実はJASRACなどのデータベースで調べられた
── 音楽業界でも、出版業界のように著作者は調べられないのでしょうか?
津田 音楽業界の場合は、少々、事情が異なって、データベースが存在しているんです。
楽曲は、放送や演奏、配信、カラオケなどに二次利用される機会が多いため、アーティストが自分で著作権を管理するのが難しい。だからメジャーのレコード会社と契約するような人は、通常CDを発売する際、音楽出版社に全部または一部の著作(財産)権を譲渡しています。
そして、譲渡された音楽出版社側は、その著作権使用料の徴収を日本音楽著作権協会(JASRAC)やイーライセンス、JRCといった著作権管理団体に委託するという形になっているんです。
この慣習が数十年にわたって続いてきたことによって、音楽業界には膨大な著作権データベースができているとも言えるでしょう。ちなみに、こうした仕組みが民間ベースでまともに動いているのは音楽業界だけですね。
実はどの音楽出版社が権利を持っているのかというのは、JASRACなどがインターネットで公開しているデータベースで検索できます。小室さんの場合もそうでした。
もちろん、音楽出版社に譲渡せずに、アーティストが自分で著作権を保有しているケースもあります。一部のCM音楽やゲーム音楽、JASRACなどの管理団体に委託せず自分たちで運営している小規模インディーズなんかがそうですね。ただ、「商業音楽」という枠の中の絶対数で見ると、そういう人たちはとても少ない。
── なるほど。音楽業界に縁のない一般の方なら、そうした仕組みを知らないでしょう。
津田 やっぱりクレジットに「作詞・作曲」とあれば、著作権を持っていると勘違いしてしまう人もいるでしょう。もっと言えば、「公的に著作者を調べるシステムがない」というところに、今回のような詐欺が成立する余地があるわけです。
ただ、現実問題として今回被害にあわれた投資家の方が、事前に調べたのかという疑問は残りますね。本人から「権利を譲渡する」と言われた時点で、JASRACに問い合わせたり、弁理士の人に著作権の所在を調べてもらうなりすれば、今回のような詐欺は防げたのではないかという疑問があります。
だまし取られた金額が金額なだけに、なぜ事前に十分調べず被害にあったのか──。今回、単なる詐欺事件なのに大阪地検特捜部が動いているということも含めて、そのあたりの不可解な点は今後の捜査で明らかになっていくのかもしれません。
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