人間は動物にない使命があるはずだ
神田氏は自らをネット業界のモルモットと表現する。例えば、ウィルスに侵されたらそれをレポートするというのだ。ネットで溺れ死んだ人はいないから自分が世界初のそれになるのだと。驚く私に彼は言った。
神田 だって、どうせ120歳まで生きるってことは考えていないでしょ? 明日の命なんてわかんないじゃない。
実は神田氏、人が先のことをいくら考えてもうまくいかないということを“体験”で知っている。死の危険と隣合せだったことは一度じゃないというのだ。飛行機に乗り損ねた時、それは御巣鷹山事件になった。阪神大震災ではちょうど神戸にいて、NYの911テロ事件(同時多発テロ事件)では米国にいたそうだ。記者としてはネタを全部取り逃がした! と口を尖らせるが、さぞ怖かっただろう。
神田 怖い……というのもありましたけどね。やっぱり、変わりました。もう、いつ死んでもいい生き方しよう、と。宵越しの金は持たないということは言えないけど。でもね、せっかくね、生まれてきたんだから……。
変な話をして申し訳ない、と前置きして神田氏の話は生命誕生の難しさに転じる。男の精子と女の卵子が結びついて人が生まれることは宝くじの当選確率よりずっと低いという。
桜子 だから命を大切にしろ?
神田 というよりも、何かをやるために生まれてきた、と思ったほうがいい。子孫を残すためだけだったら犬でも猫でもいい。人間ってね、何か違うんじゃないかなって。そう思う時、何かやれること――もっと自分で出来ることを考えた方がいいんじゃないかなと。そう考えれば、命や時間が惜しいと思うし、今なにをすべきか反省することもある。それでも人生やめたいな、と思うことがあるわけでしょ。JR飛び込み自殺とか。あの人達は15分位しか考えていなくて、遺書もなく突発的にここで逝ったら楽だろうと死んでいく。でもそれをした瞬間、どれだけ多くの影響があるか。
多くの人に恩恵を与える太陽のビジネスモデル
神田 太陽のビジネスモデル知ってます? 太陽はなぜ燃えているか。僕、太陽には、ありがとうのメッセージを届けたい。洗濯物を乾かしてくれる太陽は、自分では何も知らない。宇宙に一人ぼっちで、もし太陽に人格があったら、悩みながら燃えているかもわかんない。俺って燃えてるだけでいいのかな~って。
太陽系の中心で、多くの影響を与え、多大なる影響を与えている太陽。もしかしたら太陽それ自身は、周囲に多くの恩恵を施していることに気がついていないのかもしれない。それはひょっとしたら、人の存在と同じではないか。自分で価値に気がつかなくても、人は誰かの何かの役に必ず立っている。
神田 意図的であれ偶然であれ、選ばれている人達から生まれた。生まれたばかりの頃、両親が笑顔で育ててくれている時期を人は覚えていないですね。よく私なんて……っていう人がいるけど、生まれた時どんだけ周りの人が喜んだかって! あなたが生まれた瞬間の画像を死ぬ前にバーっと見せられたら、電車に飛び込むのを踏み止まると思うんですよね。
人の感覚は明らかに麻痺している。駅の構内に流れる人身事故のニュースを人が死んだと思わない。死を嘆くより、またかと溜息をつく。会社や会議に遅れることを心配し、舌打ちするような風潮。
神田 それをITがあると、なんとなくそこを分かち合うのがリアルな世界で、シンパシ-とかテレパシーに近いところにネットが来ている。ケータイからTwitterにアクセスして、友達が今何をしているか手の中でわかってくるようになると、テレビをつけるより面白いわけで。
インターネットは今後どう進むと神田氏は考えているのだろうか。
神田 やっぱり僕は、ネットは人間の身体能力のenhance(拡張)だと思う。だからクラウドコンピューティングというのはだんだんね、神への冒とくに近づいている。
神への冒とく? 私たちは尊厳なるものを汚しているのだろうか?
神田 だって、そうでしょう? 石油だって採る一方で、逆に石油を作るための葉っぱ一枚埋めやしない。もう仕方ない、進むしかないですよ。既に冒とくをやっているんだから。このまま行ったら、地球だって滅びますよ。
無言になる私に神田氏は静かに言った。「でもね、もしかしたら、気づいたので少しはいい方向に修正できるかもしれない。やってみないとわからないでしょう。一人一人考えていく社会ですよ。ミクロではわかるけどマクロで理解できる人なんてそうそういないけど」
神田敏晶氏のプロフィール(Toshiaki Kanda)
KandaNewsNetwork,Inc. 代表取締役
ビデオジャーナリスト
桜子のプロフィール(Sakurako/Cherry)
Interviewer&blogger 広告代理店・IT系企業を経て通信会社に勤務。5年前に 桜子の部屋・お友達の輪というビジネスリーダーズインタビューを単独で開始。2007年シリコンバレーで活躍する日本人を取材に行く。日本人・外国人を含めた約50名ほどのインタビューを過去に実施。(http://sakurako.cc/)
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