ハイリスクのビジネスができない日本
その最大の原因は、日本のIT企業のほとんどが古い大企業で、世代交代しないことだ。新しい企業が既存の大企業を倒すダイナミズムがないため、余剰人員や過剰設備を抱えて効率の低下した大企業が生産性を下げている。図のように、起業活動と成長率には正の相関があり、日本はどっちもOECD諸国では最低水準だ。
このように高いリスクを取る国ほどリターンも高い。もちろんローリターンを好む人はそれでいいのだが、日本には図の右上のようなハイリスクの市場が欠落しているため、リスクを取りたい人が取れない。投資銀行やベンチャーキャピタルがになっているのは、リスクを分散することによってこうしたハイリスクのビジネスを創造する機能である。
リスクのないところにリターンはない
サブプライムローンを利用して複雑な派生証券(デリバティブ)を作る投資銀行のビジネスも、本来はこのようなハイリスクの市場を創造して住宅の取得できない階層にも住宅を提供する意味があった。しかし、不動産バブルが崩壊すると総崩れになってしまった。派生証券は市場の歪みによって生じた利ざやを取るものだから、多くの投資家が参入すると、さやはなくなってしまうのだ。
だから単純なさや取りでもうける派生証券のビジネスは終わったが、金融の証券化によってハイリスクのビジネスを可能にする投資銀行のビジネスが終わったわけでない。企業を創造するベンチャーキャピタルや、企業を買収・売却によって再構築して資本効率を高める投資ファンド(private equity)は、これからますます必要になる。
日本のIT企業が高い技術を持っているのに世界市場で負け続ける最大の原因は、こうしたハイリスクのビジネスを可能にする資本市場がほとんど育っていないため、起業や企業買収が困難なことだ。アメリカの失敗を笑っている場合ではない。投資銀行は破滅したが、彼らの育てたIT企業は世界で活躍している。日本が今回の危機から学ぶべきなのは、ハイリスクを覚悟しないとハイリターンのビジネスは不可能だということである。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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