子供に夢がないと言われたら?
桜子 子供から夢がないと言われたら、親は何と言えばいいでしょう?
飽戸 大人の責任なんですよね。大人が夢のないような話ばっかりするから親のようになりたくないって。よく親の背中を見て育つといでしょう。仕事でも趣味でも社会奉仕でも何でもいいから親が一生懸命やっていればいいと思うんだけど。僕も……僕の大部分の人生振り返ると、まあ、夢があっても、夢が仕事だけでしたからね。仕事人間で家に帰ってくると疲れ果てちゃっているわけですね。くたびれ果ててぼーっとしているお父さんみてもあんまり憧れもないし……。
桜子 アハハ、家の中ではね。外では輝いているけど(笑)。
飽戸 ほんとに子供達には申し訳ないことをしたと。あの……クリスチャンになったのも、そこに気がついてクリスチャンになったわけですね。かえって職人さんの子供の方がしっかりしているんですよね。やっぱり子供が親に何かの形で頑張っている姿を見せることが大事だと思うんだけど、サラリーマンは特にそれは難しいでしょうね。子供も年代によって難しい時期もあります。一律論では言えないですけどね。
桜子 飽戸先生にとって、人生とは?
飽戸 ……信仰を持つ前と持った後でガラッと変わっちゃったんでね。持つ前は好きなことだけやる。忙しい、暇がない、だから好きなことだけやれば効率がいいと。学生達に対しても好きなことを一生懸命やれと教えていましたけどね。信仰を持つと、やっぱり好きなことだけやっているというのは……実は周りに迷惑をいっぱいかけているんですね。それに気がつかなかった。(他者が自分に対して)本当にやってもらいたいことがあっても、こっちは好きなことしかしないですから。だからそういう意味でそれは傲慢そのものだというのに気が付いて……。やっぱり、人が喜んでくれることは何かということを考えながら、好きなことをやる。信仰を持つ前は「人の2倍働いて、3倍遊ぶ」が口癖だったんです。まあ今考えるとね、こんな傲慢なことはないね(笑)。
桜子 ああ、そうですか?
飽戸 その頃は、論文でも人の2倍、3倍書けと。遊ぶのも人の3倍。だからお前ら、ぼーっとしてないで勉強するか遊ぶか、どっちかどんどんやれと。
桜子 周りの人、急に変わった飽戸先生を見て驚いたでしょうね。
飽戸 うん、頑張らなくていいよ、無理しないでいいよって(笑)。院生なんて大学に9年いるわけでしょう。その間僕がガラッと変わったのを見て、皆戸惑っちゃったでしょうね。
桜子 前の飽戸先生の方が好きだった、って人もいますでしょ?
飽戸 そりゃそうですよ。飽戸先生、病気になっちゃったって(笑)。
桜子 それはいいんですか!?
飽戸 うん、いい、それでいい。かまわない。この世から見たら病気になっちゃったようなものだから。成績もこれまで「可」ばっかり付けていたのが、信仰持ってからは、この子こんなに一生懸命やっていたのかって「優」付けるようになって(笑)。
桜子 優しくなっちゃったんですね。成績の付け方が辛いと言われていたのに(笑)。
飽戸 自分に自信があり過ぎて人が物足りない。人の論文が気に入らない。そういう人間でしたからね、余計変われたんだと思う。
ビジネスマンへ伝えたいメッセージ
では最後に、ビジネスマンであるASCII.jp読者へメッセージを。
飽戸 やっぱりね、自分の好きなこと、自分に合うことを見つける。本当に自分が好きなことを見つければ能力もあるわけだから。好きだから残業したって苦にならないし、いい仕事ができる。できるだけ自分の好きな仕事を見つけて、場合によっては思い切って転職するということも。卒業生によく言うんですけどね、人間はやり直しがきくんだよと。一度始めた仕事は死ぬまで変えられないわけじゃないし、途中でガラッと変わることもある。人生でも仕事でもリストラクチャリング(再構築)できる。5~6年したら一度振り返って、勇気をもってやってみなさいというんですよね。
好きなことだけやって食べていけなかったらどうすればいいのか……心配する私に先生は言った。「本当に好きならなんとかなりますよ。本当に好きなことが見つかれば、それはなんとでもなる。僕はそう思っているんですよ」
飽戸 弘(あくと ひろし/Hiroshi Akuto)氏のプロフィール
現職、東洋英和女学院大学学長、東洋英和女学院副院長、東京大学名誉教授。現在、放送倫理・番組向上機構(BPO)理事長、日本行動計量学会理事長、大川情報通信基金理事・研究助成委員会委員長。専攻は選挙やマーケティング、マスコミを対象とした社会心理学。「売れ筋の法則」など著書多数。
桜子(Sakurako/Cherry)のプロフィール
Interviewer&blogger 広告代理店・IT系企業を経て通信会社に勤務。5年前に「桜子の部屋・お友達の輪」というビジネスリーダーズインタビューを単独で開始。2007年シリコンバレーで活躍する日本人を取材に行く。日本人・外国人を含めた約50名ほどのインタビューを過去に実施。(http://sakurako.cc/)
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