呑む前に、発電してみる?
さて、準備が整ったらさっそく実験だ。もう待ちきれない。
- 本体下にあるノッチを左に動かして排水チューブをふさぐ。そうしないと燃料をタンクに注いでも、 すぐに流れ出てしまうのだ。
- 本体タンクに燃料(純米酒)を注ぎ入れたら、排水チューブの先に計量カップを置く。ノッチを 右に動かし、少しだけ排水してDEFCユニットに燃料がいきわたるようにする。
- ノッチを再び左に動かして排水を停め、タンクにふたをする。モーターからのびるコードの先の ワニ口クリップを、DEFCの電極につなぐ。これで完了だ。
しばらく、といっても1分もしないうちに羽根がクルクル回り始める。手で回転を止めても、放せば回る。それほど強い力ではないものの、ゆるやかに、しっかりと回り続けるのだ。持続時間は数時間。エチルアルコールの濃度や気温などの条件で変わってくるが、15%の純米酒では6時間ほどまわり続けた。
ちなみに、筆者はアルコール分解が得意ではない!
で、燃料がどうなるかというと、お酒を長期間そのままにしておくと酢になるのと同じように、この燃料電池でも酢ができる。より正確に書くなら……
・エチルアルコール+酸素+水 → 酢酸(一部アセトアルデヒド)+二酸化炭素+水
の反応が起こる。燃料電池セルの中での反応過程では、エチルアルコールに含まれている水素が酸素と結びつくのだが、そのときに出てくる電子を、電気として取り出しているわけだ。燃料電池モジュールをよく見ると、穴が空いていて、空気中の酸素を取り込めるようになっている。
もちろん、排液は飲用には適さない。実を言うと、この反応は、人がお酒を飲んだときの体内での反応と似ているのだ。生体反応では酵素がアルコールを分解してエネルギーを得ているが、燃料電池は、酵素のような触媒としてはたらく。お酒に弱い筆者の場合、アルコール分解酵素をほとんど持っていない体質のようだ。代わりに燃料電池を体内に入れておきたいものである。
お酒が、お酢に変わるのだから、長時間回し続けると辺りにはすっぱいにおいがしてくる。タンクと燃料電池ユニットは、1本の細いチューブでつながれているだけなのに、不思議なことにうまく循環するようで、数時間後にはタンク内のエチルアルコールのほぼすべてが酢酸とアセトアルデヒドに変わっているようだ(二酸化炭素の泡も見える)。
羽根の回転が遅くなったり止まってしまったら、ノッチを操作して排水し、使われた燃料を排出。タンクに新しい燃料を入れてやれば、また回り続ける。燃料電池の寿命や仕様詳細など詳しいことは(さすがに企業秘密の部分もあるのか)不明だが、発電中の電圧は約1V、電流は小さく100mA以下ではないかと思える。
何のヘンテツもない、プラスチック製の小さなセルには、最新技術が詰まっており、製品が高額なのも仕方のないことなのだろう。
これが本当の燃料電池!
今までにも、燃料電池を教材化したものは数多くあった。中学校で、水の電気分解を学ぶときに、その反対の反応で電気を起こす燃料電池についても学習するためである。
しかし、教室などで気体水素の扱いが難しいためなのか、水素形の燃料電池のほうが簡易に作れるためなのか、多くの燃料電池教材は水を電気分解することで発生する水素と酸素を燃料として使う。そのため、使用前には必ず電気を与えなければならない。
これでは充電→放電という充電池のプロセスを見ているようで、燃料を使っているという実感がわかなかったのだ。
今回のバイオエネルギーキットも、燃料のエチルアルコールが消費されれば新しいものに入れ替えるため、純粋に、燃料を継ぎ足せば使えるというものではないが、排水量を微妙にコントロールできれば、さらに理解しやすい燃料電池教材となるだろう。
もっとも、教材として見なければ、どうでもいいことだ。お酒の持つパワーを、電気に変え、回転という目に見える形にしてくれる燃料電池。バーのカウンターなどに持ち出して、話の種にするのにちょうどいいアイテムでもある。
携帯電話や小型電子機器などの電源として使えるようになるのも、そう遠い日ではないだろう。未来を実感する素敵グッズを、お手元にいかがだろうか?