なぜ「真空」にこだわったのか?
真空チルドルームが生まれたきっかけは、「温度」「湿度」の2つをコントロールしてきた冷蔵庫に新たな「第3のコントロール」機能を付けようとしたためだったと、家電事業企画本部 事業企画部の石田和浩さんは話す。それが「酸素」だ。
「保存の性能を変えるものを考えていくと、酸素の制御が出てきます。例えばスーパーなどで見かける食品の真空パッケージや、お菓子の袋に入っている脱酸素剤がそれですね。それらをどう冷蔵庫に取り入れるかというところから開発がはじまりました」
たとえば「ジップロック」のような密閉式ファスナーがあるビニール袋に、野菜や精肉、料理などをつめこんで「オリジナル保存食」にしている人も多いだろう。ぎゅうぎゅうと手で空気を押し出したり、端から細いストローで空気を吸い出したり、真空をつくるにはけっこうな時間と労力が必要だ。
どうせならそれを冷蔵庫がやってくれたらいいのではないかという発想から開発はスタート。使い捨てで交換が必要になる脱酸素剤という発想はすぐに消えたと栃木空調本部開発センターの技師・船山敦子さんは話す。
「冷蔵庫は自動的に動いているものなので、保存するために何かをやってください(脱酸素剤を交換する)というのは受け入れられないんです」
方法が「空気抜き」に決定したところで、問題は山積みだった。まず、冷蔵庫に真空技術を取り入れたケースはもちろんのこと、真空状態で食品がどう変化(変色)するかという研究論文はどこにもなかったのだ。文字通り一から手さぐりで研究をはじめたのは2年前のことだったという。
実験に実験を重ねるうち、初代の真空チルド(今回の最新機種は2代目)は富士山頂と同じ「0.7気圧」が最適という結果が出た。酸化を防ぐためには空気が薄ければ薄いほど良いのかと思いがちだが、気圧が低すぎても食品に影響が出てしまうのだ。ちなみにこの結果は、世界初の研究として学会にも提出されている。
最新機種ではさらに研究を進め、ヨーグルトのパックも未開封状態のまま入れられる「0.8気圧」に変更されている。0.7気圧では容器が膨張してしまったり、シールが破れてしまったりすることがあったのだという。
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