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デザイナー、ヤン・チップチェイス氏インタビュー

日本から学ぶ、10億人が使うノキアのケータイ

2008年10月10日 13時00分更新

文● 松村太郎/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

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今注目している未来のケータイデザイン

音楽配信やネット広告も手がけるなど、サービス分野の領域を拡大するノキアの戦略に、いままでの「観察」の蓄積が役立つのだろう

 チップチェイス氏に、日本のケータイで今注目していることを聞いてみた。

 まずノキアは「未来の話は語らないことにしている」点と、「グローバル企業なので注目しなければならないことは極めて多い」と前置きがあった上で、2つのことを紹介してくれた。

 「子供向けだとか、お年寄り向けといった、年齢層によるターゲットを狙う端末をノキアは作らない。なぜなら、子供はケータイを持って大人ぶりたいと思っているし、お年寄りはケータイを持って若々しく社会に接したいと思っている。もちろん彼らにも使いやすい工夫は必要ですが、モデルを分ける必要はない。これと同じように、世界には8億人の読み書きのできない人がいますが、そういった人たちも識字できる人と同じモデルを使いたい。そんな人たちが使いやすい端末の研究をしています」

 持っているモノによって自己表現をする傾向が世界中で見られる。子供向けだったり、シニア向けのケータイを持つことは、自分に特定の年齢層であるという烙印を押すことになる。

 これと同様に、識字できない人たち専用の端末を作っても、これを持つことに対する抵抗感がある。これらも人間の行動の基本的な願望から出てきた課題だと言う。

 もう1つは、おサイフケータイだそうだ。

 「日本ではおサイフケータイは積極的に使われています。電子決済の仕組みのほかに、チケットの代わりにしたり、広告を受け取る手段となったり。これらは銀行口座やクレジットカードなど既存の決済システムと紐付けられています。対極にあるのはブラジルやインド、中国の地方です。水道や銀行口座はなくても、ケータイは持っています。しかし支払いはプリペイドしかありません。ケータイの決済システムを構築して活用している日本と、プリペイドケータイのこれらの国では、ケータイに対するモチベーションや使われ方が全く違います。ケータイ以外のインフラの違いが、ケータイに大きく影響しているのです」

 チップチェイス氏は「ケータイは時空間を超えて旅をするものだ」と表現している。ATMがないのなら、代わりにケータイを持つ。ケータイが他のインフラを牽引する可能性を模索しているのかもしれない。

 グローバルな企業、ノキアならではの視点かもしれないが、こういった全く状況の異なる国や地域を、1つのデザインでつなぐことができるか? ケータイに対するニーズは大きく違うことが多い。それでもノキアは日本の端末を評価している。

 日本から世界に向けて発信されたケータイのデザインもある。

 その1つはストラップホールだ。日本のケータイには当初から必ずストラップホールが付いていて、ケータイをカバンやポケットから引っ張り出すのに便利だった。その様子を観察して、ノキアの端末にもストラップホールを付けるようになった。またNokia N73(SoftBank 705NK)では、日本向け限定色として用意したサクラ色が世界のユーザーにも人気を博した。

 「日本は技術的にも都市の文化の面でもとても洗練されています。常に新しいモノを求め、最先端のテクノロジーをすぐに応用し、サービスとして実現します。さらにそれらを恐れずトライする特徴があります。他の国ではあまり望まないような機能やデザインがケータイに生まれている点がユニークです」

 このように日本の端末を評価しているチップチェイス氏。僕らもケータイやそのほかのテクノロジーに対して、いち早く社会として取り組み、その事例を世界にレポートし、世界に対する発信力を発揮していくべきだ。

 チップチェイス氏とのインタビューは、日本のケータイ産業に対する問題意識を新たにする瞬間であった。


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