきました。これを踏まえ、記事を訂正し、お詫びいたします。(2008年11月13日、津田)
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。
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