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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第36回

光ファイバーは本当に必要なのか?

2008年09月30日 09時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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FTTHよりIP化が先だ


 電話営業のおじさんは「FTTHにすればNGNも使えます」と売り込んだが、「NGNで何ができるの?」ときくと、「地デジが見られる」という。「それじゃ普通のFTTHと同じじゃないの」というと、「……一般のお客さんには無理にお勧めしてません」という。FTTHとNGN(次世代ネットワーク)は別の概念だが、NTTのNGNはFTTHやSIP(IP電話のプロトコル)とバンドルされているため、相互接続が困難で普及しないのだ。

 もともとNGNは電話網をIP(Internet Protocol)ネットワークに変え、電話交換機をルータに置き換えることによって設備・保守費用を節約するために開発されたものだ。BT(英国通信会社)のNGNサービス「21世紀ネットワーク」(関連サイト)は、電話網の機能をすべてIPで代替し、電話網を廃棄することを目標に掲げている。ハードウェアは何でもよく、基本的にはDSLベースだ。FTTHと違って、電話網をIPにする作業は端末や配線を変える必要がないので、局内設備とソフトウェアだけで100%置き換えることができる。日本でも、KDDIが一足先に「オールIP化」を進めている。

 NTTもFTTHにこだわらないでIP化を優先すべきだ、と私はかねてから論文(関連サイト)などで指摘してきた。NTTも中期経営戦略についての社長会見(関連サイト)で、「銅線より電話交換機の寿命のほうが短いので、メタルをNGNルータに収容することも選択肢の1つだ」というようになった。設備投資の優先順位を転換し、まずIP化して電話網を捨てることを最優先すべきだ。



有線・無線のプラットフォーム競争を


 しつこい電話営業のおかげか、FTTHでNTT東西のシェアは72.9%(今年度第1四半期)と、独占状態に近い。これに対してKDDIやソフトバンクは、光ファイバーを1分岐ごとに貸すよう要求しているが、「総務省がNTTのスプリッターの分岐を規制しろ」という要求にはうなずけない。銅線は電電公社時代に敷設したインフラだから、その開放義務を課すことも正当化できるが、光は各社ともこれから敷設する設備だ(電力系は自前で敷設している)。デバイスの仕様にまで行政が介入するのは過剰規制である。

 競合他社は赤字営業のFTTHに参入するより、地デジに移行することで生じるホワイトスペース(空き周波数)(関連記事)を使ってプラットフォーム競争を挑んではどうだろうか。ホワイトスペースは200MHz以上あいており、これは現在の携帯電話業者をすっぽり収容できる大きな帯域だ。これを使ってWiMAXやLTE(Long Term Evolution)などの無線技術で通信すれば、FTTH並みの高速ではるかに低価格なブロードバンドが実現できる。超高速通信に競争を導入するには、固定網の規制強化より電波の開放のほうが重要だ。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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