月刊アスキー 2008年1月号掲載記事
書籍をネットで購入することはいまや当たり前になったが、出版のもうひとつの柱である雑誌については、いまだにキオスクや書店で買うのが一般的だ。無料のネット情報に押され、縮小が止まらない雑誌市場だが、内容の専門性や編集・レイアウト技術による読みやすさの点で価値が残っている。
そこでネットで雑誌と読者を結びつけ直したのが、定期購読専門サービスのFujisan.co.jpだ。
しかし、検索エンジンによって能動化するユーザー動向を予測し、ネットで集めた専門家を効率よく組織化した編集制作のシステムは、むしろウェブ2.0の時代を先取りしたともいえる。
リストビジネスこそビジネスの基本
一見すると地味でニッチなビジネスを立ち上げたのは、日本のインターネット創世記から活躍してきた人物だ。その西野伸一郎氏はNTTのシステムコンサルタント出身だが、MBA取得のために留学したニューヨークで商業利用が始まったインターネットと出会い、その可能性に魅せられた。
「バンドをやってたせいか、インターネットってロックだなと(笑)。一般民衆にパワーがシフトするインフラだと」。
帰国後は検索ポータルのgooの立ち上げなどをしつつ、プライベートでもネットエイジの創業メンバーとなり、週末やアフター5を使ってネットベンチャーの育成を手がけた。その課程で日本にアマゾンを呼ぶ“信濃川プロジェクト”に関わったことが転機となった。「アマゾンがかっこいいと感じた理由のひとつに、プロの書評家に代わるユーザーレビューやアフィリエイトを初めて採用したことがあります。(今でいうウェブ2.0的手法である)これらを世の中に出したアマゾンにも“ロック”を感じました」。そしてNTTを退職して、シアトルのアマゾン本社に入社。西野氏自身がamazon.co.jpの創業者になった。
アマゾンに関わるまで出版に興味は無かったというが、書籍の責任者として現場の指揮をとりながら出版業界を学び、その価値と古い業界にITを導入するダイナミズムが面白くなった。「外資系社長のキャリアを歩むよりは」と独立し、まだ未開拓だった雑誌とネットの組み合わせに目を付けた。「雑誌の真空エリアはどこだろう」と考えたとき、定期購読に行き当たった。アメリカでは定期購読の新規獲得代行をする“サブスクリプションエージェンシー”という業種もあるが、日本では一般的ではない。そこで、新規獲得に管理の機能も加えることで、新しいビジネス形態を考え出した。
というのも、実は日本の出版社は一部をのぞき、定期購読に積極的ではない。特に個人情報保護法施行以来、顧客リストを自分たちが管理することすら尻込みする傾向があるという。「でもリストビジネスこそ、ビジネスの基本なんです。リストをいかに生かすかです」。安定した売上げを確保できる定期購読の購読リストは、多数の雑誌を同時に取り扱うことによって、各雑誌の潜在顧客リストにもなる。出版社単独よりもはるかに多くの販売機会を作り出せるわけだ。
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